「HONDA e」のホンダらしさとは?「便利さよりもセンス」で産まれた新世代のシティコミューター

■EV化が進む欧州Bセグメントマーケットに殴り込み

すでにティザーサイトがオープンしている「Honda e」が、日本発売を前に報道陣に公開されました。

「ホンダらしさとは?」という原点に立ち返って開発された新世代のシティコミューターは、欧州、日本に向けて投入されるコンパクトEVです。

ホンダe
HONDA eのフロントビュー。写真はイメージカラーの「チャージ・イエロー」

「ホンダらしさとは何か?」という議論を重ねる中で「当社は絶対に他を模倣しない。どんなに苦しくても自分達の手で日本一、いや世界一を。」という本田宗一郎氏の言葉を目にしたという開発陣が生み出した「Honda e」は、レイアウトや内・外装もホンダらしい独創性にあふれています。

欧州Bセグメント級のボディサイズ(AよりもBセグメントに近いサイズ感)は、開発責任者の一瀬智史(いちのせ ともふみ)氏によると、全幅が日本の5ナンバー枠を超えるものの、ミラーをたたんだフィットよりも狭く収まっているそう。

ホンダ e
全幅こそ3ナンバー枠になるが、サイドカメラミラーシステムの採用もあり、フィットのミラーを折りたたんだ状態よりも幅は狭いそう

当初の構想段階ではFWD(前2輪駆動)だったそうですが、世界トップクラスの最小回転半径を実現するため、RWD(後2輪駆動)に舵を切ったのも、小回り性能へのこだわりが生んだ方向転換だったそうです。なお、最小回転半径は4.3mとなっています。

ホンダ e
ショートオーバーハングとモーターのリヤ配置、大きなタイヤ切れ角により、4.3mの最小回転半径を実現

■「HONDA e」が広さやユーティリティよりも伝えたいこと

「HONDA e」は独創的なモデルでありながらも、開発責任者の一瀬智史氏にあえて近いイメージのEVを挙げてもらうと、MINIのEV版や新型プジョー208(e-208)は意識しているようです。

BMWのi3は少し独特なモデルで、Aセグメントのスマートやフィアット500(次期)のEVよりも1クラス上のポジションと考えているそう。

ホンダ e
正面、真後ろから眺めるとキャビンがかなり上すぼまりになっていて、「台形」のようなフォルムに見える

「Honda e」の前後席に座ってみると、床下にバッテリーが積まれているためか、ガソリン車よりも「上げ底」感があります。コンパクトカーでより高効率なパッケージングを実現するのであれば、フィアット500とプラットフォームを共有化するフィアット・パンダのような手法もありそうです。

つまり、全高を上げて、座面の位置を高くしてアップライトな乗車姿勢を取れば、ホイールベースを抑えながら、より高い居住性や開放感が得られる手法です。

ホンダ e
HONDA eのフロントシート。前席はシートサイズが大きく、前席左右間のサイドウォークスルーが可能

その点に関しては「この全長で背を高くすると、どんどんファニーなテイストになってしまう」ということで、こうした手法は採らず、愛らしい顔つきやリヤビューでありながらも、低く構えた安定感のあるフォルムと、絞り込まれたキャビンが目を惹きます。

それでも大人4人が座れる広さを確保。ただし、4人乗ってしまうとあまり荷物は積めません。この点に関しては、「いっぱい積めるでしょう」ということに価値をおいていないそうです。

「こんなに小さいんだけどオシャレでしょう、センスいいでしょう」というのを見てもらいたいとのこと。例えば、後席は分割可倒式ではなく、一体可倒式になっています。

ホンダ e
HONDA eのリヤシートは、家のソファをクルマに持ってきたようなテイストで、座り心地もフカッとしている

ソファに見立てたリヤシートに線を入れてしまうと、「ソファに見えないじゃないですか」と従来のクルマ作りとは、異なったアプローチが採られています。

ホンダ e
HONDA eのラゲッジ。後席背もたれは、左右一体可倒式なので、「3人乗車+荷物」というシートアレンジはできない

ソファのようなシートをもつクルマは、日産キューブやホンダN-BOXスラッシュなど、過去にいくつかありますが、それは数あるこだわりの一例に過ぎません。

「HONDA e」は、クルマに近づくとフロントのドアアウターハンドルがせり出す仕掛けや、リヤドアのアウタードライブもボタンを押しながら凝った仕掛け(あえて不便でも)になっています。

ホンダ e
リモコンキーを携行して近づくと、自動でポップアップしたアウタードアハンドルに触れるとロックが解除される

想定される日本のユーザーは、EVに関しては航続距離への不安が一般的にあることからセカンドカー需要が大半と予想しているそうです。

電動化車両なので「初めてのマイカー」として若い人が買うよりも、ある程度予算に余裕がある人や、若い人でも成功している方などもオーナー候補になりそうです。

ホンダ e
こちらはピラーに埋め込まれたリヤドアハンドル。ボタンを押すとハンドルがせり出し、ドアを開けることができる

日本生産の「HONDA e」は、先述したように日本と欧州への導入が決定しています。

他市場への導入を一瀬智史氏に伺うと、中国にこのまま持って行くことはないそうです。ただし、乗ってもらえれば自信作としています。

ホンダ e
5つのスクリーンを配した水平基調のインパネは、かなり未来的

導入される欧州は、違いや個性に対して正当に評価される地域柄があり、導入のアナウンスがないアメリカではサイズが少し小さすぎる、衝突基準などに対応するため改造が必要になるのでは、と明かしてくれました。

ただし、ヨーロッパの試乗会にアメリカの記者が紛れ込んでいたそうで、「こんな面白いEVなのに、アメリカには来ないんだよ!」という記事が出たそう。

ホンダ e
ホンダ eのエクステリア。写真は17インチを履く「Advance」仕様

欧州と日本だけではもったいない!!  と思わせる「HONDA e」。1997年にダイムラーとスウォッチが手を組んで世に送り出した初代スマートや、MINIをBMW流に復活させた現行MINIのような発明を想起させる仕上がりになっています。

(文/塚田勝弘 写真/小林和久)

この記事の著者

塚田勝弘 近影

塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
続きを見る
閉じる