VW T-Rocは高速移動でこそ真価を発揮する!【新型車インプレッション・走行性能編】

●T-Rocと国産SUVのコスト的な差はほとんどない

試乗したのは、T-Roc TDI Sport。フラッシュレッドとブラックルーフのツートンカラーだ。

駆動方式はFFで、パワートレインは2.0リッター直列4気筒ディーゼルターボと7速DSGの組み合わせだ。タイヤは215/50R18、銘柄はFALKEN AZENIS 453CC。欧州のプレミアムSUV車に求められる水準の操縦安定性や静粛性をハイレベルで実現した、SUV向け上級タイヤだ。

試乗コースは、高速道路を約150km、一般道とワインディングを約50km。平均気温は25度で、路面はドライといった状況であった。燃費についても後述する。

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■一般ハンドリング性能
■高速直進性
■乗り心地性能
■ロードノイズ
■動力性能
■まとめ

T-ROC
試乗コースは、高速道路を約150km、一般道とワインディングを約50km。平均気温は25度で、路面はドライ、秋らしく涼しい気候であった

■一般ハンドリング性能 8.0点 (10点満点)

据え切りの操舵力は軽めで、なめらかに回転するフィーリングだ。最小回転半径は5.0m、国産ライバル車よりも小回りが効き、Uターンや駐車場での取り回しも楽だ。ちなみに、ヤリスクロスとヴェゼルは5.3m、C-HRは5.2m、キックスは5.1mだ。

フロント輪が大きく転舵できるのは、欧州車らしい長所だ。ただしギア比はクイックではないので、フル転舵するにはステアリングをしっかりと回さないとならない。バリアブルギアレシオがあると、なおよく感じただろう。

中低速になると、ステアリングの操作に対し適切な操舵力が手に戻り、コーナーをなめらかに曲がっていく。ただし、グイグイと曲がるような鋭い印象ではなく、どちらかというと、おしとやかなイメージだ。

コーナーでのステアリングの保舵力は軽く、楽にレーンキーピングができる。ゴルフよりは視界が高めとなってはいるが、交差点やコーナーでのボディモーションは良く抑えられており、加速減速、交差点などでの姿勢変化も少ない。「ゴルフ並みに」とまではいかないが、安心感の高いハンドリングの所作だ。

T-ROC
ステアリングの操作に対し、適切な操舵力が手に戻り、コーナーをなめらかに曲がっていく印象は、ゴルフに近い

■高速直進性 9.0点 (10点満点)

SUVやハッチバック、セダンやワゴンなど車体形状に限らず、欧州車が持つ高速直進性の良さを体感したことがない方は、一度味わっておくことをお勧めする。

T-Rocも高速直進性が高く、安心感が高い。高速走行中のステアリングを補舵する力は少なく、レーンキーピングが非常に楽だ。横風や路面の外乱を受けてもすぐにレーンを修正できる。とはいえ、レーンチェンジをする際には適切な重さの操舵力が発生するので、ステアリングを切りすぎることもない。

もちろん、ACCやレーンキープアシストを入れてしまえばステアリングは軽く触れてさえいればほぼ自動で走行してくれるのだが、素の直進性が高いことで修正操舵もごく少なくて済む。また、その時にはアクセルペダルの右側にある足置き台が絶大な威力を発生する。両足でステップを踏む姿勢を取ると、足だけでなく腰や背中まで、力が抜ける。ぜひ国産メーカーにもマネしてほしい装備だ。

T-ROC
両足でステップを踏む姿勢を取ると、足だけでなく腰や背中まで、力が抜ける

■乗り心地性能 7.5点(10点満点)

上下方向のフワ付きはなく、適度に引き締まったサスペンションのセッティングだ。乗り心地は、中低速ではやや硬めで路面の継ぎ目やマンホールなどでは、ゴツンというショックが来る。

特に、リアタイヤが地面から受ける当たりが硬く感じ、突起ショックのレベルは並み以下だ。215mm幅の18インチタイヤは、中低速ではやや奢り過ぎにも思えるサイズだ。

サスペンション形式はフロントがマクファーソンストラット、リアはトレーリングアームと、コンパクトSUVとしてオーソドックスな構成だが、ゴルフ7だとリアのトレーリングアーム式は15インチと16インチのベーシックモデルのTSIの中位グレード以下のみで、それ以上のグレードには4リンクのマルチリンク式となる。

そのため、T-Rocのように、18インチタイヤとトーションビーム式の組み合わせでは、無理があるようにも思う。

■ロードノイズ 7.5点(10点満点)

一般道でのロードノイズのレベルはやや大きめだ。この辺りは国産SUVの方が、はるかに静かにできている。表面が荒れた一般道や高速道路でも、特有のゴー音が聞こえる。ゴルフ7の静寂感を知っているとやや物足りなくも感じる。やはり、18インチタイヤの影響が大きいのだろう。

また、ディーゼルエンジンから聞こえる特有のガラガラノイズもアイドリング時はわりと大きめに響いてくるので、フォルクスワーゲンはエンジンの存在感を隠す気がないようにも思う。ちなみに、マツダ3のディーゼルの方がずっと静かだ。

ただし、一般道での巡行や高速走行になると、その音が気にならなくなるので、高速巡行時は至極快適だ。

T-ROC
T-Rocのタイヤサイズはグレード毎に、16インチから19インチまである。TDI Sportは18インチ、上級クラスのR-Lineは19インチ

■動力性能 8.5点(10点満点)

2.0リッターディーゼルのTDI(150ps/34.7kgfm)は、出足の力強さと加速の良さが魅力だ。1430kgのT-Rocを簡単に高速度域まで加速させてくれる。

車速ゼロからの発進、緩加速、高速合流の強加速、高速巡行走行など、シーンを問わずに力強い。しかもそれを、2000rpm程度の低い回転数でやってのける。ガラガラとしてエンジンノイズも、加速するときにはむしろ力強く感じる。

国産のハイブリッドやEVの静かな走りもよいが、ロングツーリングにはやはりディーゼルが向いている。

ただし、30-40km/h程度でスピードを維持すると、DSGがシフトアップせず、2速でホールドされる時間が長くなるため、エンジンが唸りをあげ続けるシーンがあった。アクセルペダルを戻すか50km/h程度までスピードを上げてやる必要があった。

最終的な実燃費は19.5km/Lであった。WLTCモード燃費は19.5km/Lであり、実燃費とカタログ値がほぼ追いついたことになる。また、瞬間燃費の数字を見ていると、高速道路の巡行で燃費が圧倒的に良くなる傾向がある。

T-ROC
最終的な実燃費は19.5km/L。WLTCモード燃費は19.5km/Lであり、実燃費とカタログ値がほぼ同じとなった

■まとめ

T-Rocは、ベースグレードにあたるTDI Styleが384万9000円、デザインパッケージ装着車が405万9000円、TDI Sportが419万9000円、TDI R-Lineは453万9000円だ。

ただし、ナビやオーディオ、コネクティッド機能を有した8インチタッチスクリーンモニタのDiscover Proや、画面全体に地図表示ができるデジタルメータークラスターも標準装備。また、全車速追従機能付のアダプティブクルーズコントロールやレーンアシスト機能もつき、総額60〜70万円に相当するだろう。

国産コンパクトSUVは、同一装備でざっと見積もると320万円から400万円あたりになる。そう考えると、T-Rocと国産SUVの差はさしてないようにも思える。

T-ROC
T-Rocと国産SUVのコスト的な差はさしてない。T-Rocはデザイン買いも大ありのSUVだ

高速巡行を得意とするディーゼルエンジンか、一般道での静かさと燃費に勝るハイブリッドか、最後はユーザーがどちらにウェイトを置いているのかで選ぶのが良い、と考えられる。

しかし、最後の決め手はクルマのデザインだろう。筆者はT-Rocのリアスタイルが気に入っている。T-Rocのお洒落な外観は、見る人の目を引くことができるはずだ。

(文:自動車ジャーナリスト 吉川賢一/写真:エムスリープロダクション 鈴木祐子)

試乗動画はこちら!【クリッカー第2チャンネル】

この記事の著者

Kenichi.Yoshikawa 近影

Kenichi.Yoshikawa

日産自動車にて11年間、操縦安定性-乗り心地の性能開発を担当。スカイラインやフーガ等のFR高級車の開発に従事。車の「本音と建前」を情報発信し、「自動車業界へ貢献していきたい」と考え、2016年に独立を決意。
現在は、車に関する「面白くて興味深い」記事作成や、「エンジニア視点での本音の車評価」の動画作成もこなしながら、モータージャーナリストへのキャリアを目指している。
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