スバルのスポーツセダンWRX S4が初のフルモデルチェンジ。排気量を2.4Lにアップ

■排気量アップ、パワーダウンで走りはどうなった?

●FA24DITエンジンはローブースト仕様

2022 WRX S4
運転をジャマしない新制御CVTがハンドリングに集中して楽しめるスポーツセダンに貢献している

北米でフルモデルチェンジを発表、日本でもティザーが盛り上がっていたスバルのスポーツセダン「WRX S4」がフルモデルチェンジを発表しました。

大まかなプロフィールを記すと、新世代のSGP(スバルグローバルプラットフォーム)で、インナーフレーム構造を採用したボディは、すでに発売されているステーションワゴン「レヴォーグ」と同様。外観でもフロントドアやヘッドライトなどはレヴォーグと共通となっています。

つまり、走りに定評あるレヴォーグの4ドアセダンであり、ボディ剛性が高まっていることが期待できるというわけです。

エンジンは総排気量2387ccのFA24DIT(ガソリン直噴ターボ)を積み、トランスミッションは進化したCVT「スバルパフォーマンストランスミッション」となっています。従来型のWRX S4は2.0Lターボでしたから、地力を高めたことが想像できます。

とはいえ、新しい2.4Lターボは環境性能などに対応するために最高出力は275馬力に抑えられています。先代WRX S4が搭載していた2.0Lターボが300馬力でしたから、スペック的には退化したという風に見えます。はたして、その走りはどうなっているのでしょうか。

FA24DITエンジンのスペックは最高出力202kW/5600rpm、最大トルク375Nm/2000-4800rpm

新旧を比較した結論をいえば、最高出力では劣っていますが、新型が遅いということはありません。

今回、袖ヶ浦フォレストレースウェイにパイロン規制をした特製コースで試乗したのですが、下りながら3コーナーにアプローチする辺りで記録した最高速は、旧型が140km/hほどで、新型は142km/hとなっていました(GPS測定)。非常に短い時間でメーター読みでいうと150km/hに達するあたりは排気量アップの効果を感じます。

2.4Lターボはけっして地力で劣っている感じはしません。それでも、ピークパワーが低くなっている理由はどこにあるのでしょうか。インフォメーションディスプレイにブースト計を表示したところ、その理由の一端を確認することができました。

先代のFA20DITエンジンのマックスブーストは150kPaあたりでしたが、新型では100kPaほどになっています。排気量の余裕を活かしたローブースト仕様にセットアップされているのです。

●グレードはGT-HとSTI Sport Rの2タイプ

2022 WRX S4
新型WRX S4のグレードはGT-H(左)とSTI Sport R(右)の2タイプ

そうしたエンジンセッティングはレスポンスに効いてきます。前述した「スバルパフォーマンストランスミッション」はCVTのウィークポイントを感じさせない変速比をキープするセットアップになっていますから、コーナリング中のアクセルコントロールも楽しめる2ペダルスポーツになっています。

スバルパフォーマンストランスミッションはマニュアル操作したときの変速スピードも高めているということですが、変速はクルマに任せてドライバーはハンドリングをコントロールすることに集中したほうがスポーツドライビングの楽しみ方としては合っているように感じました。

4WDターボのセダンというと加速性能重視のキャラクターと想像しがちですが、新型WRX S4については、生粋のハンドリングマシンといったテイストに仕上がっています。そうした走りには、曲がる性能を高めるべくセッティングされたVTD-AWD(不等&可変トルク配分電子制御AWD)も効いています。

2022 WRX S4
コクピットの雰囲気は、兄弟車といえるレヴォーグとほぼ同じ

なお、新型WRX S4は、大きくGT-HとSTI Sport Rという2つのグレードにわけられますが、エンジンや駆動系といったメカニズムは共通です。

2022 WRX S4
アイサイトX搭載車には11.6インチの縦長ナビが標準装備

STI Sport Rのほうにはレヴォーグでもおなじみ、電子制御サスペンションなどで総合的にキャラ変できる「ドライブモードセレクト」が標準装備となっているのが大きな違いです。

また、兄弟車といえるレヴォーグ同様、新型WRX S4においても条件付きでハンズオフを可能にした先進運転支援システム「アイサイトX」も装着することができます

●個性的なルックスは空力追求のため

2022 WRX S4
レカロシートはSTI Sport Rグレードにメーカーオプション設定。標準シートも十分なホールド感を持つ
2022 WRX S4
WRX S4 STI Sport Rグレードの後席

スポーツドライビングを楽しむ上で重要なのはドライビングポジションですが、新型WRX S4のフロントシートは非常にホールド性が高く、そもそものシャシー性能向上によって横Gが高まったコーナリングを難なくこなしてくれるコクピットになっています。

STI Sport Rにはメーカーオプションとして専用レカロシートが用意されているので、なおさらです。

なにしろ旧型と比べると、あらゆるコーナーでボトムスピードが上がっています。とくに横Gのかかる大きめのコーナーではボトムで10km/h以上の違いがありました。これこそ新型WRX S4のポイントで、安定してハイスピードで曲がることができるのです。

それだけではありません。ハザードランプが点滅するようなハードなブレーキングでも後輪接地感は抜群で、安心してフルブレーキにチャレンジできるのです。

2022 WRX S4
エクステリアの樹脂パーツは空力テクスチャーが表面に刻まれたもの。素地のままに意味がある

そうした安定感に寄与しているファクターのひとつが空力性能です。新しいWRX S4は前後バンパーやフェンダーに樹脂むき出しのパーツがついていて、どこかSUVのような雰囲気になっています。

しかし、これは表面に空力性能につながるヘキサゴンパターンを刻まれた立派な空力パーツなのです。ですから、素地むき出しであるのは必然なのです。

具体的には、ゴルフボール表面のディンプルのような剥離を抑制することが狙いで、車両周辺の空気の流れを均一化することが可能になっています。

それによって、ボディに掛かる外力(圧力変動)を抑制し、挙動を安定させるのです。さらに、空気の剥離による圧力抵抗を減らすことで空気抵抗を低減させることにも寄与しています。

2022 WRX S4
メーカー希望小売価格は、GT-Hが400万4000円~、STI Sport Rが438万9000円~

具体的には、これらの樹脂空力パーツによって高い直進安定性と乗心地の質感向上、挙動の安定性を実現しているのです。

最上級グレードでは500万円に迫る価格帯となっていますが、少なくともドライビングフィールについては価格に見合う高いレベルにあると感じました。個性的なルックスが気に入れば、選んで後悔のないスポーツセダンに仕上がっているといえるでしょう。

●メーカー希望小売価格

メーカー希望小売価格(税込)は以下の通り(EXはアイサイトX装着車)。

GT-H:400万4000円
GT-H EX:438万9000円
STI Sport R:438万9000円
STI Sport R EX:477万4000円

山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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