確率0.8%・独断と偏見と趣味でネチネチ選んだ、東京オートサロン2022のベスト3【東京オートサロン2022】

■勝手に選ばせてもらった、東京オートサロン2022の371分の3!

main
さあ、1位はどこかな?

昨年の東京オートサロン2021は、残念ながらコロナ禍によって開催が見送られましたが(バーチャルでは実施)、今年2022年は2年ぶりの実開催となりました。

毎年東京オートサロンをおとずれ、幕張メッセの西館・中館・東館・北館を埋め尽くすブース群を見るにつけ、日本にはクルマ関連の企業がこれほどあるのかと圧倒させられます。

1月14日(金)~16日(日)開催の東京オートサロン2022の総出展者数は371。コロナ禍の影響で例年に比べて数は減っているものと思われますが、それでも371各社が一堂に会すれば減った(?)実感はなく、会場は熱気に溢れていました。

本記事では、この371ブースの中から、筆者が独断と偏見と趣味で勝手に選んだベスト3をご紹介します。371分の3、すなわち0.8%のうちに入る3ブースはどこでしょう?

●第3位・スズキジムニーボディキット(GRAND PRIX)

2018年7月の現行ジムニー発表以降の東京オートサロンでは、多くのショップが、シルエットの似ているベンツGクラスか初代ジムニーを模したクルマを展示。ここでの反響を見て改造キットorパーツを販売するという例が増えています。

ただし、GRAND PRIX(グランプリ)のブースで展示していたこのクルマには完全にだまされました!

その様子を写真で再現してみましょう。

と、このような具合です。

jimny 1
GRAND PRIXの、SUZUKI JIMNY BODY KITをまとってベンツGクラス風にしたジムニー

筆者がどこでだまされたのか。要素は3点。

まずヘッドライトまわりの収まりが自然だったのと、前からフロントガラスに向かってV字に広がる段差付きのフードがきちんと再現されていたこと。この2つをまとめてひとつ。

2点めはボディ色が白だったこと。いちばん誤認識させたのは、実はサイド中腹をボディ前後に走る、ガッチリした黒のプロテクターとグリップ式のドアハンドル。無意識のうちに、この白い四角いボディとプロテクター、ドアハンドルの組み合わせこそが、筆者の中にGクラスのアイコンとして刷り込まれていたのでしょう。本気で「おろ、知らない間にGクラスのショートボディ版が導入されていたのか」と思ったものです(本当の話)。

これはすでに販売されているキットで、担当の方にお話を伺いましたが、キット価格は118万8000円。写真のクルマは専用? にあつらえたホイールも組み合わされており、こちらが32万7800円。合わせると151万5800円で、新車のジムニーをもう1台買うほどの金額となります。

jimny 6 door grip handle
Gクラスから持ってきたドアハンドル。元のドアハンドル孔はパテ埋めしたという
jimny 7 door mirror
ドアミラーも本家Gクラスからいただいてきた

ドアミラーとグリップ型ドアハンドルは本家Gクラスから持ってきたとのこと。国産車も多くが手で握って引くグリップ式になりましたが、オリジナルのジムニーはコストや省スペース性に有利な、従来型のフラップ式を用いています。フラップ式からグリップ式に変えるならドアパネル側の取り付け穴やくぼみ形状も変えなければいけないわけで、ただ外して取り付ければいいというものではありません。

そこでGRAND PRIXはくぼみをパテで穴埋め。Gクラス用グリップのために、異なる位置に取り付け穴とくぼみを設けました。これだけでも大変な作業だと思うのですが、それより10倍苦労したと思われるのは、ロック解除のリンク構造の改造。フラップ式は上に回転してドア開、グリップ式はボタン押しで開…ロック解除プロセスの軌跡がまるで異なります。ドア内部を0.1mm刻みでスペース確保しながらリンク構造を造り変えることに非常に苦労したといいます。

インテリアはシート以外に変わっている点はありませんが、おやっと目を惹いたのが、インストルメントパネル両脇の空調吹出口。こちらもGクラスから持ってきたそうで、エンジンをかけるとイルミネーションが灯って色も変わります。こちらはさきの151万5800円には含まれない別オプションです。

いやあ、このジムニーにはだまされた!

【GRAND PRIXホームページ】
https://www.gpx-gmbh.com/

●第2位・Hina doll car with KANTO(関東工業自動車大学校)

cube 1
関東工業自動車大学校の「Hina doll car with KANTO」。日産キューブがベースだ

関東工業自動車大学校のブースに、やけに派手な日産キューブがあります。

しかしよく見ると、ただ派手なだけのキューブではなかったのでした。「Hina doll car with KANTO」と名付けられたこのキューブが特徴的なのは外観の模様ですが、この模様の意味を知るには、まず荷室内に飾られた人形を見る必要があります。

cube 2
キューブ、というよりもHina doll car with KANTOの荷室に置かれた雛人形

荷室写真を見てください。写真左に男雛、右に女雛が座っています。車両右半分の青基調の模様は男雛の、左半分の赤基調の模様は女雛の着物の模様をそのまま写し込んだものなのです。

これら模様は8色もの色から構成されているわけですが、誰が見ても「しょせんカラーのテープを切って貼っ付けてるんでしょ?」と思うでしょう? ところがこれらはすべて塗料を吹き付けての塗装仕上げなのです。

8色ということは8回塗った8層なわけで、一番最初に塗ったのはゴールド。乾燥したらマスキングをして次の色という具合に繰り返し、このようなクルマに仕上げたということです。

塗装作業は学生たちが行ったそうですが、作業には緻密な集中力と根気が要求されます。色を塗る順番だって間違えてはいけません。

cube 11
六角模様の…
cube 12 with text
この部分がななめになっているのは、マスキング時に学生の集中力が途切れたために生じたもの。こういったハプニング話が見る者にはおもしろいのだ

ひとつおもしろい話だったのが、車体右後部にある男雛の六角形模様。写真で示している部分(黄色○内)の四角だけななめになっています。

実はこの部分をマスキングするあたりで手掛けていた学生の集中力が途切れて、中の4つの四角がななめになってしまったと。どの段階で気づいたのか聞くのを忘れましたが、「あ、あ~っ!」「バカッ! どうすんだこれっ!」という学生たちがにぎやかに騒ぐ光景が目に浮かぶようです。

cube 14 with text
隣接部の幅が均等でないのは、ボディが曲面で、歪ませずに六角形を描くことができないため、幅を変えることで辻褄を合わせてあるのだ。集中力が途切れたためではないので念のため
cube 13
六角模様の…

苦労の跡も見えます。六角形は規則的に並べたいところですが、車体の方は曲面でできており、きちんと敷き詰めたように並べることができません。ボディ曲面部は余儀なく六角形それぞれの間隔をわからないように大小を設けて並べています。

写真は同じ車体右後部のもので、六角形の間隔が他とは異なっていますが、これは何も学生の集中力が途切れたせいではなく、曲面であるがゆえの苦肉の策なのです。

もうひとつおもしろかったのが重量の話。8回も塗るとなるとなかなかの重量増しになると思い、「どれくらいの重量増しなのでしょう?」とたずねたところ、担当の先生は「そうですね、2~3kgぐらいじゃないでしょうか」と。意外なほど少ないですが、塗った直後はともかく、乾燥段階で成分が揮発するので重量増も大したことはないらしいです。すべてが塗装仕上げなので、指で撫でても(一部を除き)段差の感じられる部分はありません。

ところでなぜ雛人形なのか? 実は関東工業自動車大学校がある埼玉県鴻巣市はひな人形が特産の街で、このHina doll car with KANTOはそれにあやかってのクルマだったのです。

cube 15
鴻巣市の特産が雛人形とは知らなかった。このHina doll car with KANTO製作には、鴻巣市、鴻巣市観光協会のほか、タイヤ、ホイール提供でTOYO TIRESにRAYSが協賛している

このHina doll car with KANTOは鴻巣市とのコラボレーション作品で、市役所から要請を受けた鴻巣市観光協会が人形と人形の生地を提供したといいます。

それにしてもよくぞここまで仕上げたもの! 根気よくマスキングして雛人形の模様を塗装で造りあげた学生たちの手腕に拍手!

【関東工業自動車大学校ホームページ】
https://kanto-koudai.com/

●第1位・ライトアップシアター(トミカ)

light up theater 1
トミカの新製品「LIGHT UP THEATER」

今回の東京オートサロン2022で筆者がいちばん気に入ったのは、自動車メーカーやショップが自慢するカスタムカーでもなければ、カー用品メーカーブースのドライブレコーダーやナビでもなく、トミカブース内のガラスケースに展示されていた「ライトアップシアター」なのでありました!

見た目にはトミカミニカーを収めるただの透明ケースです。しかしこの製品を発案したのは、絶対に小さい頃からのトミカ好きを仕事にしたくてタカラトミーに入社した方に違いありません。「ただの透明ケース」では片付けるわけにはいかないアイデアが随所にあるからです。

「いいねえ」とニヤついた点は3つ。

light up theater 3
スイッチON!

ひとつめは、ケース天井部にLED照明を設けていること。それこそが売りで、それゆえに製品名が「ライトアップシアター」なわけですが、不況、コスト削減の時期にあって、LEDを3つも設け、しかもトミカに向けてそれぞれ角度をつけているのがいいですね。

コスト削減主義なら天面中央に裸電球よろしく、真下にひとつLEDを吊っておしまいにするところです。樹脂製の天面の角度づけなど、コストがかかっているに違いない! もともと樹脂製品は成型のための樹脂型が高く、余計なアイデアを付加するとコストがなお上昇するものです。

light up theater 5
明るくするとこのように
light up theater 4
照度は2段階。写真は暗い方

LED照度も2段階から選べますが、スイッチが2段になるわけで、これもコストアップの要因になったことでしょう。この「ライトアップシアター」を発案した方もえらいですが、この贅沢を許した上司も同じくらいえらい! 電源に必要なのは単三電池3本。ならばLED1灯につき単三電池1本なわけで(というほど単純でもないのでしょうが)、これまた贅沢。長時間のライトアップが楽しめそうです。

light up theater 8 with text
右の前後輪のホイールハウス部をタイヤ止めに差し込むのだが、前輪側は可動する
light up theater 10 with text
前に動かした状態

2点めはトミカの固定法です。ただ仕事で作った人ならタイヤ4つのくぼみを設けておしまいにすることでしょう。そんなぬるい方式を許さない「ライトアップシアター」発案者は、台座へのトミカ固定法に「タイヤ止め」を設け、右前後輪のタイヤハウスをタイヤ止めに差し込む方式としました。

「ここまで凝ったとは、よほど好きなんだな」と思うのは、ミニカーによって異なるホイールベースに対応していることで、前輪側のタイヤ止めを前後にスライド調整できるようにしたところが好き者の証拠!

light up theater 20
たまたま入っていた新宿の夜景写真を表示させたiPhoneをセットしてみました。アングルはめちゃくちゃですが、イメージは出ていると思います

3点めは、ケース樹脂部に出し入れ式のスタンドとホルダーを設け、スマートフォンをケース向こう側で固定できるようにしたことです。気に入った写真なり動画なりを背景にして、お気に入りトミカが美しくライトアップされるという仕掛け。

light up theater 16 with text
ステージ手前の透明な四角は、スマートホンからの光を透過させ、トミカをショーアップさせるためのもの

これだけでニヤつきましたが、トミカを置くステージ手前にある6つの透明な四角でますますニヤつきました。これは専用アプリを使って背景写真を表示させるとき、液晶下部に表示したカラーバーの光を透過させ、トミカをいわばショーアップさせるためのものです。

この記事を書いている最中、「ライトアップシアター」本体がないのに手元のiPhoneでアプリだけダウンロードしてみましたが、カラーバーの高さ調整ができるわ、選べるカラーは単色、混合含めて15色あるわ、点灯パターンは「ロマンティック」「スピード」「ミステリアス」「パーティ」「ゴージャス」「ポップ」の6とおりあるわで、その凝り様は本体以上。

「人生、好きなことや趣味を仕事にするのが理想」といわれるいっぽうで、「趣味や好きなことは仕事にしないほうがいい」という言葉もありますが、この製品は明らかに前者によるもので、「好きを仕事に就いたことで生まれた作品の好例」と、ためらうことなく断言してしまいましょう。

それにしても、トミカシリーズにはトミカを収めるケースも販売されていますが、ましてやLEDやスマートフォンが全盛の時代なのに、なんでいままで思いつかなかったのだろうと思わせられたのが「ライトアップシアター」です。

筆者は小さい頃、トミカのほか、同じシリーズで売られたガソリン給油機や信号機、洗車機を持っていましたが、いまでは「トミカタウン」として、消防署に警察署、ENEOSガソリンスタンドにスシロー、セブンイレブンといった建屋の模型もラインナップしています。実在する企業の看板ロゴを用いたものもあるのですから、自動車メーカーと手を組み、「TOYOTA」「LEXUS」「NISSAN」「HONDA」「MAZDA」「MITSUBISHI」「SUBARU」「SUZUKI」「DAIHATSU」の看板ロゴを入れれば、ディーラーショールームのようなライトアップシアターが出来上がるでしょう。第2弾としてぜひ発売してほしいものです。

トミカの対象年齢は3歳以上であるのに対し、この「ライトアップシアター」のそれは14歳以上。しかしいい年をした大人が買ってもおかしくはなく、訪ねた先の部屋に飾ってあれば「いい趣味ですね」といいたくなる内容を持っています。

発売は東京オートサロン2022開催中の2022年1月15日。色はソリッドブラックとクールホワイトの2色で、お値段はちょっとお高い2970円(税込み)。しかしこれだけ凝った内容ならこのお値段もうなずけるというもので、筆者はライトアップシアターのクールホワイトを買おうと思います。

トミカ好きのあなた、おひとついかがでしょうか。ただし、ライトアップされたトミカを眺めてひとりニヤニヤしているところだけはひとに見られない様、注意したいものです。

以上、東京オートサロン2020で見つけた、私のベスト3でした。

(文・写真:山口尚志

【関連リンク】

【ライトアップシアター特設ページ】
https://www.takaratomy.co.jp/products/tomica/tomicabrand/theater/

【タカラトミー内、トミカトップページ】
https://www.takaratomy.co.jp/products/tomica/