■商品改良でオーディオレス仕様に。安全装備を充実させつつプライスダウンを実現
ホンダの軽商用車「N-VAN」が商品改良を発表しました。2018年7月にNシリーズ初の商用車として誕生したN-VANは、2019年に4万5230台、コロナ禍の2020年でも3万2391台を販売した隠れたヒットモデルとなっています。
N-VANとしては初めてとなる商品改良でのトピックスは、ホンダセンシング(先進安全装備・先進運転支援システム)の非装備のグレードをなくして全車に標準装備としたこと、従来ラインナップされていたロールーフの+STYLE COOLというグレードが消滅したことです。
装備面では、従来モデルではAM/FMラジオもしくはUSBオーディオのいずれかが装備されていましたが、基本的にオーディオレス仕様となっています(フロント2スピーカーは全車に標準装備)。
インパネのデザインとして2DINスペースが用意されているN-VANですからナビゲーションシステムをディーラーオプションとして取り付けるユーザーも多いようです。そのため、従来はオプションだった「ナビ装着用スペシャルパッケージ」が廉価グレード以外に標準装備されるといった風に変更されたのもうれしいポイントといえるでしょう。
さらに「G」「L」グレードにはオートライト/オートハイビームを追加するなど安全性が向上しています。
こうして廉価グレード以外にはナビ装着用スペシャルパッケージが装備されたことなどにより税抜きで比べても2万5000円~3万6000円の価格アップとなっています。しかし、廉価グレードである「G」についてはAM/FMラジオを廃しただけでナビ用パッケージは非装着です。
そして、廉価版である「G」グレードは価格ダウンしたのです。税抜き価格でいうと116万円、税込みでいえば₁27万6000円となります。
この価格で、エンジンはDOHC、マニュアルトランスミッションは6速となり、そしてオートエアコンも装備されるのです。もちろんホンダセンシングは標準装備です。スポーツカーではありませんが、走りが楽しめる素材としての魅力があると感じませんか。
6MT車の場合、「誤発進抑制機能」「アダプティブクルーズコントロール(ACC)」「車線維持支援システム(LKAS)」「後方誤発進抑制機能」といった先進運転支援システムは備わりませんが、夜間の歩行者もしっかり検知するAEB(衝突被害軽減ブレーキ)がついていて、バーゲンプライスといえる価格帯なのも魅力です。
たしかに、基本は商用車ですから乗用車のような静粛性は期待すべきではないでしょうし、最大積載量350kgに見合ったサスペンションは乗り味にラフな部分があるのは否めません。
また、運転席以外は格納して広いラゲッジを作れるような折りたたむことが前提のプアなシートとなっていますし、荷物の出し入れがしやすいよう助手席側がBピラーレスになっているというボディは走りを楽しむタイプのモデルでないことが明確です。
しかし、だからこそメカニズムとダイレクトに対話しているような走りを楽しめるのもN-VANはじめ商用車の特徴。
今回の商品改良では、ハイルーフボディのホビーユーザー向けグレードである「+STYLE FUN」に「フレームレッド」と「サーフブルー」の2色が追加されるなど、より趣味性を強める進化も遂げていますが、あえて“手の届きやすくなった6MT車”である廉価グレード「G」を選ぶのもクルマ好きとしてはアリな選択となると感じます。
たしかに、同じFF・6MTでいえばターボエンジンと組み合わせられるN-ONE「RS」グレードのほうがスポーツ度は高いのは間違いありません。しかし、N-ONE RSのメーカー希望小売価格は税込み199万9800円と非常に高価になっていますし、N-ONEの6MTは他グレードでは選べません。
ですが、N-VANであれば装備を簡略化したグレードでよければ、127万6000円で用意されているのです。高価なモデルを見て『手が届かない』と嘆くばかりではなく、身近なモデルをみつけ、身の丈のドライビングを楽しむというのも、新しい生活様式にあったクルマ選びとなっていくのかもしれません。
その意味で、商品改良によって安全装備や快適装備を充実させつつ、オーディオのような趣味の部分を省くことで価格ダウンしたN-VAN「G」グレードのありかたは、新型コロナウイルスによって生み出された“ニューノーマル”な世界にマッチしたクルマとしみじみ思います。
いまどきあえてMTを選ぶというのはオールドスタイルに思えます。しかし、ゴリゴリのスポーツカーではなく商用車をパーソナルユースとして楽しむ中で、あえてMTを選ぶ意味もあるでしょう。それが軽自動車、商用車では珍しい6速であればなおさらです。
(自動車コラムニスト・山本 晋也)