ドリフト派押しのヤンチャなGR86を井出有治が乗ったら、峠の速度域ならしっかりとグリップ感も味わえた

■サーキットでは分からない、GR86の走り味とは?

●ワインディング(公道)なら速度域も低いからグリップでグイグイ、イケる

スバルBRZは2021年7月29日に、トヨタGR86は10月28日にそれぞれ発表・発売されたこの兄弟2車。

元F1ドライバーで現役レーサー&クリッカーでは試乗テストドライバーとして活躍頂いている井出有治さんに、7月中旬、プロトタイプ(といっても市販バージョンとほぼ一緒)をサーキット試乗していただいています。

井出有治+GR86
サーキットではドリフトしちゃうGR86でしたが峠では? 乗ってみた

その際、井出さんは「情熱のGR86、クールなBRZ」と、2車の明確な違いを教えてくれました。

別の言い方をすれば、「ヤンチャにドリフトを楽しむGR86と、大人がしっとりかつタイムアタックできるBRZ」。ボディの基本設計は同じでも、足まわり他、個々のセッティングを含めたコンセプトの違いで、性格はまったく違うということが判明しました。

「サーキットってね、まぁいってみれば特殊な場所。その一番は、路面が一般道とは別モノのグリップ力を持っているということ。18歳で免許取ってすぐ、初めてマイカー(ロードスター)でサーキット走行したときなんか、『あれ…オレのクルマってこんなに足まわりフニャフニャだったっけ!?』ってビックリしたくらい。路面が違うっていうことは、タイヤの限界も速度の限界も一般道とは全く違うっていうことだからね!」(井出)

井出有治+GR86
峠のスピード域ではリヤが滑ることなく安心して踏んでいける

「それにね、サーキット試乗では分からないことが、公道では現れてくることが多いんです。なので、今日はテストといえど公道(箱根の峠)だから、常識(道交法?)の範囲内のスピード域と、渋滞時などの超低速域で、このGR86を試してみますね!」(井出)

●低速域での突き上げ感は、その先の速度のためにガマン?

これはまず、後席や助手席に同乗した私、クリッカー・やすのの感想ですが…腰にクル!

なにが?って、超低速域の駐車場から道路へ出るまでとか、低・中速域での工事中の段差や路面のうねりからくる振動とかがモロに体に響くのです。ステアリングを握っている井出さんも、「いや~これクルね! オシリが凹凸で浮くくらい」と。

「メルセデス・ベンツのAMGやBMWのMなどのメーカーチューンされているクルマでも、足まわりは通常グレードより締め上げてはいるものの、不快という振動は乗員には伝わらないよね。それにチョイ乗りしたBRZも超低速時のゴツゴツ感はあるものの、GR86よりは振動を吸収してくれてマイルドでした。コレはスプリングのバネレートの違いかと。GR86はフロント28N/mm/リヤ39N/mm、BRZはフロント30N/mm/リヤ35N/mmと、前後のバランスが違うことで、後席に乗ると特にリヤの固さを感じるんだよね」(井出)。

確かに。

GR86とBRZの一番の違い
GR86とBRZの一番の違いはコレ

「AMGやMなどでの、スプリング自体はそれほどレートの高いものは使わずに、ダンパーの減衰で腰を出す…というセッティングが、しっとり感もある足と言えます。

でもその違いって、ダンパーの『モノの良さ』によるものが大きいのだと思うんです。スプリングとのバランスウンヌンではなく、ダンパー自体の素性の良さが大きく関わっているのかと。

GR86は高速で走ったとき、荷重が高くかかったときに踏ん張らせるのを、ダンパーではなくスプリングに依存しているのかな。ダンパー自体の減衰があまり仕事していないような、バネに依存している足の硬さですね。前回、サーキットの全開テストでもその点を感じはしましたが、低・中速域での一般道のほうがより強く感じます。

サーキット走行やワインディングをハイスピードに攻められることが前提であれ、友だちや家族を助手席や後席に乗せる機会も多いのだから、コストの問題もあるかとは思いますが、ここはもうちょっと仕事のできるダンパーを奢ってあげたいところですね」(井出)。

井出有治+GR86
スプリングとのバランスというより、ダンパーが仕事していない感じ?

じゃ、それを解消するにはどうチューニングしていけばいいですか?

「スプリングのバネレートを下げてみてはどうでしょうか。フロント28N/mm/リヤ39N/mmのスプリングレートを若干下げただけでも、低速街乗り時のビックリするくらいなゴツゴツ感を少しは解消できると思いますよ」(井出)。

しかし、その低・中速域のゴツゴツ感も、なんだかすでにアフターパーツでチューニングされているクルマに乗っている感もあり、剛性アップされたボディはしなりによって振動を吸収せず足がしっかり動いていることを体感できる…ともいえるのではないでしょうか。

●中速~高速になればなるほど、ネガな部分が無くなるのはサスガ!

井出有治+GR86
GR86はサーキットではなく、峠のスピード域で走ったほうが気持ち良さが味わえますね(井出有治)

「でもね、ワインディングをチョイ攻めしてみると、GR86のこの足の感じは丁度良くなるんです。コーナーに入ったときもしっかり踏ん張ってくれます。トレース性も良いし、ボクの意のままにコーナリングを楽しむことができます。

しかし、ワンステップ上がって『その先の速度』でコーナーに突っ込むと、サーキットで感じた『お尻ハッピー♪』なドリフト感が顔を出してくるんですけどね!

でもまぁ、スポーツカーだし、中速以上で威力を出すこの足まわりセッティングだから、低速域での凸凹で突き上げ感が出るのはしかたないのかな?」(井出)。

●2.4L化で強化されたミッション系

2Lから2.4Lになったことで、マニュアルミッションも大幅進化を遂げているGR86。従来はシンクロの部分が破損しやすかったり…という弱点を強化。

低温時はミッションオイルを粘度の低いものにしたり、2速は入りやすさのためにギヤ同士が当たるところにニードルベアリングを追加したり。また、シングルコーンの内側にカーボンを貼り付けて耐久性をアップしたそうです。

また、シフトレバーの構造も、入力がゆっくりの時は柔らかい剛性感、速いときはレバーの変形を押さえる剛性感を得られるような2段階の作りになっています。

「それ、感じますね。とにかくマニュアルミッションの操作はギヤに入るタッチも良く難無しです。

GR86エンジン
2.4L水平対向4気筒のFA24エンジンのパワー&トルクは、235ps/250Nm

ATもスポーツ感があるというか、アクセルに対してのレスポンスがイイです。その反面、渋滞時、ブレーキペダルから足を離すと、普通だとトロ~っと動き出すところが、結構な勢いで5km/hくらいでスーッと進む。また、止まりかけの時もなんか後ろから押されてるような? その感じ、ブレーキが効きづらい?と勘違いしちゃうかも。でもコレ、アクセルに対してのレスポンスがイイことによるスポーツ感覚…っていうのかなぁ」(井出)。

ATは、S(スポーツ)モードでの自動変速ロジックを見直したとのこと。旧型ではブレーキを激しくしないとSモード制御の介入にならなかったのが、新型ではSモードにいれた時点でしっかりシフトダウンしたりスポーツ走行に対応できるよう、サーキットでもパドル使わなくてもSモードなら思ったようなギヤチェンジがされるという作りにしているそうです。

「ATのレスポンスは、空回りしている感が無くダイレクト感があっていいですね。でも、トラックモードで走っているとき、パドルにしてもすぐにATに戻っちゃうのはなんでなんだろ? もうちょっと引っ張りたい!ってときにATに戻ってギアがアップしちゃうんだよね。

でも、このスピーカーから出てくるアクティブサウンドコントロールは作った感も無く気分も上がってイイんじゃない?」(井出)。

●インテリアの質感はイイ感じ! 車高下げは必須!?

インテリアやメーターの感じは井出さん好みですか?

GR86のコクピット
無駄なものが無く、ドライビングに集中できるGR86のコクピット

「サーキットで走るとき、メーターはタコくらいしか見ないボクだから、この間のサーキット試乗の時はあまり感じなかったんですけど、メーター回りは全体的にシンプルで見やすいし、メーターのディスプレイも走行モードによって変わるんですね!(ソコ気付くの今かよ!笑)。

インテリアはデザインや質感も雰囲気があり、しかも高級感もある感じ。コクピットまわりも視界を邪魔するような余計なものがないので、ドライビングにも集中できます。シフトノブの形もシックリくるし、シートも程よくいい感じにホールドしてくれるしね。ドライビングポジションも従来から5mm下がっていることで、低重心化と、低い位置でドライビングすることで『スポーツカーを運転しているんだ!』という気持ち良さも味わえる」(井出)。

GR86のタイヤ&ホイール
RZのタイヤサイズは前後とも215/40R18を履く
GR86のタイヤ
SZは215/45R17サイズ

「気になるのは、タイヤとフェンダーとの隙間! これはタイヤチェーンの規制があるからしょうがないし、トヨタの方々もきっと心の中では『…ウ~ン』って思っているのでは? タイヤのトレッド面が内側までまる見えくらいの車高の高さ、ココはちょっと下げてカッコよくしたいですよねー」(井出)。

GR86/BRZの開発でターゲットとしたのは、ポルシェのケイマンとマツダのロードスターだとのこと。なんだか納得です。

井出有治
峠の速度ならGR86もBRZもさほど差は感じないかな?

「GR86/BRZ のワンメイクレース、2022年はこの2.4Lにチェンジするそうなので、そのマシンセッティングも気になりますね!」(井出)

GR86/BRZもスポーツカーを堪能できるけど、そのための締め上げた足まわりのハードさは、(メーカー)チューンドカーの証。低速域での乗り心地の良さは求めちゃいけない!ということにします。

GR86のリヤシート
大人は座れないリヤシート。2シーターと割り切ったほうがいいかも?

そうそう、後席はチョ~狭いです! 手足の長い井出さんがドライビングポジションを決めると、リヤシートは正座しないといられないほど、足の場所は無いです。2シーターもしくはペット用と割り切るのが賢明でしょうか。

(試乗インプレッション:井出 有治/文:永光 やすの/画像:小林 和久)

GR86の主なスペック
GR86の主なスペック
BRZの主なスペック
BRZの主なスペック

◼️SPECIFICATIONS
車名:TOYOTA GR 86 RZ/SUBARU BRZ S
全長×全幅×全高:4265×1775×1310mm
ホイールベース:2575mm
車両重量: 1290kg(MT)/1270(AT)
エンジン:水平対向4気筒2.4L/D-4S(筒内直接+ポート燃料噴射装置)
最高出力:173kw(235ps)/7000rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/3700rpm
トランスミッション:6速MT/6速AT
サスペンション(F/R):ストラット式独立懸架/ダブルウィッシュボーン式独立懸架
ブレーキ(F/R共):ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(F/R共):215/40R18
価格(税込):GR86 3,349,000円(MT)/ 3,512,000円(AT)/BRZ 3,267,000円(MT)/ 3,432,000円(AT)

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【関連リンク】

TOYOTA GAZOO Racing GR86
https://toyotagazooracing.com/jp/gr/86/

SUBARU BRZ
https://www.subaru.jp/brz/brz/

この記事の著者

永光やすの 近影

永光やすの

「ジェミニZZ/Rに乗る女」としてOPTION誌取材を受けたのをきっかけに、1987年より10年ほど編集部に在籍、Dai稲田の世話役となる。1992年式BNR32 GT-Rを購入後、「OPT女帝やすのGT-R日記」と題しステップアップ~ゴマメも含めレポート。
Rのローン終了後、フリーライターに転向。AMKREAD DRAGオフィシャルレポートや、頭文字D・湾岸MidNight・ナニワトモアレ等、講談社系車漫画のガイドブックを執筆。clicccarでは1981年から続くOPTION誌バックナンバーを紹介する「PlayBack the OPTION」、清水和夫・大井貴之・井出有治さんのアシスト等を担当。
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