ホンダ・ヴェゼルのライバルはスバル・レヴォーグ説をとなえたい【週刊クルマのミライ】

■まったく別カテゴリーに思えるヴェゼルとレヴォーグだが、ハンドリングとスタビリティのバランスがよく似ている

ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」がフルモデルチェンジを果たしました。新型ヴェゼルにおいて、中心となるパワートレインは、1.5Lアトキンソンサイクルエンジンに発電用モーターと駆動用モーターを組み合わせたハイブリッドです。実際、初期受注でも93%がハイブリッドになっているといいます。

Honda Vezel Z AWD
初期受注において、e:HEV Zグレードを76%のユーザーが選んだという。同グレードのAWDの価格は311万8500円

そのハイブリッドには、FFと4WDが用意されます。このクラスのハイブリッド4WDというと、トヨタ・ヤリスクロスは後輪をモーターで駆動する電動4WDを採用していますが、ヴェゼルはプロペラシャフトで後輪に駆動力を伝達するメカニカル4WDとなっています。そして、このメカニズムを走り味に活かしているのが特徴です。

通常、電動4WDでは後輪は低速域でしか駆動しないことが多く、ヤリスクロスでも75km/hで後輪用モーターは作動を止めるという設計になっています。もちろん、メカニカル4WDでも同様に普段はFFで、フロントタイヤがスリップしたときだけリヤタイヤを駆動するスタンバイ式の生活四駆と呼ばれるタイプもありますが、新型ヴェゼルは違います。

ヴェゼル・ハイブリッドの4WDは、ほぼ常に後輪を駆動しているのです。それは高速域でも同様です。

走行抵抗、メカニカルロスの面からいうと、後輪を駆動させることは不利なのは事実でしょう。しかし、一方で後輪に常に駆動力を与えることはスタビリティを増し、ドライバーは安定感を感じることができます。とくに新型ヴェゼルの場合は、70km/hを超えた領域での直進安定性において後輪を駆動させている効果を実感することができました。

言い方を変えると、ハイブリッド4WDに限ってはコンパクトSUVとは思えないほど高いスタビリティ感を持っているのです。

だからといって安定志向一辺倒というわけではありません。ステアリングを切り込めば、素直にノーズが向きを変えるといったリニアリティも持っています。

SUBARU LEVORG GT-H
スバルのツーリングワゴン「レヴォーグ」の価格帯は310万円~410万円。写真はGT-H EXで370万7000円

この感覚、どこかで味わったことがあると考えてみると、スバル・レヴォーグのハンドリング、シャシーの仕上がりと似た方向性だったことが思い浮かびます。

レヴォーグは1.8Lのダウンサイジングターボを積んだミドルサイズのステーションワゴンですから、ヴェゼルとは車格やカテゴリーという点では異なりますが、4WDらしいスタビリティ感とハンドリングのリニア感を両立しているという点において、この2台は非常に似た味つけと感じます。

レヴォーグの走りが好みという人であれば、ヴェゼルの走りも高く評価するのではないでしょうか。

もっとも、実際にレヴォーグとヴェゼルを比べるなんて非現実的と思うかもしれません。しかしながら、価格を比べてみると、この2台は微妙に被っているのです。

Honda Vezel Hybrid
新型ヴェゼルのハイブリッドは2モーターシステム。エンジンの最高出力は78kWで、モーターの最高出力は96kW

今回、試乗したヴェゼルのハイブリッド4WD(e:HEV Z)のメーカー希望小売価格は311万8500円。そして、レヴォーグのエントリーグレードであるGTの価格は310万2000円です。レヴォーグの標準グレードでは高速道路のにおけるハンズオフを実現した「アイサイトX」は備わりませんが、渋滞対応のACC(追従クルーズコントロール)や車線逸脱抑制、後側方軽快支援システムなどは装備しています。ヴェゼルも同様の機能を持つ最新のホンダセンシングは標準装備となっています。

ヴェゼルのハイブリッドシステムは、最高出力78kW・最大トルク127Nmの1.5L 4気筒ガソリンエンジンに、最高出力96kW・最大トルク253Nmの駆動モーターを組み合わせたものとなっています。基本的にはエンジンは発電に徹するタイプで、高速巡行時にエンジン直結となることもあるというタイプ。車両重量は1450kg、燃費性能はWLTCモードで22.0km/L、同高速道路モードは21.1km/Lとなっています。

レヴォーグのパワートレインは、新世代の1.8L水平対向4気筒ガソリン直噴ターボエンジンにCVTを組み合わせたもの。エンジンの最高出力は130kW・最大トルクは300Nmとなっています。こちらの車両重量は1550kg、燃費性能はWLTCモードで16.6km/L、同高速道路モードは15.6km/Lとなっています。ボディが大きく重く、さらにターボエンジンということもあって絶対的な燃費性能ではヴェゼルに差をつけられてしまいますが、それでも思っているほどの差ではないと感じるのではないでしょうか。

Honda Vezel Z AWD
FFベースの四駆だがスタンバイ式ではなく、常に後輪を駆動することで四駆らしい安定感を出しているのが魅力だ

要は、同じ予算で燃費性能とSUV的スタイリングを求めるのならばヴェゼルのハイブリッド4WDが、ステーションワゴン的スタイリングやボディサイズの余裕を重視するならばレヴォーグのGTグレードが候補にあがってくるのでは…といえるのです。とはいえ、後席の余裕感については互角です。ラゲッジスペースについては使い方次第というところもありますが、ヴェゼルのそれはボディサイズから想像する以上に余裕があることは多くの人が感じることでしょう。

走りの味つけでも似ている部分を感じます。

ほぼ電動で加速するハイブリッドとターボエンジンを数値で比べるのは難しいのですが、実際に乗った印象重視でいえば、加速のリニアリティは非常に近いレベルにあると感じます。アクセル踏み始めから目標速度に達するまでのシームレスな感触は、電動4WDのヴェゼルと、ダウンサイジングターボ+CVTのレヴォーグともに不満はありません。

停止状態からの発進ではヴェゼルが優位ですが、坂道での中間加速のようなシチュエーションではレヴォーグのターボエンジンもいい味を出しています。

いずれも、基本的には高い静粛性を持ちながら、アクセル開度を深くしていくとエンジンサウンドが楽しめる部分でも共通性があると感じさせられました。

Honda Vezel Z AWD
新型ヴェゼルのハイブリッドAWDの車両重量は1450kg。WLTCモード燃費は22.0km/L

この2台を比べたい、走り味に共通性があると感じた最大のポイントは、コーナリング中の接地感です。

コーナー進入時のステアリングの切り始めでしっかりと舵が反応しつつ、それでいて横Gの高まるコーナー中間ゾーンでは後輪がしっかりと路面を掴んでいることで安心感を生むという一連の流れは、ヴェゼルとレヴォーグそれぞれが期待値以上のレベルで実現しています。

サスペンション形式でいえば、フロントがストラットで、リヤはダブルウィッシュボーンとなっているレヴォーグは、Bセグメントのアーキテクチャをベースとしたヴェゼルと比べるべくもないと思うかもしれません。

しかし、ヴェゼルも4WDについてはフロントがストラット、リヤはド・ディオン式となっていて、後輪の追従性を上げることを考慮しています。さらにヴェゼルのハイブリッド4WDでは前後重量配分が6:4となっていることもあって、かなりリヤタイヤのグリップを感じながらのコーナリングが可能となっています。

重心の違いもあって、サーキットなどに持ち込めばレヴォーグのほうが高いパフォーマンスを発揮するでしょうが、日常からプラスアルファの領域での走り味の部分ではヴェゼルも負けていませんし、コーナリング中に感じる走りの質の高さでは互角以上の勝負をするというのが素直な感想です。

意外に思うかもしれませんが、310万円前後の予算感でレジャーユースのクルマを探しているのならば、ヴェゼル・ハイブリッド4WDの最上級グレードとレヴォーグのエントリーグレードは甲乙つけがたいライバルといえるのです。

さらに言えば、排気量と車両重量の関係から、自動車税や重量税の負担はヴェゼルのほうが抑えられることも見落としてはいけないポイントとなるかもしれません。

(自動車コラムニスト・山本晋也

【追記 2021/06/02】初出時、ヤリスクロスの後輪用モーター作動速度について表記が誤っていたので修正いたしました。
<参考>https://faq.toyota.jp/faq/show/4008?site_domain=default

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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