排気系の役割とは?排気効率の向上、排気音と有害ガスの低減【バイク用語辞典:排気系編】

■燃焼ガスの抜けを良くするには、排気圧力を下げて吸出し効果を利用

●排気音の低減は、排気圧の上昇につながり出力が低下するので要注意

バイクの排気系は、燃焼ガスの効率的な排出と排気音の低減、有害ガスの低減という3つの重要な役目を担っています。燃焼ガスが効率的に排出できれば、空気がシリンダーの中に吸入されやすくなるので、充填効率が上がって出力が向上します。

排気系システムの3つの役割と基本特性について、解説していきます。

●マフラーの役割

自動車では、マフラーとは円筒形や枕型の容積を持つ消音器を指しますが、バイクの場合は通常排気管を含めた排気系システム全体を指し、消音器はサイレンサーと呼びます。

マフラーの主要な役割は、次の3つです。

・吸入空気の充填効率の向上
シリンダーから排出される燃焼ガスは間欠的に排出されるので、排気管内には圧力脈動が発生します。シリンダー出口の圧力が高いと燃焼ガスの抜けが悪くなり充填効率は下がり、逆に圧力が低いと吸出し効果によって充填効率が高くなります。

・排気音の消音
エンジンから排出される高温高圧の燃焼ガスは、そのまま大気中に放出すると大きな排気(衝撃)音が発生します。サイレンサーによって、徐々に圧力を下げて排気音を低減します。

・触媒を利用した排ガス低減
一般的には、三元触媒を使った空燃比フィードバック制御によって有害排ガスを低減します。

●排気脈動を利用した燃焼ガスの吸出し効果

排気の吸出し効果
排気の吸出し効果

排気弁が開くと、排気管には高温・高圧の燃焼ガスが噴き出します。このとき発生する強い衝撃波(正圧)は、排気管の集合部やサイレンサーなどの解放端で反転して、負圧となり反射します。反射した負圧は、シリンダー出口へと音速で返り、他気筒または自気筒の次の排気行程の排気弁が閉まる直前に合致すると、燃焼ガスの吸出しが促進されます。

逆に排気弁が閉まる直前に正圧が合致すると、燃焼ガスの抜けが悪くなってシリンダー内に残留ガスが増えて、充填効率が低下します。

反射波が合致するタイミングは、エンジン回転数と排気系のレイアウトで決まります。

●サイレンサーの消音効果

排気音低減の原理
排気音低減の原理

エンジンから排出される燃焼ガスは、十分膨張しきっていないうちに排出されるので高温高圧です。そのまま大気に放出すると、一気に膨張し大きな排気音を発生します。

サイレンサーの内部は、通常はパイプと仕切り板で構成されています。消音機構として代表的なのは、多段膨張型、反射型、吸音型などですが、通常はこれらを組み合わせて効果的に消音します。

・多段膨張型
排出ガスが隔壁によって仕切られた複数の空間(区画室)を通るたびに、徐々に膨張して排気のエネルギーが低下する構造です。全域周波数帯で効果があります。

・反射型
行き止まりの共鳴室(レゾネーター)の壁で反射した音の波が逆位相になるように設計して、互いの波が打ち消し合う仕組みを利用します。主として、100Hz以下の低周波で効果を発揮します。

・吸音型
グラスウール、ロングウールのような吸音材を詰めて音を吸収する仕組みです。主として、中高周波成分を消音します。

上記のような消音効果は圧力損失が大きいほど効果が大きいので、エンジンの出力は低下します。そのため排気系には、相反する消音効果と圧力損失低減(出力低下の抑制)を両立させる工夫が求められています。

●排ガス低減

1998年に初めてバイクの排ガス規制が施行され、2006年にはさらに規制値が強化されました。

三元触媒の浄化効率
三元触媒の浄化効率

その対応技術として、ほぼすべての自動車が採用している三元触媒と空燃比フィードバック制御による排ガス低減技術を採用し始めました。

三元触媒は、空燃比を理論空燃比(14.7)に設定することで有害成分COとHC、NOxを同時に浄化できる触媒です。そのためには、運転条件が変化しても常に理論空燃比14.7になるように、空燃比フィードバック制御が採用されています。


出力向上には、吸気系システムとともに排気系システムの最適化も重要です。「出すものを出さないと、入るものも入らない」ということです。

また、排気音を低減することと燃焼ガスをスムーズに排出することは相反するので、トレードオフ関係を解消するような排気系全体のチューニングが重要です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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