スチールとは?鉄を主成分として強度と信頼性を高めた鋼鉄【バイク用語辞典:材料編】

■使用比率ではアルミ合金に劣るが、特に安全性や信頼性が必要な部位に使用

●安価で剛性が高く加工しやすいが、重いことが課題

バイクは、軽量化のために強度を高めたアルミ合金への材料置換が進んでいます。一方で、スチールの特徴を生かしたり、スチールでないと達成できない部位については、変わらずスチールが使われています。

バイク材料の中で重要な役目を担っているスチールについて、解説していきます。

●スチールの特徴

最も身近な金属の鉄は、工業目的としては強度を高めるため、炭素やマンガン、クロム、その他金属と合金化してスチール(鋼鉄)として使います。スチールの特徴は、以下の通りです。

軽量化素材の強度とコスト
軽量化素材の強度とコスト

・剛性が高い

・加工しやすい、溶接が簡単

・設計的に強度や疲労破壊の限度が予測しやすい

・安価

一方で、比重がアルミの3倍、チタンの2倍と重いことが軽量化の足かせになっています。

最近のクルマでは、軽量かつ衝突エネルギー能力が高い高張力鋼板(ハイテン)が盛んに使用されています。高張力鋼板は、マンガンなどの合金成分を添加して熱処理などで材料組織の制御を行い、通常の鋼板よりも強度を向上させた鋼材で軽量化に大きく貢献できます。ただし、バイクでは高張力鋼よりもアルミによる軽量化が進められています。

●スチールフレームとアルミフレーム

フレームは、安全のため強度と剛性が重要ですが、同時に相反する軽量化も求められます。フレームの材質は、一般的にはアルミ合金かスチールで、形状はパイプ状やプレス成形されたものが一般的です。

アルミは鉄より比重が軽いので、同じ形状なら軽量化できます。しかし、同じ形状だと強度が確保できないので、鉄と同等にしようとするとパイプを太くする必要があります。それでも、アルミの軽量化は確保できますが、太くなればボディ形状に影響を与え、剛性が高くなって(高くなりすぎて)しまいます。

剛性が高いことは良いことのように思えますが、今までフレームで吸収していたストレスが他の部分に発生してしまいます。その結果、全体のバランスが崩れて乗り心地などに影響を及ぼします。

結局のところ、そのモデルの特性に合った剛性と柔軟性のバランスを選択することが重要であり、ドゥカティやKTMのような欧州メーカーは、スチールフレームを多くの機種に採用しています。また、軽量化と強度を高めた高張力鋼管を採用しているモデルもあります。

●その他の使用部位

バイクでは、軽量化のためにかなりの部分がアルミに代わっていますが、金属同士が擦れる、衝突する、局所的に大きな荷重がかかるといった用途には不向きです。このような硬さが必要で高い安全性が求められる部位には、スチールが使われます。

例えば、サスペンションのバネ、フロントサスペンションのインナーチューブ、アクスルシャフト、エンジンではクランクシャフトやカムシャフト、ギヤ類、そしてボルト類はほとんどがスチール製です。

スチールはアルミやチタンなどに比べると重いので、剛性は高いが質量あたりで見ればそれほどのメリットにはならず、断面を大きくとれるのであればアルミやチタンの方が強くなります。この課題である比強度(質量あたりの強度)を確保するために、鍛造や窒化、ショットピーニングといった加工法や高張力化が採用されています。


長年金属の主役として使用されているスチールは、要求に合わせて様々な合金化によって進化しています。バイクでも軽量化のために、アルミなどへの材料置換が行われていますが、スチールしか達成できない特性が要求されるものについては、今後もスチールが使われます。

Mr.ソラン

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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