トヨタの新型アクアは知性と感性が融合したスマートコンパクト。エモーショナルなデザインを徹底検証

■「溶けたチーズ」とかけて「バランス感覚」ととく。その意味は?

●知性と感性を刺激するデザイン

アクア・メイン
基本シルエットを踏襲したスタイリング

7月19日、10年ぶりにトヨタの「アクア」がフルモデルチェンジされました。

基本的には正常進化だと言われていますが、エクステリアデザインにはどんな変化があったのか。あらためてじっくり検証してみたいと思います。


始めにサイズを見ると、全長と全幅はそのままに、全高が先代比で30mm、ホイールベースが50mm拡大されました。いずれも課題であった後席居住性への対応で、順当な変更です。結果、たしかに基本シルエットは踏襲されています。

ただ、それでも新型に感じられるイメージの変化は、デザインコンセプトである「Harmo-tech」(知性・感性を刺激する、人に寄り添う先進)に理由がありそうです。

もともと初代は、いわば「プリウス」の弟的な存在で、ウエッジの利いたシンプルな5ドアスタイルをコンパクトサイズに凝縮したもの。「筒」をモチーフにしたシャープなショルダーラインを筆頭に、プリウス同様比較的端正な佇まいを持っていました。

アクア・フロント
微妙な形状のフロントグリル

しかし、マイナーチェンジのたびに微妙な曲線や曲面が増え、次第に初期の端正なイメージは薄れて行きました。

あたかも、火にかざしたチーズの塊がトロリと溶けて行くような変化です。新型は、その後期型のイメージを引き継いだように見えます。

たとえばフロントグリルの、楕円でも台形でもなく「こういうカタチ」と言えない微妙な形状。そこに被さる、上辺をカットした実に有機的な形状の金属モールも微妙さを強調しています。

また、サイドビューでは先代の筒は消え、代わりにフロントフェンダーからリアピラーに駆け上がる面と、大きく張り出したリアフェンダーのふたつの大きな面で構成。ここは、トヨタ自身が「エモーショナルかつ動感のあるエクステリア」と表現する部分で、やはり「溶けたチーズ」方向です。

アクア・リア
ふたつの大きな面で構成されたサイド面

ただ、駆け上がるサイドラインに沿って、リアドアガラスを狭くしたのは疑問です。後方視界はもとより、そもそも背を高くしてまで確保した居住性の表現としては逆行しています。

もちろんガラス面積を広げると「落ち着き感」が強くなりますが、そんなにエモーショナルさが必要なのか?という疑問です。

●不思議なリアランプの形状

さて、リアでは先代に比べて大きく角度を寝かせたハッチが特徴です。これはドアヒンジをルーフの前方に移動させ、開口部の実質的な拡大を図るためだと思われますが、動感を狙った今回のモデルチェンジとしては一石二鳥だったのではないでしょうか。

一方、リアランプはフロントグリル同様、実に曖昧な形状で、パッと見そのカタチを把握することは困難です。リアガラス形状と合わせたり、サイド面の大きな流れを受け止めたりなど、役割が多いのは分かりますが、それにしても不思議な形状です。

アクア・リアパネル
独特な形状のリアランプ

さらに、バンパー下部の左右リフレクターランプを結ぶ黒いラインは、まるで歌舞伎の隈取りのようで、ここもまた曖昧な表現が使われています。

考えてみれば、現行のプリウスもまた相当に有機的なので、その点このエモーショナル方向は既定路線だったのかもしれません。

ただ、先行した同クラスの「ヤリス」がスポーティな凝縮ボディであるのに対し、アクアは逆に居住性をアピールして棲み分けを図る?といった予想もあったので、やはり意外ではあります。

冒頭のとおり、デザインコンセプトは「知性・感性を刺激する」です。

たしかにコンパクトさやスマートさ、高性能化されたHVシステムなどは知性を感じますが、一方で、感性の部分が少々エモーショナル方向に振り過ぎたのではないか? とも感じられます。

新しいアクアのデザインは、最新のトヨタデザインとして、そのバランス感覚の是非を問うているのかもしれません。

(すぎもと たかよし)

この記事の著者

すぎもと たかよし

すぎもと たかよし 近影
東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、クルマも最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。