EV車輌がガチバトル! ALL JAPAN EV-GP SERIESが開幕。第1戦を制したのは…?

■JEVRA開幕戦はテスラ・モデル3が圧勝

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で開幕が遅れている日本のモータースポーツシーンですが、5月30日(土)に日本電気自動車レース協会(JEVRA)主催のALL JAPAN EV-GP SERIES第1戦「全日本 袖ケ浦EV 50kmレース大会」が開催されました。

EVレース開幕戦グリッド
開幕戦決勝レースのフロントロウには2台のテスラモデル3が並びました

2020年シーズン開幕戦となるこの袖ケ浦戦は、当初の予定よりも一か月半遅れての開催となりました。当初14台のエントリーを集めておりましたが、結局8台が出走しました。

新型コロナウィルス感染予防対策
新型コロナウィルス感染予防および拡大防止に向け、場内でのマスクの着用、手洗い、アルコール消毒の徹底、体温チェックを実施していました

このEVレースは、バッテリーに蓄えた電力で走行する電気自動車(BEV)、そしてタンクに積んだ水素を電気に換えて走行する燃料電池車(FCV)、搭載するエンジンの出力が直接駆動力とならないPHEV(プラグインハイブリッド車)といった車両で行われるレースです。

基本モーターで駆動する車両なら、市販車から内燃機関車両からの改造車(コンバートEV)まで、ほぼ参戦が可能です。クラスは、それら各駆動電力の方式でクラス分けされ、さらにBEVではモーター出力によって、EV-1(モーター出力161kW以上)からEV-4(モーター出力61kW未満)までの4クラスに細かく分けられます。

レースは、競技距離50kmを基本として開催しています(1シーズンに複数回開催するサーキットでは競技距離に差をつけています)。いわゆるスプリントレースなのですが、使用できるエネルギー量が決まっていることや、走行時に発熱するモーターやバッテリーを過度に使用すると車両側がそれを制御するセーブモードが介入することがあり、セーブモードでの走行ではレースになりません。

ですから、決勝レースを全開で走行する、というよりは、周りの出方を見ながら、車両に余裕を持たせながらレース後半のどこで仕掛けるか、ということが重要になってきます。そして、その戦いは決勝レースだけでなく、すでに予選から始まってもいます。

#33 テスラ モデル3
予選ポールを獲得したのは#33 適当LifeアトリエModel3を駆るTAKAさん

午前11時5分から始まる予選セッションは、15分間用意されています。予選というと、じっくりとタイヤを温めていきタイヤの一番いい状態で、他の車両に邪魔されないようなクリアラップでタイムを出す。クリアラップが獲れなかったら再度アタック、ということになると思います。

が、このEVレースでは予選アタックを最小限に抑えることも多く見受けられます。走行をすればバッテリーは放電するために発熱します。エネルギーを多く使えば充電をしなければなりませんが、充電でもバッテリーは発熱します。

使用エネルギー量が多ければそれだけ充電に時間がかかり、充電に時間を取られると決勝までの限られた時間にバッテリーを冷ますことができなくなります。そうすると、決勝レース中のセーブモード突入を回避が難しくなります。

#1 テスラ モデル3
コンマ5秒足りず、予選2番手となった#1 TAISAN東大UP TESLA 3の地頭所 光選手

すでに初夏を思わせる快晴に恵まれたこの日の袖ケ浦の気温は、この予選セッション前に27度に到達。バッテリーにも厳しい気候となりました。

予選では、今回初参戦となるTAKAさん選手(テスラ モデル3/EV-1クラス)が1分13秒007のベストタイムでトップに。これにコンマ5秒足りない1分13秒507で同じくテスラ モデル3に乗るチームタイサンの地頭所光選手が2番手に入りました。同じチームタイサンの木村龍祐選手(テスラ ロードスター/EV-1クラス/1分19秒861)が3番手。

4番手の廣瀬浩明選手(日産リーフ/EV-4クラス/1分25秒692)を挟んで5番手には、アメリカのSST(スタジアム・スーパートラック)へ挑戦を続けている千葉栄二選手(テスラ モデルS/EV-1クラス/1分25秒728)が入りました。千葉選手の車両はコースイン直後の操作でアラートが出てしまってセーブモードに入ったままの走行を強いられ、タイムアップすることができず、このタイムとなってしまいました。

EV-Rクラスではモータージャーナリストの石井昌道選手(日産ノートe-Power/1分30秒980)が7番手となりました。

#3 テスラ ロードスター
予選3番手には、#3 TAISAN UP TESLA RSの木村龍祐選手

決勝レースは15時50分から21周で行われます。予選が終わってからのこの4時間以上のインターバルも各チームとも車両の準備に追われます。BEVは急速充電や普通充電でバッテリーに電気を貯めます。一部バッテリー容量に余裕がある車両はここではあえて充電をしないということもあります。

ノートePOWERは、外部からの給電ができないため、エンジンを掛けてバッテリーに電気を貯めておきます。朝から晴天で気温が上昇したこともあって、予選後のお昼過ぎのタイミングで夕立があり、袖ケ浦周辺は非常に過ごしやすい気候に落ち着いて決勝を迎えることとなりました。

袖ケ浦FRWの夕立
気温の上昇で、夕方の決勝は厳しい戦いになるかに思われましたが、昼過ぎに激しい夕立が会場を襲い、一気に向け過ごしやすい気候になりました
EVレース開幕戦スタート
ホールショットを獲ったのは地頭所選手。これ以後一度もトップを譲ることなく、同じモデル3のTAKAさん選手を30秒近く、3位のモデルSの千葉選手を2ラップダウンして完全勝利

その決勝レースでは予選2番手だった地頭所選手が真っ先に一コーナーに飛び込んでレースをリードしていきます。地頭所選手は「2番手以降で走行するとなると自分のペースで自分のライン取りができなくなり、ロスが大きくなるので、スタートで前に出るのは作戦通りでした」とハイペースでレースを進めていきます。

一方2番手となってしまったTAKAさん選手は、最初の数周は地頭所選手について行ったものの、そのペースを見て「これは途中でタレ始めるだろう」と予想し、周回遅れが出始めたタイミングでペースを落とし、丁寧にそれらをパスしながら様子をうかがう作戦に切り替えたようです。

TeamTAISAN
チーム・タイサンとしては87勝目をマークした。千葉代表は「(100勝まで)あと13な!」をチームにハッパをかけています

しかし、地頭所選手は、10秒近くのマージンを築いた後、若干ペースを落としながらもそのままトップを譲ることなく21周を走り切りトップでチェッカーを受けて2戦ぶりの優勝を果たしました。これでチームタイサンには87勝目をプレゼントしました。2位にはTAKAさん選手が入ってテスラ モデル3のワン・ツーとなりました。

EVレース開幕戦2位TAKAさん
モデル3の速さが際立った2020開幕戦。この2台が他車を2周以上ラップダウン

3番手争いは、テスラ ロードスターの木村選手とテスラ モデルSの千葉選手によるチームタイサンのチーム同士、テスラ同士の対決となりました。千葉選手が木村選手を追いかける展開となりましたが、徐々に間合いを詰めた千葉選手がこれをパス。これで木村選手が逆に引き離されていくかに思われましたが、再び木村選手が千葉選手の背後につき、逆転。これで決着かと思いきや、トップが周回残り2周というところで、最終コーナーを立ち上がった木村選手のテスラロードスターが突如ペースダウンしてしまいます。

アクセル・トラブルということで、ちょっと動いては止まり、という状態が繰り返されましたがホームストレート1本分が精いっぱいという状態。この間に木村選手を千葉選手がパスして3位を決めました。

EVレース開幕戦3位千葉選手
17周目に前を行く木村選手のロードスターがスローダウンしたことで表彰台を獲得した千葉選手のモデルS

EV-3クラスの日産リーフ、そしてEV-Rクラスへの日産ノートePower、ともに2台ずつの参戦でクラス成立しなかったのですが、EV-3クラスは廣瀬選手、EV-Rクラスは石井選手がそれぞれクラストップでチェッカーを受けました。

EVレース開幕戦表彰台
総合表彰台に立ったのはテスラモデル3の2台モデルSと、テスラ一色となりました

今シーズン全7戦の開催を予定しているJEVRAシリーズですが、次戦は6月21日(日)に筑波サーキットで開催される「全日本 筑波 EV 50Kmレース大会」の予定です。

この記事の著者

青山 義明 近影

青山 義明

編集プロダクションを渡り歩くうちに、なんとなく身に着けたスキルで、4輪2輪関係なく写真を撮ったり原稿書いたり、たまに編集作業をしたりしてこの業界の片隅で生きてます。現在は愛知と神奈川の2拠点をベースに、ローカルレースや障がい者モータースポーツを中心に取材活動中。
日本モータースポーツ記者会所属。
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