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■流麗なフォルムからワイルドな外観へ
近年、続々と新型車が発売されているコンパクトSUV。かつて人気だったSUVの外観スタイルは、クーペのようなスポーティかつスタイリッシュなフォルムで「クロスオーバーSUV」という言葉も生まれたほどです。
それが最近では、タフさを強調するようなゴツゴツ感があったり、オフロードやアウトドアをイメージするようなスタイルに変わってきています。そこでここでは、昨今のコンパクトSUVで人気のオフロードスタイルを取り入れた車種や、それらの傾向などを検証します。
●10年前とトレンドはどう変わった?
コンパクトSUVとういうジャンルを築いた立役者といえば、2010年に登場した日産の「ジューク」ではないでしょうか。丸味を帯びた独特のフォルムは、当時のSUVで流行だったクーペ的でスタイリッシュな味付けが施され、また日本の道路事情にあったボディサイズなどが人気を博しました。
ジュークの成功もあり、コンパクトSUVはその後シェアを急速に拡大。スバルの「インプレッサXV(2010年)」やホンダの「ヴェゼル(2013年)」、マツダの「CX-3(2015年)」、トヨタの「C-HR(2016年)」など、他メーカーもスタイリッシュなコンパクトSUVを次々と発表しました。
ところが、ジュークは2019年に生産が終了。代わって2020年6月に登場したのが「キックス」です。
エンジンで発電、モーターで走るe-POWERを採用し、心地良い加速感と高い燃費性能が自慢のこのモデルは、フロントフェイスに最近の日産車のアイコンとも言えるダブルVモーショングリルを採用。押し出し感が強い精悍なマスクを採用しながらも、フェンダーモールなどにブラックの樹脂製パーツを用いたり、ルーフレールなどを採用することで、オフロード的なテイストも盛り込んでいます。
また、2020年8月に登場したトヨタの「ヤリスクロス」でも、最近のトヨタ車の多くが採用するエッジが効いたデザインの「キーンルック」を採用しつつも、やはりボディサイド下部やフェンダーのモール部、前後バンパーなどにツヤ消しブラックの樹脂製パーツを使うことで、タフでワイルドなテイストをプラス。
ほかにも、2019年に発売されたダイハツの「ロッキー」とその兄弟車のトヨタ「ライズ」では、エッジが効いた形状のフロントグリルなどで、ゴツゴツとしたイメージの外観を採用。いずれも、本格的クロスカントリー4WD車のようなオフロード・テイストを盛り込んでいるのが特徴です。
また、キックス以外のクルマには、各メーカー独自の4WDシステムを採用したグレードを用意します。スタイルだけでなく、悪路走行性能に優れているという点も最近のコンパクトSUVでの売りになっているのです。
ちなみに、日産が2021年にインドなどに投入することを発表した「マグナイト」でも、前後のバンパー下部に装着されたシルバーのスキッドプレートなどを採用。こちらは、全長4m以下ということで、コンパクトSUVより小さなサイズですが、オフロード車やアウトドアをイメージさせるような装備は、日本だけでなく今や世界的なトレンドになってきているのかもしれません。
●流れを変えたジムニーの成功
こういったスタイルの変化は、どのようにして起こったのでしょうか。きっかけは、おそらく2018年に20年振りにフルモデルチェンジしたスズキの「ジムニー/ジムニーシエラ」の成功でしょう。
軽自動車のジムニーと、登録車のコンパクトSUVであるジムニーシエラは、いずれも元々が悪路走行性能などを追求した本格的クロスカントリー4WD車として登場したモデルです。初代のジムニーが登場したのが1970年ですから、約50年の歴史を誇り、4代目となった現行モデルでもそのスタイルを継承。
全体的に角張ったスクエアな外観フォルムを持ち、新開発のラダーフレームや路面状況に応じて2WDと4WDを任意に切り替えて走行できる機械式副変速機付きパートタイム4WDなどを採用することで、悪路での高い走破性も実現。アウトドアで使う高品質のギア(道具)のようなイメージなどで、多くのユーザーに支持を受けています。
ジムニーは、長い間スタイルを変えないことが分かりやすい個性や特徴となり、時代のニーズにマッチしたモデルだといえます。一方、2010年のジューク以来、スタイリッシュで都会的なスタイルのコンパクトSUVは増加し続け、昨今はかなりの激戦区となっていたといえます。
そこで、自動車メーカーは、自社モデルにさらなる個性を与え、他社モデルと差別化するために、現行ジムニーが持つ「オフロード性」に目を付けたのでしょう。
そういった背景が、最近のコンパクトSUVに、オフロード感やアウトドアのテイストが盛り込まれていったのではないでしょうか。
●アウトドア・スタイルは様々な車種へ
また、近年の社会的なトレンドとして、クルマだけでなく、遊びとしてのアウトドアやキャンプが流行していることも大きく影響しているといえるでしょう。
実際に、コンパクトSUV以外のモデルでも、たとえばトヨタでは「シエンタ」や「アクア」「ポルテ」「スペイド」といったコンパクトカーに「グランパー!」というアウトドア仕様を設定。車種によって多少装備は変わりますが、フロントグリルやドアノブ、ドアミラーなどをアウトドアにマッチするブラックにしたり、シートに泥などの汚れが落としやすい専用ファブリック表皮を用いるなどで、アウトドアでの使い勝手も重視した仕様となっています。
ほかにも、ホンダはコンパクトカー「フィット」やミニバンの「フリード」には「クロスター」というSUV風なデザインのグレードを設定。軽自動車でも三菱の「ekクロス」やスズキの「スペーシアギア」、ダイハツの「ウェイク」など、トールワゴン系などにアウトドア向け装備を備えたモデルがあります。
つまり、オフロード風味を取り入れたクルマは、今やコンパクトSUVだけでなく、様々な車種でトレンドになってきているのです。
クルマのスタイルや装備は「時代を映す鏡」。アウトドア・ブームはまだまだ続きそうですから、クルマのトレンドもしばらくはこの傾向が続くでしょうね。
(文:平塚 直樹/写真:トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、スバル、スズキ)