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■電気自動車の発進加速は過大評価されている
電気自動車のことを「EV」や「BEV」といったアルファベットで記されている記事を目にすることも多くなっています。今回の記事ではバッテリーEVの略称であるBEVで統一しようと思いますが、街なかでBEVを見かけることも多くなってきたのではないでしょうか。
そんなBEVの試乗記では、いまだに「クラス上の発進加速をみせる」といった表記を見かけることも少なくありません。たしかにモーターというのは回り始めで最大トルクを発生するという特徴がありますし、スペックを見ても、かなりトルクフルな傾向にあります。
そのため発進加速が鋭いに決まっているという先入観を持たれがちです。それがモータージャーナリストなどクルマの走りを評価するプロフェッショナルの判断にも影響を与えているのは否めません。
しかしながら結論をいえば、BEVだから発進加速が鋭いとは限りません。それは現在、市販されているBEVの多くが多段変速機を持たないことを考えれば明らかです。
●同一モデルのパワートレイン違いで比較してみると
たとえば、三菱自動車のeKクロス・シリーズには、660ccの自然吸気エンジンとターボエンジン、そして100%モーター駆動のBEVと3種類のパワートレインが用意されています。
BEVの駆動モーターは、最高出力47kW、最大トルク195Nmというスペックで、ターボエンジンは最高出力47kW、最大トルク100Nmとなっています。
最高出力は軽自動車の自主規制値である47kW(64PS)と同じ数値になっていますが、モーターのほうがトルクが倍近いので、発進加速の力も倍増していると思いがちです。
しかし、ターボエンジンにはCVT(無段変速機)が備わっていますが、BEVバージョンの変速比は固定となっています。
具体的には、ターボエンジンの変速比は2.411~0.404で、最終減速比が6.540。一方、BEVのほうは8.153の最終減速比となっています。ターボエンジンのトランスミッションにおいて、CVTの変速比と最終減速比をかけた総減速比で表記すると「15.768~2.642」となります。
お気付きでしょう。BEVの変速比は8.153ですから、エンジン車のもっともローギアードな状態というのはBEVと比べて倍近い減速比になっているといえます。
●レスポンスの良さで体感的な加速が鋭いのは事実
変速比が大きいほど加速力は強くなります。仮に、全開で発進する時にエンジンも最大トルクを出せると仮定すると、じつは発進加速はさほど変わらないという風に計算することができます。
実際にはアクセルペダルの操作に対するレスポンスは、BEVのほうが圧倒的に優位なので体感的には加速が鋭いのですが、メカニズムとして出せる発進加速の差は最大トルクのカタログ値から想像するよりも小さいのです。
エンジン回転を上げてクラッチをつなぐようなローンチモードがあれば、場合によってはBEVのアクセル全開発進よりも素早く加速できる可能性もあります。
逆に考えてみましょう。eKクロスEVの最終減速比から、もしエンジン車と同じファイナルギヤだったとして、変速比はどのくらいに相当するのかを考えてみると約1.25と計算できます。これは一般的な多段トランスミッションでいうと3速相当といえるギヤ比です。
つまりBEVは3速固定の変速比で発進から最高速までカバーしているという風に理解することもできます。
3速固定で発進しているのであれば、いくらモーターの最大トルクが太いといっても、発進加速がその数値から想像するほど鋭くないという評価も納得できるのではないでしょうか。
いずれにしても、BEVのパフォーマンスを考える場合には、エンジンとモーターのスペックにおける違いに注目しすぎるのではなく、変速比・最終減速比といったギヤ比も含めてトータルで考える必要があるといえそうです。