2ストロークエンジンの仕組みとは?「吸気/圧縮」と「燃焼/排気/掃気」の2行程【バイク用語辞典:2ストロークエンジン編】

■軽量コンパクトで低速トルクが高いのが特徴だが、燃費と排ガス性能が悪いのが致命的

●排ガス規制に対応できず、現在2ストロークの国内生産モデルはなし

2ストロークエンジンの軽量コンパクトで高トルク特性は大きな魅力ですが、一方で燃費と排ガス性能は4ストロークに大きく劣ります。そのため、1998年に施行されて以降、徐々に強化された排ガス規制に対応できず、自動車とバイク用2ストロークエンジンの国内用モデルは市場から消え去りました。

バイク用2ストロークエンジンの基本原理と特徴について、解説していきます。

●2ストロークエンジンの特徴

4ストロークエンジンが、(吸気)-(圧縮)-(燃焼)-(排気)の4行程をエンジン2回転(ピストン2往復)で行うのに対して、2ストロークエンジンは(吸気/圧縮)-(燃焼/排気/掃気)の2行程をエンジン1回転(ピストン1往復)で行います。

この行程の違いに起因する2ストロークエンジンの特徴は、次の通りです。

・4ストロークエンジンは2回転に1回、2ストロークエンジンは1回転に1回燃焼によるトルクが発生するので、理論上は4ストロークの2倍のトルクが得られます。

・吸排気弁がなく、ピストンの上下運動によってシリンダーの壁面に設けた各ポートを開閉して、混合気の吸入や燃焼ガスの排出を行います。

・圧力の高い吸気で燃焼ガスを押し出しながら、新気を吸入する「掃気行程」が存在します。

・動弁機構を持たないので部品点数が少なく、シンプルな構造で軽量コンパクト化できます。

●2ストロークエンジンの基本サイクル

2ストロークエンジンは、(吸気/圧縮)-(燃焼/排気/掃気)の2行程をエンジン1回転(ピストン1往復)で行い、それを連続的に繰り返すことによって回転を持続します。

2ストロークの基本サイクル
2ストロークの基本サイクル

★(吸気/圧縮)行程

・ピストンが下死点の時は掃気ポートが開いており、加圧された混合気が燃焼室に吸入されます。

・ピストンが上昇するとクランク室の容積が増えて負圧が発生し、吸気ポートが開くと負圧によってクランク室に混合気が吸入されます。

・さらにピストンが上昇し、掃気ポートと排気ポートが閉じると燃焼室内の混合気が圧縮されます。

★(燃焼/排気/掃気)行程

・圧縮された混合気は点火プラグで着火燃焼し、燃焼圧力によってピストンは押し下げられます。

・ピストンが下降するとまず排気ポートが開き、燃焼ガスが排出されるとともにクランク室内に吸入されていた混合気が加圧されます。

・さらにピストンが下降すると掃気ポートが開き、加圧された混合気が燃焼室内に吸入され、残留燃焼ガスを排気ポートから掃気します。

●2ストロークエンジンはなぜ消えたのか

4ストロークエンジンに対して、軽量コンパクトで2倍近いトルクが発生するメリットはあるものの、以下のような掃気に関わる課題が解決できず、2ストロークエンジンは市場から消え去りました。

致命的な問題は、掃気行程で混合気と燃焼ガスが混じり合うため燃焼が不安定になること、また混合気が排気ポートから吹き抜けてしまうので、燃費と排気ガス特性が4ストロークに比べて大きく劣ることです。

掃気を利用した混合気と燃焼ガスのガス交換の効率は、運転条件によって大きく変動し制御できません。2ストロークエンジンのような成り行き任せの燃焼では、厳しい排ガス規制への対応や優れた燃費性能は実現できません。


2ストロークエンジンのメリットは、高トルクと軽量コンパクト、部品手数が少なく構造が簡単であるという3つに集約されます。

燃費や排ガス特性よりも上記の3つのメリットが優先する汎用エンジンや船舶用大型ディーゼル用にはまだ採用されていますが、いずれ自動車やバイク同様、徐々に姿を消すと思われます。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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