【新型アウディA3・S3 試乗 2021年版】価格・グレード・サイズ フルモデルチェンジ情報/アウディらしいプレミアムコンパクト、スタイリッシュなデザイン&キビキビした走り

■新型アウディA3・S3はゴルフと兄弟ながら走りも質感もひとつ上のコンパクト

●アウディとは

・4つの輪は4社の象徴だが、じつは5社が合併した会社

アウディの設立は少し複雑です。アウグスト・ホルヒ博士というエンジニアが1899年にホルヒ社を設立しますが、経営陣との確執から退社。新たにアウグスト・ホルヒ・アウトモービルヴェルケ有限会社を設立、しかし最初に作ったホルヒ社から社名が似ているということで訴えられ、1909年にアウディ社と改名します。その後の1929年に起きた世界恐慌のあおりによってドイツの自動車産業界は大打撃を受けます。そこでアウディ、DKW、ホルヒ、ヴァンダラーの4つの自動車会社が合併しアウトウニオン(オート・ユニオン=自動車連合の意味)と名乗る新しい自動車会社がドイツに誕生。これが1932年のことです。アウディの名はアウトウニオン社のなかで乗用車のブランド名として使われていました。アウディのシンボルマークである4つの輪(フォーシルバーリングス)はこの4社を象徴するものです。1969年には世界初のロータリーエンジン車を製造したNSUと合併。1985年に社名をアウディ社(Audi AG)とします。

●アウディA3・S3とは

・フォルクスワーゲン・ゴルフと兄弟関係にあるプレミアムコンパクト

アウディは1960年代にアウディ50という小型モデルを製造していますが、それ以降しばらくは小さいクルマの製造からは遠ざかっていました。それが復活したのが1997年に投入された初代アウディA3です。少し遅れて登場する4代目フォルクスワーゲン・ゴルフと基本コンポーネンツを共有するモデルのため、多くのアウディ車が採用する縦置きエンジンレイアウトではなく、ゴルフ同様の横置きエンジンレイアウトを採用します。余談となりますが、初代のフォルクスワーゲン・ゴルフの開発もアウディが関わっています。A3はアウディのプレミアム路線に合致したモデルで、小さいながらも高級つまりプレミアムコンパクトとして位置づけられています。

RS3走り
富士スピードウェイを走行するRS32021年12月9日追加)

●新型アウディA3・S3の基本概要

・1リットルの3気筒マイルドハイブリッドと2リットル4気筒ターボ

フォルクスワーゲン・ゴルフが2019年にフルモデルチェンジし8代目に進化。アウディA3はそれを追うように2020年にフルモデルチェンジされ4代目となりました。アウディは標準タイプとなるA、スポーティなS、さらにその上に位置するRSの3タイプをラインアップするのが通常で、今回のA3にもS3とRS3が用意されます。日本に導入されているA3は1リットル3気筒ターボ(110馬力/200Nm)のマイルドハイブリッド、2リットル4気筒ターボ(190馬力/320Nm)の2種。S3は2リットル4気筒ターボで310馬力/400Nm、RS3は400馬力/480Nmの2.5リットル5気筒ターボを搭載します。ドイツではPHSやCNG(圧縮天然ガス)仕様も存在しますが、今のところ日本には導入されていません。
(以下2021年12月9日・追記)2021年11月27日には、ハイパフォーマンスモデルであるRS3の追加を発表。搭載されるエンジンは2.5リットル直5ターボで、スペックは400馬力/500Nm。7速のSトロニックが組み合わされます。最大の特徴ともいえるのが、リヤのデファレンシャルギヤの代わりに採用されたRSトルクスプリッターで、コーナリング時のリヤの駆動トルクのすべてをアウト側に分配する事実上のドリフトモードである「RSトルクリヤ」が追加されたことです。

RS3エンジン
400馬力、500Nmを発生するRS3のエンジン(2021年12月9日追加)

●新型アウディA3・S3のデザイン

・最新のアウディらしさを表現した迫力のあるエクステリア

最近のアウディデザインの流れに則り、フロントセクションいっぱいに低く大きな六角形のシングルフレームグリルを配置。その左右にはエッジの効いたLEDのヘッドライトが配し、コンパクトなモデルとは思えないほどの迫力あふれるエクステリアに仕上げられています。数多くのLEDを使用し理想の配光を実現しているマトリクスLEDヘッドライトにはデイタイミングライトも内蔵。グレードによって光り方を変えるといった凝った演出も行われています。アウディ・クワトロを彷彿とさせるブリスターフェンダーや凹面形状を採用した躍動感あふれるドアパネルなども特徴的です。Cd値(空気抵抗係数)はスポーツバッグで0.28、セダンで0.25と高い値を実現しています。

インテリアではセンターコンソールをドライバー側に向けることで、各種の操作性を向上。サスティナブルなクルマ作りにも積極的で、フロアカーペットやSラインのシート地などにペットボトルのリサイクル材を採用。フロアカーペットなどで1.5リットルのペットボトル62本分、Sラインのシートで45本分のリサイクル材が使われています。

●新型アウディA3・S3のパッケージング

・先代に比べて若干のサイズアップ

アウディA3はフォルクスワーゲングループで共用されるMQBと呼ばれるプラットフォームを採用。ホイールベースは先代と変わらず2635mmとなっています。兄弟車であり同じMQBを使うフォルクスワーゲン・ゴルフは2019年にフルモデルチェンジしましたが、ホイールベースを2635mmから2620mmに短縮しています。またボディサイズに関してもゴルフは全長を30mm伸ばしたものの全幅と全高は短縮しました。対してアウディA3は先代よりも若干サイズアップしました。スポーツバッグで新旧を比べて見ると全長は20mmほど延長され4345~4350mmに、全幅は30mm拡大し1815mmに、全高は先代同様の1435~1450mmとしています。一方のセダンの場合、ベーシックな30 TFSIで全長×全幅×全高は4495mm×1815mm×1425mmとなります。

●新型アウディA3・S3の走り

・キビキビしたA3、サーキットも走りたくなるS3

試乗車として用意されたのは1リットルマイルドハイブリッドでFFのセダン30TFSIアドバンスドと、2リットルエンジンを搭載する4WDスポーツバッグのS3です。

1リットルマイルドハイブリッド車のA3セダン30 TSFIは、エンジン、モーターユニット、7速のDSGなど基本部分でゴルフのベーシックグレードと同じです。110馬力のエンジンはモーターでアシストされるため、発進はスムーズで力強いもの。A3はデュアルクラッチ式のミッションを採用します。かつては駐車などの微低速ではギクシャクした動きとなったデュアルクラッチですが、現在のものはそうしたギクシャクさはほとんどありません。さらにモーターアシストがあることで、動きはかなりスムーズです。あと1cmを動かすのはちょっと気をつかうのですが、あと3cmはまったく問題ありません。

ホイールベースが15mm長いものの、装着タイヤがゴルフにくらべて2サイズ太く、扁平率も低いためクルマの動きがキビキビしています。先代のアウディA3はリヤサスペンションを全グレードで4リンクと呼ばれるマルチリンク式を採用していましたが、新型はゴルフと同様のトーションビーム方式となりました。マルチリンクからトーションビームに変更というとコストダウン目的だと思われがちですが、パワーユニットや車重、駆動方式などとのバランスを考えると、以前のマルチリンクよりもマッチングがいい印象です。基本が同じでもゴルフのベーシックカー然とした走りに対し、A3はキビキビ感をプラスして「ゴルフとは違うんだぞ」と主張しています。

一方、ハイパフォーマンスモデルのS3は相変わらずの常識外のパフォーマンスを誇ります。RS3の400馬力/480Nmには及びませんが、310馬力/400Nmの2リットル4気筒ターボが搭載されるのです。アウディA3のボディサイズを考えたら、これは相当なもの。たとえて言うならマツダ3が3ローターターボ(ユーノスコスモに搭載された3ローターターボは280馬力であった)を積んで4WDで走るようなものです。

走行モードの選択が行う「アウディドライブセレクト」はエンジンやミッション、エアコン、ACCなどの制御を変更するとともに、オプションで装着されているダンピングコントロールサスペンションが作用しダンピングも変更できます。とくに「dynamic」を選択した際は、排気音も迫力のあるサウンドに変わり、ワインディングはもちろんサーキットでも十分に通用するだけでのパフォーマンスを発揮してくれます。

(以下2021年12月9日・追記)2021年11月末に追加発表されたRS3セダンを富士スピードウェイで先導車あり、インアウト含めて1ラップ(つまりメインストレート走行はなし)という状況での試乗を行いました。RSトルクスプリッターの威力を試すことは禁止されていましたが、圧倒的なエンジントルクと軽快に変速するSトロニック、そして素直に曲がっていくコーナリング性能は納得のハイパフォーマンスさで、プレミアムコンパクトハイパフォーマンスモデルの頂点となる1台であることを確認できました。

●新型アウディA3・S3のラインアップと価格

・グレードで異なるエクステリアの加飾を採用

新型アウディA3には、ファストバックの4ドアセダンと、スポーツバッグと呼ばれる5ドアハッチバックの2タイプのボディが用意されます。先代には日本には輸入はされなかったもののカブリオレも用意されていましたが、いまのところボディタイプは2種となっています。日本に導入されるパワーユニットはA3用として1リットル3気筒ターボ+マイルドハイブリッド、2リットル4気筒ターボの2種。S3は2リットル4気筒ターボ、RS3は2.5リットル5気筒ターボとなります。なお、A3とS3は同じカタログ同じスペックリストに収められていますが、RS3は別カタログ別スペックリストとなり、アウディ内でも扱いが異なることがわかります。1リットルモデル車はベースグレード、アドバンスドグレード、Sラインの3種。たとえばグリルを見るとベースグレードはブラックフレーム、アドバンスドグレード以上はクロームフレーム、アンダーガードはアドバンスドグレードがシルバーとなります。Sラインの場合はグリルの左右下にあるエアインテーク部が大きくなり、マットプラチナムグレー色が採用されるなどしアドバンスドグレードと差別化。また、S3やRS3は特別なエクステリアデザインが与えられています。

アウディA3・S3価格表
アウディA3・S3価格表

●新型アウディA3・S3のまとめ

・味付けでしっかりした個性を与えられたプレミアムコンパクト

アウディA3は基本コンポーネンツをゴルフと共有するモデルです。ゴルフが大衆車らしさを大切にしたモデルであるのに対し、アウディA3はプレミアムモデルであることを十分に感じさせるモデルに仕上げられています。プラットフォームを共有するとさまざまなパーツの配置に制限をうけるため、インパネまわりのデザインも似かよったものになりがちです。アウディA3とゴルフも基本配置は同一ですが、アウディA3はフロアコンソールをピアノブラックのフラットなパネルをあしらったものとしたうえで、フェイスレベルのエアコンダクトをメーターカバーの左右に置くなど、斬新さもプラスさせています。コンベンショナルなものをもつゴルフと相対する、モダンで挑戦的なデザインや走りのフィールを大切にしているのがアウディA3だと言えます。

(文/諸星陽一・写真/諸星陽一、井上 誠、アウディジャパン)

【関連リンク】
●アウディジャパン > https://www.audi.co.jp
Audi A3 スペシャルサイト > https://www.audi.jp/a3_debut/
Audi A3 Sportback > https://www.audi.co.jp/jp/web/ja/models/a3/a3_sportback.html
Audi A3 Sedan > https://www.audi.co.jp/jp/web/ja/models/a3/a3.html
Audi S3 Sportback > https://www.audi.co.jp/jp/web/ja/models/a3/s3_sportback.html
Audi S3 Sedan > https://www.audi.co.jp/jp/web/ja/models/a3/s3.html2021年12月9日追加)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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