雨天下の「ハイドロプレーニング現象」を起こさないためにはどうすればいい?

■重いクルマをも簡単に浮かせてしまう! 恐怖のハイドロプレーニング現象

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路面がぬれているていどの雨ならまだいいのだが…

日本は1年を均すと3日に1度、雨が降るという国です。

この何年かは気候変動により、全国どこかしらで豪雨災害が起きるという現状。そのたびに「50年に1度の大豪雨」というニュースが飛び交います。

ということで、梅雨どきや台風の時季には、なおのこと警戒しなければならない「ハイドロプレーニング現象」について解説していきます。

 ●「摩擦」「摩擦係数」について知っておこう

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自動車は摩擦抵抗(赤線部)があるからこそ走ることができる。摩擦がなければないでタイヤは空まわりし、走らなくなってしまうからだ。

クルマは、タイヤと地面との間に生じる摩擦(すべりにくくする働きのこと)の力によって走ります。タイヤが路面をしっかりグリップするからです。「乾燥した」路面の凹凸と弾性のあるタイヤがお互いに噛み合うことで摩擦が生じ、タイヤが回転しながら路面を蹴っ飛ばすからクルマは走ることができるわけです。

では、もし摩擦がなければどうなるか? タイヤは空転するばかりでクルマは前に進むことができません。これはガラスや氷のような、表面がツルツルのものを想像するとすぐにわかると思います。いくらタイヤが新品でも、相手が凹凸のないツルツルであればタイヤは空まわりしてしまいます。

さきに摩擦がなければと書きましたが、正確には冬場の北海道などの道に見られる、鏡のように磨かれた路面の氷(ミラーバーン)や雪の上を走るときでも摩擦力は発生しています。その摩擦力が極度に小さくなっているだけなのです。

見たことや経験している方もいらっしゃると思いますが、このような場所でアクセルを踏み込んだとき、タイヤはかなり空転しながらも、外の景色がゆっくり動く程度の速さでクルマが動くには動くのです。これはわずかながらも摩擦力が作用しているからです。この摩擦力よりもクルマがその場にいようとする力のほうが大きいときは、クルマは進みません。これが大雪のニュース映像などでよく見るスタックの状態です。

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ただでさえすべりやすい砂利道。ここに雨が加わると、また摩擦係数が変わり、さらにすべりやすくなる。路面に応じた速度調整が求められる。
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ただでさえすべりやすい砂利道。

その摩擦力は、タイヤと相手の路面によって変わります。ふたつの物体の、お互いの滑りやすさを指数を表したものを「摩擦係数:ミュー(μ)」といいます。さきほど「『乾燥した』アスファルト面」と書きましたが、乾燥路面(ドライ)とミラーバーンはそれぞれ(クルマを動かすシチュエーションに於いての)最良と最悪の状態で、その間にもいろいろな状態があります。

運転しやすい側からイヤな方に順に挙げると、

ドライ路面(μ:0.8前後)→ウェット路面(0.6-0.4)→積雪路(0.5-0.2)→氷結路(0.2-0.1)

といわれています。もちろん路面の種類は他にいくらでもあり、砂利道などは石の大小で摩擦係数は変わってきます。泥濘地(どろんこ道)、林道(土道)でも摩擦係数は変わってくるわけです。

●高速になるとクルマは浮く!

見るクルマ見るクルマが水しぶきをあげるほどになっていたら警戒心を持とう。

雨が降ったときの路面状況の変わり方はいくつか段階があります。まずアスファルトの面がわかる程度の、いわば道の表面がただ濡れている状態。雨量が増えると路面のうねりや轍(わだち)部分にいくつか水たまりが表れてきます。どのみち、雨の日は速度を落とすのが原則なのですが、特に表面に空模様が映るほどの水たまりが出てきたら要注意です。路面の凸凹を吸収するほど厚みのある水たまりということになるからです。

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タイヤが水を断ち切ってくれるほど低速のうちはまだいいのだ。これがある速度以上になると・・・

この水たまりを通過するときの速度が低いうちはまだいいのです。低い速度のタイヤに応じて形を変えて逃げてくれるからです。タイヤ側からすれば、速度が低いゆえに確実に水を断ち切っているわけです。

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路面との間に生じた水膜の上にタイヤが浮いてしまう。信じられないが、本当に起きることなのだ。これがハイドロプレーニング現象。

これがある速度から上になると、タイヤと路面の間に水膜が生じ、この膜の上にタイヤが浮いてしまいます。これが「ハイドロプレーニング現象」です。

水の摩擦係数の低さは、前項の氷や雪の比ではありません。タイヤが浮くということは、つまりは硬い路面をつかんでいないということですから、このときアクセルを踏んでいればタイヤは空転、異常に気づいてブレーキペダルを踏んでも制動力は働かず、ハンドルを右左にまわしても、タイヤは向きを変えたまま、クルマ全体はそれまでの惰性で水の上を滑るばかり。

タイヤが水膜に浮いたその瞬間から、クルマは流れる川面に浮かぶ葉っぱと同じです。こうなってしまうと、惰性で漂流し、途中でどこにもぶつからずに元に戻ることを祈るしかありません。とにかくいったんこの現象に陥ったら、できることは何もないのです。

●ハイドロプレーニング現象は、タイヤの新旧より水量のほうが関係あり

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ハイドロプレーニングに陥ったら、タイヤをロックさせようと、右左どちらに向けようと、噛みしめる路面と離れているのだから、こうなったらなすすべはないのだ。誰もがパニックになることまちがいなし!

ハイドロプレーニング現象は、時速60km/hでも起きる可能性があるといわれています。ただ、タイヤが浮いたり滑ったりは、そのときのタイヤの状態と、刻々と変わる路面状況次第なので、高速道路といわず、いかような速度でも起こりうると考えたほうがいいと思います。

新品タイヤ+大水+ハイスピード、溝減りタイヤ+水たまり+中低速…。組み合わせは違っていても、ハイドロプレーニングが起きる可能性は同じだと思ったほうが賢明です。

よく高速道路で水がたまっている轍であるのにもかかわらず、水しぶきを上げながらハイスピードで走行するクルマを見かけますが、とんでもない危険行為です。そのような無謀運転をしないのはもちろんのこと、もしまわりにそのような走りをしているクルマを見かけたら、巻き添えにならないよう離れたいものです。

●ハイドロプレーニングの発生は、溝の減り具合がキー

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溝や空気圧の確認がとにかく重要なのだ。

タイヤの溝にはいくつか役割があります。排水機能、駆動力伝達、ブレーキ力の伝達などです。他にもいくつかありますが、大きな目的はやはり排水機能です。雨天走行で水たまりに入ったとき、タイヤと路面の間に挟まれた水の逃げ道の役割を果たします。

タイヤのトレッド面が断ち切った水を溝に逃がし、雨水の下にある路面をグリップするということです。この溝が浅くなったり、レーシングタイヤのような溝無しのスリック状態だと、踏まれた水、特にタイヤ幅中央の水ほど逃げ場はなくなり、タイヤと路面に水がはさまれるだけですから、タイヤは浮く道理となることがわかります。

どのような安全運転も、いかに先進的安全デバイスも、最終的にはタイヤが正常であってこその話です。タイヤの空気圧、溝、傷の有無の確認は、平素から怠りなく行うようにしましょう。

(文・写真・イラスト:山口 尚志