梅雨時必見! 意外と知られていない、運転中のガラスくもりへの、エアコン使用の絶大効果

■フロントガラスのくもりとりの鍵は、エアコン作動とその温度!

sunny
この記事を書こうと思った者にとってはうらめしい太陽。

今回は、「撥水処理」「ワイパー手入れ」の話に続く、筆者の梅雨シーズンクルマ対策3部作の最終回。
いやあ、まいりました。ガラスのくもりへの対処法について書こうと、そのためにガラスがくもった写真を撮らねばと思っていたのですが、ちょうどその頃から梅雨の中休み(?)の晴れ続き。今回ばかりは「日ごろの行いが悪かったから晴れが続いた」ということにしています。

さて、クルマの運転に於いて大事なものはいくつかありますが、その中に「視界」があります。
自動車の運転は、五感のうちの、味覚を除く四感を働かせながら行います。すなわち、視覚・聴覚・臭覚・触覚の4つ。重要さは4等分で、当然、「視界の確保」は「視覚」を使って行われます。失われると即、事故に直結するのは視覚でしょう。いわゆる「走る」「曲がる」「止まる」についても、多くは視覚からの情報でどうするかの判断をし、行動に移しているわけです・・・ん? ということは4等分じゃなくて、視界がいちばん重要か!

「撥水処理」の話のときに、対向車がはねた水たまりの水によって一瞬にして視界が奪われる話をしましたが、それ以外の要因でも視界が損なわれることがあります。そう、くもりによる視界悪化です。そしてなぜかガラスの外側がくもるときがあれば内側がくもるときもあります。それはなぜなのでしょうか?

●そもそもくもりはなぜ起こる?

くもるのは何もクルマのガラスばかりではありません。鍋をつついているときの部屋の窓、ラーメンを食べている人のめがねのレンズ、浴室の鏡・・・ガラスのコップもくもりますな。くもる物体そのものと、その物体周囲の、水蒸気を含む空気との温度差がくもりの要因です。すべての温度が同じであればくもりません。

いまさらな内容なのですが、ここで実験してみましょう。

glass and thermos
実験してみよう。通常のガラス製コップのほか、比較のためにサーモスのコップも持ち出し、それぞれに氷を入れた。
glass and thermos 2
それぞれに水を注ぐ。ジャボジャボジャボジャボ・・・

写真をごらんください。氷の入ったガラスのコップに水を注ぎ、数分後に撮った写真です。時を経るにおよんでだんだんコップ表面に水滴が生まれ、なんだかスプライトか三ツ矢サイダーのコマーシャルみたいな清涼感あふれる姿になってきました。

glass after 3 and 10 minutes
空気中の水分がすぐに結露し、コップ表面に水分がつき始めた。左写真が水を入れてから3分後の様子で、ちょうどクルマのガラスくもりと似た状態になった。10分経つと(写真右)隣り合う水同士が結合して水滴として表面をたれ始める。

コップ内側の氷水の熱(この場合の「熱」とは物理でいう「熱」で、ここでは冷たい温度のこと)がガラス内を通ってコップの外側表面に伝わる(熱の伝導)。冷えたガラス表面と接している、氷水よりも温度の高い空気中の水蒸気が水滴化(これが結露)、下に落ちるほどの重さでもないのでとりあえずガラス表面に付着する。これがくもりの原理です。さきに「くもる物体そのものと、その物体周囲の、水蒸気を含む空気との温度差がくもりの要因」と書きましたが、クルマ(部屋でも)のガラスくもりの場合、「ガラスを境とするその内外の温度差」が原因で、それも温度の高い側が、そしてそちらの湿度がより高いほどくもるとお考え下さい。

と考えたとき、クルマのガラスのくもりがときに内側だったり外側だったりというのも説明がつきます。

フロントガラス(他のガラスもそうですが)を境に、内外どちらの温度が高いのかでくもる側が決まります。すなわちいまの時期、エアコンをガンガンに効かせた状態でくもるのはガラスの外側。さきの実験でいえば、ガラスの外側がコップの外側にあたり、冷えた車内側がコップの内側(氷水)に相当します。逆に冬場、ヒーターをガンガンに効かせると、実験での氷水役が入れ替わり、ガラスの内側がくもります。すなわち、ガラスの外側がコップの内側になり、内側が外側になるのです・・・あー、ややこしいぞ!

●知らないひとが多い、空調コントロールによるくもりとりの方法

さて、クルマに戻ってフロントガラスのくもりの話。
冒頭の写真をもういちどここでお見せしましょう。

frosted glass
これでよしとしてください。

雨の日がなかなか訪れないのでしびれを切らし、晴れの日の、しかも割と乾燥している日中の時間帯に、いくつかの手法を試しては失敗を重ね、何度も何度も試して、ようやく雨の日と同じくらいのガラス内側のくもりを何とか再現したものです。

雨天下の運転時、このようにくもってくるや、走っている最中なのにいきなり窓を拭き始めたり、換気すればいいだろうとばかりに窓を開けたりするひとがいますが、空調にくもり取りのモードがあることを知らずにいるひとが多いようです。そしてそれを知ってはいても、その際にはA/Cスイッチを併用するのが効果的なことは意外に知られていません。

defroster mark
これね。

空調コントロールのパネルをよく見てください。くねった矢印3本を扇子に重ねたようなマークがあるでしょ? これはフロントガラスに風を当てているシーンをシンボル化したものです。つまり風をあててくもりを取り去るモードで、デフロスター(defroster:くもり(frost)を取り去って(de)くれるもの(er))と呼ばれるものです。

front defroster
計器盤の向こう側=フロントガラス下端部にあるデフロスター吹出口。

そしてクルマの計器盤をよく見てください。計器盤上面向こう側に吹出口があります。

side defroster 1
このクルマの場合、ドアを開けて見える場所にでサイドデフロスターがある。
side defroster 2
ドアを閉めたときにこのようになり、ドアガラスのくもりを落とす(写真は窓を開けて撮った状態です。)。

また、計器盤両端付近のどこかしらに、上半身用吹出口とは別の、小さめの吹出口があるはずです。前者はフロントガラスに、後者はフロントドアガラスのドアミラー寄り三角地帯に、それぞれのくもりを取る風を送り出すための吹出口です。

control panel
ガラスがくもったら、モード選択を扇形ガラスマーク(デフロスター)に、内外気切り替えを外気導入に、温度や風量は適宜好みに応じてそれぞれを合わせる。必要ならA/Cボタンも入れる。

くもりが発生したとき、ドライバーが行うべき操作は・・・

1.くもりとりのスイッチを入れるか、ダイヤルまたはレバーのつまみをこのマークに合わせる。
2.内外気切り替えを外気導入にする。
3.ファンを作動させる。
4.効果がなければA/Cスイッチを入れる。

この4つです。これで目の邪魔になるくもりがたちどころに消えていきます。

2.について、内気循環を常用しているひといますが、常に汚れた空気を滞留させてしまうことでくもりを発生させやすいばかりか、乗員の眠気を誘うことになるので、くもりを除去したいときに限らず、平素は外気導入にしておいてください。内気循環は、いまも見かけるディーゼル車の黒煙や、アスファルトを掘り起こして粉塵が舞っている工事現場、空気の汚れているトンネルなどを通過するときに限ってください。常に外気導入にすることで、常に車内の空気を入れ替わる状態にしておきたいのです。くもり取りならなおのこと、外気を採り入れながらが行うことが前提ですから外気導入が必須です。その証拠に、マニュアルエアコン車の場合、デフロスターマークの周辺に「USE WITH」と外気導入のマークが併記しているクルマもあります。
3.はお好みでかまいません。これでくもりが取れ始めますが、そのスピードが遅いとか、取り切れない場合には4.を行ってください。除湿された空気が出ますので、あっという間にくもりが取れます。もっともここで参考にしているクルマはマニュアルエアコンのため、これら4つの操作を自分の手で行わなければなりませんが、あなたのクルマが、いまのクルマに多いオートエアコン付きなら、くもりとりのスイッチを入れるや、2~4のすべてを同時にクルマが行ってくれます。

次の動画は、ガラス内側のくもりを再現し、デフロスターによってくもりが落ちていく様子を撮ったものです(再生時間:1分30秒)。
まんべんなく広げて作った、意図的なくもりですから、あっという間にとはなっていませんが、A/C併用でのデフロスターの効果がわかると思います。途中の(0分41秒)温度&風量調整でくもりが消える速度が変わることもわかるようになっています。

余談ですが、90年代のマツダ車の中には、エアコンがAUTOの状態でワイパースイッチを入れると自動でデフロスターに切り替わるロジックになっているものがありました。

●温度調整にも気を配れ!

ところでですね、A/Cを併用すると一挙にくもりが取れるのですが、取れたからと別のモードにすると、湿度が高ければまたすぐにくもりが発生します。結局はデフロスターを使いっぱなしにすることになるわけです。するとですね、ガラスの風の当たる部分だけがくもるという現象が発生します。ガラスの内側だったり外側だったり・・・こんな事態に遭遇したひともいるのではないでしょうか? いったいどうすりゃあいいんだ?

この記事の初めに述べた「ガラスを境とする内外の温度差」が原因です。湿度が高いからくもるわけですが、ガラスの冷たいエアコン風を受けた部分だけが外気また内気に対して極度な温度差を生むため、夏なら外側の、冬なら外側のワイパー付近だけがくもってくる・・・つまり、くもりとりのために行った行為で吹出口付近のガラスだけ極端に冷えるため、この部分だけまた別のくもりを発生させていたという皮肉な結果をもたらしていたのです。

当初、筆者はこの現象を不思議に思い、エンジンフード内に隠れていた前日の雨の蒸気が這い出し、ガラス下端に付着したのかなど、いろいろと推理したものですが、晴れ続きの、湿度が高いだけのときでも起きたものですからよくわからないでいました。あるとき、吹出口付近だけの温度差に着目して前記のような推論を組み立てたとき、ある方法を思いつきました。そうです、デフロスターの風には温度差を与えなければいいのです。つまり外気温と同じ(と思われる)温度に調整したら、長時間どこにもくもりを発生させない状態を保つことができました。

●自動車メーカー、空調メーカーの方に「こうなればいいな!」のお願い

これを読んで、「暑いからクーラーをつけ、寒いからヒーターを入れているのに、吹出し温度を内外気に合わせていたら暑く(寒く)なって困るじゃないか・・・」と思った方もいるでしょう。そのとおりです。残念ながら、現在のクルマの空調の構造ではデフロスター風の温度は調整できません(実際には「困る」というほど困りはしないのですが。)。

というわけで、この「クリッカー」というサイトを、自動車メーカーや空調メーカーのひとも見ていると勝手に決め打ちし、お願いごとをしてしまいましょう。

proposal of defroster 1
現在のモード選択を現状の5つから3つに減らし、デフロスターを独立させる。外気導入が必須だから、作動スイッチは写真のような配置に。風温は、既存のエンジン制御用外気温センサーからの数値に合わせればいいが・・・

1.くもり止めの機能だけ、他のモードから独立できないか?
「上半身送風」「上半身+足元」「足元」(と「足元+デフロスター」)と「デフロスター」は役割は別で、前者3つはいわは乗員の快適のため、デフロスターは視界確保=安全のためなのだから、そもそもこれらを一直線上にまとめているのがおかしい。現状では、夏場にエアコンを使ってデフロスターを作動させている場合、上半身に冷風を得ることはできない。デフロスターだけ内部流路を別系統にして独立させてほしい。

proposal of defroster 2
このようにして(!)デフロスター用の風も、ドライバーが任意で温度調整ができればなおいいかも知れない(どちらもフォトショップで加工した提案写真。)。

2.デフロスターの風温だけは、自動または手動で、外気温と同等、あるいはせめて内気と外気の間くらいに合わせることはできないか?
内外の気温差がくもりを生むなら、くもりとりの風だけは内外気と同等の温度にすればいい。最近は前席左右の2座ばかりか、もっと高いクルマでは後席左右も含めて4座、独立温度調整ができるのだから、ついでにもう1系統加えてくもり止め用の独立もできるはず。

自動車の空調にこれらが採り入れられれば、完璧なくもり知らずの運転ができるようになるでしょう。ライトのLED、カメラ技術の採用も大いに結構ですが、もっと柱を細くした死角低減の配慮、くもり除去へのより細かい工夫など、基本的な部分への視界向上策を望みたいところです。

あ、もうひとつ忘れていたことが・・・

●リヤガラスのくもりとり熱線も有効に

ここまでは、前席まわりのガラスくもりについて述べてきました。ただし、くもるのはどこのガラスも同じで、室内を冷気が行き渡るとリヤガラスもリアサイドガラスもくもります。リヤガラスがくもったら、こんどは3本のくねり矢印が入った長方形のマークのスイッチを入れてください。

deffoger switch
リヤデフォッガーのスイッチ。このクルマの場合は、熱線がドアミラーにも仕組まれており、スイッチを入れるとリヤガラス、ドアミラー、それぞれのくもりを同時に消し去る。
defogger
横向きに走る茶色の線が熱線デフォッガー。昔の大衆車は、カタログで「高級装備です」と謳っていた。

リヤガラスに配された茶色い線、これはくもりとりのための熱線で、こちらはなぜか「霧(fog)を取る(de)もの(er)」という言葉からデフォッガー(defogger)と名付けられています。スイッチONで通電した瞬間に熱線部分からくもりが取れ始め、数分でガラス全体がクリアになりますが、消費電力が高いため、くもりが取れたらすぐにOFFにしてください。もっとも、くもりが取れた頃の10数分後に自動で電気が切れるタイマー付きも多くなりました。
それにしてもこの熱線、スイッチを入れてもガラスが熱くなるわけではなく、その割に線と線の間のくもりまで除去する、筆者が小さい頃から不思議でならないでいるものなのですが、デフロスターも含め、クルマについているものはわからないままにせず、適宜、有効に使っていきたいものです。

leone
レオーネGTターボ(AA7型・1984(昭和59)年10月)。
leone rear side defroster
レオーネのセンターピラーの中ほどに設けられたデフロスター吹出口。

また余談。昔のレオーネ(1984(昭和59)年の3代目)には、リヤドアガラス用のデフロスター吹出口がセンターピラー中腹に設けられていましたが、そのすばらしいアイデアも、残念ながら、1989(平成元年))の初代レガシィにまで引き継がれることはありませんでした。
世界中のどのメーカーも、自動車を造り始めて長いのですから、前後左右のガラスばかりか、いっそガラスのサンルーフに至るまで、天候や乗車人数にかかわらず、くもりが起きたらどのガラスからもサッと取れるような構造を採り入れてほしいと思っています。

(文:山口尚志 写真:山口尚志/モーターファン・アーカイブ)