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■輸入車に不慣れな者が左ハンドルのアメ車に乗った感想
これまで4回に渡り、キャデラックXT4というクルマそのものについて述べてきました。
今回は最終回。拝借したXT4では、トータルで400キロばかり走りましたが、左ハンドル、アメ車に不慣れな筆者がXT4に乗った感想を中心に述べようかと思います。
意外な発見もありました。
●ワイパーとウインカーのスイッチレバーが逆なのは不便だと思っていたが、考えてみたら…
XT4の試乗にあたり、編集長に与えられたテーマは、「左ハンドルに乗ったことのない者がXT4に乗るとどうなるか?」というものでした。
筆者とて左ハンドル車に乗ったことがないわけではなく、左ハンドル車に乗るのは、2006年頃に「スマート」の本を作るのに取材のために乗ったスマート以来。このときは、何の支障もなく乗ることができました。しょせんチョロQみたいに小さなクルマだけに、「意外と左ハンドルでもすぐ慣れるものだな。」と思ったものです。
ただ、右ハンドルの輸入車には何度も乗ったことがあります。覚えているだけでも、三栄に入った2004年以降、BMW5シリーズ、VWゴルフ、アルファロメオ(車種は忘れた)、ベンツCクラスにAMG CLA、BMWミニ、ルノー・カングー、シトロエンC5・・・近々日本市場に再参入するオペルにも乗ったっけ。
これらはすべて、ハンドルは右でもウインカーとワイパーのスイッチレバーが左右逆のため、右左折時のたびに「交差点ワイパー事件」を犯していました。罪状は「国産車の気分でいたため、乗れば必ず交差点でワイパーにガラスをから拭きさせたこと」で、前科の数は数え切れません。
右ハンドル・左側通行の日本は、インフラがすべて右ハンドル用にできているのだから、輸入車もすべて右ハンドルにすべきだ・・・これはときおり浮上する話で、筆者もそれをテーマにした記事を過去に手掛けた雑誌の中で作ったことがありますが、そのときには「ハンドル右左を選ぶことができるのなら、あとはひとそれぞれだから好みで選べばいい。ただ、左ハンドルのほうが不便な点は多いが。」と書き、その考えはいまでも変わっていません。
左ハンドルで不便なのは街のコインパーキングにドライブスルー、ガソリンスタンドのコイン洗車でお金を払うとき、そして路肩に駐車したときのクルマからの乗り降り・・・いずれも当の本人が不便なだけで、左ハンドルゆえに他人に迷惑をかける要素は見当たりません。
筆者は、輸入車のウインカーとワイパーのスイッチが右ハンドル車でも左ハンドル車用のままなのがイヤだったのですが、考えてみれば、それは日頃国産車に乗っている者が、職業柄、ある短期間に輸入車を借りて乗るチャンスが多いからそう思うのであり、輸入車を買ったひとには左右逆が普通になるのですから、当のユーザーにはイヤでも何でもなく、「イヤ」と思っていた筆者のほうが間違っていたのでありました。もっともそのユーザーが国産車との複数台持ちなら不便に思うかもしれませんが・・・
左ハンドル車に乗るのは、今回のXT4がスマート以来だったことはさきに書きましたが、このたび左ハンドル車について少し考えが変わったところがあります。それは「左ハンドル車のほうが、右ハンドル車よりも便利な点もあるではないか」ということです。
●見~つけた! 左ハンドル車に潜むちょっとしたメリット
左ハンドルで便利に感じた点は2つありました。
ひとつは「左側通行での左ハンドル車は、ドライバーが路肩寄りにいるため、右ハンドル車の場合よりも、対向車線側も含めて道路幅いっぱいに見渡すことができる」ということと、もうひとつは「左折時、自車の左側から路肩や歩道から自転車がやってきた場合、自分が路肩に近い分、発見が早かった」ということです。それとこれは右側通行の国では成り立たないことになります。
右ハンドル車だとドライバーは道の左端から少し離れた位置にいるぶん、右を見て左を見てということになりますが、左ハンドルだと右を見るだけで多くの情報が得られる・・・だから左や左後方はノーマークでいいとは言いませんが、しょせんは軽自動車ボディでしかない、車幅1600mmの自車両・旧ジムニーシエラよりも、1875mmのXT4での左折のほうが左後方から近づいてくる自転車が早いうちから視界に入り込み、発見がしやすかったことは確かです。XT4試乗第2回「サイドブラインドゾーンアラート」項の最後で「いいたいことがある」と書いたのはこのことで、道幅に対するハンドル右左の違いはことのほか大きいようです。
そのいっぽうで、対向車線側にも右折車両がある交差点での右折待ちのときは、左ハンドルのほうが対向直進車の存在をつかみにくいように思うのですが、これは右ハンドル車と大差ないように思いました。「左折時はハンドル右左の違いは大きい」のに、こと広い交差点に於いてはその距離差は無視できるほどらしく、イメージほど右折しにくいことはなかったのが奇妙なところです。
車幅1875mmには参りました。お借りした直後の乗り始め、乗り込んだときの最初の印象は、「わっ! 右側(つまり助手席側)のドアミラーがあんなに遠い!」というものでした。普段走らない東京・品川あたりということもあって、道幅、車線に対する自車間隔を把握するのにだいぶ時間がかかりました。こんなときに限って路肩に駐車しているクルマが多かったんだから!
筆者は5ナンバーサイズ派ですが、ワイドボディ車のよさを知ってはいます。自動車はサイズも室内幅も5ンバーサイズで充分と思っている傍ら、車幅1800mm近辺のクルマに乗る都度、隣の乗員が遠く見えるほどの広大さ、ワイドトレッドがもたらす走りのゆったり感、安定感、挙動は3ナンバーサイズ車ならではだなと思うし、「サスペンションのセッティングで3ナンバー車に乗っているかのように錯覚させる5ナンバー車はできないか」と考えもするのですが、XT4での感想も同じでした。
左ハンドル、ワイドな車幅に慣れてから残念に思ったのは、このXT4の良さをフルに発揮できる環境が、筆者の周辺には少ないことです。
アメリカ的なおおらかさを持つインテリアの中で大きなシートに身を沈めて操作の軽いハンドルを握り、13ものスピーカーを持つBoseオーディオ(Boseサラウンドサウンド13スピーカーシステム・標準装備)でいい音楽を聴きながら、低いエンジン回転数でどぉーっと大陸を横断するように淡々と走る・・・このような使い方が日常的に味わえるならXT4がほしいと思いました(財力があれば…)。このサイズを許容できる環境にお住まいの方なら、XT4を選ぶのもいいと思います。
XT4を借りている間、日頃国産車に乗っているがゆえに犯したミス回数をご報告します。
・「交差点ワイパー事件」の再犯回数:0回
これは初めてのことで、自分でも成長したなと思うのですが、問題はここからで、
・XT4で移動するのに、フロント右ドアの前に立った回数:7回
・XT4で移動するのに、助手席側に乗ってドアを閉めてから「あ。」と気づいた回数:1回
・きちんと左側の運転席に乗り込んだのに、シートベルトを引き出すのに上半身を右にひねった回数:計測不能
・・・・・。
「ワイパー事件」以上のことをしでかしています。成長どころか退化だ。どれもこれも初犯ですので大目にみていただければ。
●機種構成は3つ。売れているのはXT4プレミアムで、人気カラーはキャデラックイメージの黒
機種構成と販売動向について解説しましょう。
【機種構成】
日本市場に導入されているXT4は単純明快に3種。「XT4プレミアム」「XT4プラチナム」「XT4スポーツ」となります。
いちばん安いのが「XT4プレミアム」で、車両本体価格は570万円。安いとはいっても570万円ですから、ひとつ上の「XT4プラチナム」に対して安全装備、快適装備にわずかに差がつくだけで、ひととおりのものはついています。
ACCがただのクルーズコントロールになる、メーターのカラー液晶が小型のものになる、助手席のパワーシートが8ウェイから6ウェイになるなどがありますが、ACCに執着がないひとにはこの「XT4プレミアム」で充分でしょう。このような差がつくなら、オーディオもグレードダウンされそうですが、「XT4プラチナム」と同じBoseオーディオはそのままです。
「XT4プラチナム」は装備満載のモデルで、お値段670万円也。XT4プレミアムのクルーズコントロールがACCに格上げされ、前席シートのベンチレーション、ワイヤレス充電器などが標準化されます。もし筆者に財力があるなら、迷わずXT4プラチナムを選びます。いまや国産車では、壊滅状態になってしまったガラスサンルーフが標準装備! ただのサンルーフではなく、後席上までガラスになっているほどの大型版で、電動シェルフ付き。チルト&オープンは前半分だけですが、ふだん1人乗車がほとんどでも、広大なガラスによる明るい室内にしたいというひとは、このXT4プラチナムを選ぶしかありません。それにしてもこんなにいいもの、何で日本車は選ばないのかが不思議でなりません。
最後「XT4スポーツ」は640万円で、名のとおりXT4の中のスポーツモデルの位置付け。車両価格からもわかるとおり、下から順に「XT4プレミアム」「XT4プラチナム」「XT4スポーツ」なのではなく、上下関係にあるのは「XT4プレミアム」「XT4プラチナム」の2種であり、このふたつと少しオフセットしたポジションにあるのが「XT4スポーツ」と考えるのがよさそうです。
前2機種との主な違いは外観にあり、ドアハンドルやラジエーターグリルなどがめっきから車体色に変わるほか、ブレーキキャリパーがレッドになります。とはいえ、内装や走りのメカ部分にも違いがあり、装備構成は主にXT4プラチナムに準じているものの、XT4スポーツ専用に、運転席・助手席サイドボルスターパワー調整(背もたれサイドの電動サポート調整)やスポーツレザーのハンドル(他2機種は本革巻)、アルミのペダル、サスペンションがリアルタイムダンピングサスペンションに変更されます。
【販売動向】
GMジャパンの方にお願いし、2021年1月15日発表・翌16日発売から主に2021年内の販売動向を教えていただきました。
★機種別比率
・XT4プレミアム : 37.4%
・XT4スポーツ : 36.2%
・XT4プラチナム : 26.4%
★人気ディーラーオプション
ETC、フロアマット
機種別比率を見ると、価格の安い方から売れているように見えますが、もともとの生産台数に準じているとのことです。値段からしても、「XT4プレミアム」が多く売れるだろうという予測に基づいて生産計画を立てたのかもしれません。
【ユーザー層についてのGMジャパンからのコメント】
40代が36%で最も多く、職業別には会社員(36%)、自営業(34%)、会社役員(13%)、医師(11%)となっています。ミドルサイズSUV(XT4以上の大きさ)からの代替が最も多く、中型以上のセダン、クーペからも一定数あります。
■エピローグ・国産車に見慣れた者がXT4で「おっ!」と思った点
国産車ばかり見ていると、たまに触れる輸入車に「おっ、こんな考え方があったか」と思うことがあります。
ひとつは第4回で紹介したパワーリアゲートのスイッチデバイス。国産車にはない親切さがありました。
もうひとつは、安全デバイスを採り上げた第2回ではあえて書かず、今回までとっておいたのですが、「レインセンスワイパー」の中に含まれる「オートドライブレーキ機能」。「オートドライブ」ではないですよ、「オート」「ドライ」「ブレーキ」です。
レインセンスワイパーは、降雨時に雨滴を感知したらワイパーを自動で動かす機能で、特にめずらしくはありません。「オートドライブレーキ機能」とは、ワイパーの作動に合わせ、ブレーキパッドをローターに近づけて水分を除去し、制動力を高めるというものです。
もともとブレーキパッドは、小さな砂利などがパッドとローターの間に侵入しないよう、いくらか接触気味の状態にあるのですが、ワイパーの作動を雨天走行の判断材料とし、パッドをローターにより近づけて水分を積極的に除去。いままで無関係と思われ作動関係など認識すらされていなかったワイパーとブレーキパッドを、「雨降り」をというワードでつなげ、水による制動力低下の抑止に役立てるとは! パッドのコントロールはもとからあるABSのアクチュエーターが行っているはずで、だとしたらお金がかからないのもいい(たぶん)。
自動運転が視野に入ってくる時代ともなると、もうクルマはやることをやりつくし、新しい考え方はもう生まれないんじゃないかと思うことがあるのですが、探せばやることはまだまだあるものだと認識させられました。思いもかけないことふたつみっつをつなげて新しい便利・安全機能を生み出す余地がありそうです。
全5回に渡ってお届けしてきたXT4試乗記、最後は燃費の報告で終えることにします。
(文/写真:山口尚志)
■燃費報告
★トータル燃費:9.7km/L
★総走行距離:416.5km
★試乗日:2021年12月18日(土)~20日(月) ずっと晴れ、すべてドライ路面 A/CはほとんどOFF
(経路内訳)
一般道:東京都練馬区~新宿区~江東区、群馬県前橋市内、高崎市内 163.1km
高速道:
首都高11号線台場IC~C1都心環状線右まわり~5号線早稲田IC 13.6km
関越自動車道 往路 練馬IC~赤城PA(スマートIC) 111.2km 復路 赤城PA(スマートIC)~前橋南IC 30.6km 前橋南IC~練馬IC 88.5km
山間道:観音山3往復 9.5km(うち2往復は4WD走行)
【所感】
WLTC燃費もJC08燃費も公表されていないので、カタログ燃費達成率はわからない。車両重量1780kg、ターボ付2000ccエンジン、ときに急加速を試し、短いながらも山間道を走った結果であることを考えると、9.7km/Lという燃費は悪くないと思う。一般道では60km/h前後で、高速道路はほとんど90km/hで走ったが、ていねいに走れば10~12km/Lくらいまで届くような気がする。帰着時の燃料残量は全10ドット中2ドットで、そのときの給油量は42.89L。メーター上の残りの航続距離は167kmだが、計算ではそれを超える約176kmを走れるわけで、実用上は、1回の満タンで600km弱走れることになる。帰着時の給油は、出発時の給油機と同じ給油機で行った。
【試乗車主要諸元】
■キャデラック XT4 プラチナム(左ハンドル・7BA-E2UL型・2021(令和3)年型・9AT・ステラーブラックメタリック)
●全長×全幅×全高:4605×1875×1625mm ●ホイールベース:2775mm ●トレッド 前/後:1600/1600mm ●最低地上高:-mm ●車両重量:1780kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:-m ●タイヤサイズ:245/45R20 ●エンジン:LSY型(水冷直列4気筒) ●総排気量:1997cc ●圧縮比:- ●最高出力:230ps/5000rpm ●最大トルク:35.6kgm/1500-4000rpm ●燃料供給装置:電子制御燃料噴射(筒内直接噴射) ●燃料タンク容量:61L(無鉛プレミアム) ●WLTC燃料消費率(総合モード/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):-/-/-/-km/L ●JC08燃料消費率:-km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソン式/マルチリンク式 ●ブレーキ 前/後:ディスク/ディスク ●車両本体価格:670万円(消費税込み)