欧州プレミアムブランドはオール電化がトレンド。テスラばりの株価上昇は期待できるか?【週刊クルマのミライ】

■ジャガー、ボルボが相次いで電気自動車化を発表。その背景には欧州電動化比率の急上昇がある

2021年になって、欧州系ブランドの電動化シフトが加速しています。

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2021年秋に日本導入を発表したボルボの電気自動車「C40 Recharge」。オンラインで販売されるという

先日、ジャガー・ランドローバーのうちジャガー・ブランドについては2025年までに全ラインナップを電気自動車(BEV)にすると発表したのに続いて、今度はボルボカーズが2030年までに完全に電気自動車専門ブランドになることを宣言しました。

さらに、ボルボは電動化の象徴となるBEV専門モデルとして「C40 Recharge」プロトタイプを日本で公開しました。

パリ協定、CO2排出量削減というキーワードからすれば、いつまでも自動車が化石燃料を燃やして走り回る時代が続くとはいえないのも事実ですが、しかし電動化への動きは数年前の雰囲気よりも加速している、むしろ性急すぎると感じるほどです。

では、ジャガーが2025年、ボルボが2030年までにBEVだけのラインナップにするというのが現実的な判断なのでしょうか。それとも、単にBEVにシフトすると発表することで企業価値(たとえば時価総額)を向上させようと考えているだけなのでしょうか。

VOLVO_C40_recharge
2030年までにボルボは全ラインナップを電気自動車にすると宣言した

ボルボが発表したところによると同社の販売実績において2020年下半期でいえば欧州市場での1/3はプラグイン車(外部充電で走るクルマ、BEVとPHEVのこと)になっているそうです。現時点ではボルボの場合PHEVが主流ではありますが、それでも2020年の段階でプラグイン比率がそれだけ高ければ、10年後にはすべてプラグイン車になっていると考えてもおかしくはありません。

しかも、そうしたプラグイン車比率の高さは欧州市場全体にもいえるのです。JATOダイナミックスの調査によると2020年12月に欧州22の国と地域で販売された新車のうちプラグイン車は24%に達しているといいます。2019年12月の実績でいえばプラグイン車はわずか6.3%でした。

この勢いで電動化が進んでいくとすれば、たしかに2025年にはプラグイン車だけで十分以上の市場を形成していることは想像に難くありません。

さらにボルボの発表によると国別でのプラグイン車比率は次のようになっています(2020年12月のデータ)。

JAGUAR_BEV
2025年までに全ラインナップを電気自動車にシフトするというジャガー。水素燃料電池の展開も発表している。

ノルウェー:87%
オランダ:72%
スウェーデン:49%
ドイツ:26%
イギリス:23%

ノルウェーやオランダの市場規模はけっして大きくありませんし、補助金など政策的な影響も無視できませんが、それでも7~8割がプラグイン車になっている国があるというのは、プレミアムブランドにとってはBEVに完全にシフトすることが当然の判断だと感じさせるのも事実でしょう。

ほかには各社の平均燃費を高いレベルで求めるCAFE規制が厳しくなっていく中で、大排気量エンジンを存在させるのは難しくなっています。そうした中で市場シェアの小さなプレミアムブランドにおいてはBEVにリソースを集中することが生き残りにつながる有力な戦略となる部分も否定できません。

さらに、ボルボC40 Rechargeで注目したいのは、その販売をオンラインに絞ってサブスクリプションとして展開するという点です。詳細は未公表ですが、イノベーター層にリーチするためには既存の実店舗による売り方よりオンラインのほうが強力な販路になるというのは、BEV専業ブランドとして圧倒的な存在感を示しているテスラにならった判断であるといえそうです。

はたして、ボルボやジャガー・ランドローバーは、テスラのように時価総額で世界最大規模の自動車メーカーであるトヨタを優に超えるようなことができるのでしょうか。

そこは疑問があります。テスラが2020年実績で年間50万台程度の生産規模ながら自動車メーカーとして時価総額で世界一となっているのは、単純にBEV専業メーカーだからというわけでもないでしょう。イノベーションへの期待値、レガシーのしがらみがない部分がテスラの価値につながっているといえるからです。

それでもロイヤリティの高いプレミアムブランドがBEVシフトすることで、相対的なポジションは変わってしまうかもしれませんし、いち早くBEVシフトを宣言・実行したブランドは古いイメージを脱ぎ捨て、価値を高めることが考えられます。

いずれにしても、自動車業界のブランド・ポジションマップは大きく変動していくことでしょう。その中で、どの戦略がもっとも有効で生き残りにつながるのかは、まったく予想できません。

電気なのか、水素なのか、はたまた化石燃料のままなのか。2021年も、自動車メーカー各社の動きから目が離せない一年となりそうです。

(自動車コラムニスト・山本 晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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