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■燃費だけじゃない意外なメリットとは?
最近のクルマでよく耳にする「マイルドハイブリッド」というワード。ハイブリッド車というとトヨタのプリウスなどが代表的ですが、なぜわざわざ「マイルド」を付けていて、どこが違うのでしょうか? 意外なメリットも含めて紹介します。
●国産車はもちろん欧州車でも増えている
マイルドハイブリッドは近年、多くのクルマに採用されています。特にスズキはスイフトやスペーシア、ハスラーやワゴンRなど数多くのモデルに搭載。
マツダでは圧縮着火という燃焼方式を採用する新開発ガソリンエンジンSKYACTIV-Xを搭載したマツダ3に採用しています。また、日産ではセレナ(Sハイブリッド)や、3月に発売されたばかりのルークスにも装備しています。
一方、欧州メーカーでもメルセデス・ベンツのEクラスセダンやフォルクスワーゲンの新型ゴルフ、アウディA6/A7やボルボXC60など多くの新型車に採用され、今や世界的なトレンドにさえなっています。
では、いわゆるハイブリッドやプラグイン・ハイブリッドと何が違うのでしょうか? 両者ともエンジンとモーターを搭載するのは同じですが、最も大きな違いは、マイルドハイブリッドは電動モーターだけで走る「EV走行」をしない点です。
●ハイブリッドはモーターでも走る
一般的にハイブリッド車は、走行するための動力としてエンジンだけでなく、モーターも使うことで燃費向上や排ガス低減を目的としたクルマです。
プリウスなどの場合、発進時など、低速走行時はモーターだけでのEV走行を行い、速度がある程度出るとエンジンで走る仕組みになっています。市街地や渋滞路など、低速時にモーターで走れば実質的に排ガスはゼロ。ガソリン消費量を最小限に抑えられます。
また、エンジンが始動中でもバッテリーに十分な電力があれば、走行状況に応じてモーターだけで走ることが可能。
例えば一定速度での巡航時など、アクセルペダルを深く踏み込んでいない時は、EV走行に切り替わります。
ちなみに上記のようなシステムは「パラレル式」と呼ばれています。
同様の仕組みながら、プラグイン・ハイブリッドの場合は通常のハイブリッド車よりバッテリー搭載量が多いため、さらに長距離のEV走行が可能です。
ほかにもハイブリッドには、日産のノートやセレナの「e-POWER」ように、走行はモーターのみで行い、エンジンはモーターの発電だけに徹する「シリーズ式」というタイプもあります。
●アイドリングストップからの再始動で使用
対するマイルドハイブリッド車は、アイドリングストップからエンジンを再始動する時にモーターを使用。通常のスターターモーターよりも早く、静かに再始動させることができます。
また、マイルドハイブリッドのモーターは、例えばスズキ車の場合、発進後から加速時にエンジンの動力を補助する役目も果たします。一般的に、クルマは加速時により多くの動力を必要とし、ガソリン車では燃料消費量が増える傾向にあります。
そこで、マイルドハイブリッドでは加速時にモーターがエンジンをアシストすることで燃費を向上させるのです(なお、マツダ3のSKYACTIV-X搭載車は、元々エンジンの燃費がいいためモーターはエンジン始動時のみ稼働、加速アシスト機能はありません)。
ただし、マイルドハイブリッド車のモーターはハイブリッド車が搭載するものほど大きくなく、単体でクルマを走らせるだけの出力がないため、前述の通りEV走行はできません。よって、低燃費性能ではハイブリッド車の方が優れているといえるでしょう。
●低コストで作れることもメリット
このように、マイルドハイブリッドはハイブリッドの簡易版的なイメージがあります。実際にプリウスなどの方式を「ストロングハイブリッド」と呼び、「マイルドハイブリッド」と区別する場合もあります。
ですが、実は意外なメリットもあるのです。
それはハイブリッド車と比べて構造がシンプルにでき、部品やバッテリーの搭載数などが少なくて済むことです。これらにより、クルマの価格上昇を抑えることができます。
マイルドハイブリッドに採用されるモーターは比較的コンパクトで、通常はエンジン付近に搭載されています。
また、バッテリーは、例えばスズキ車の場合、エンジン始動や車内灯、ナビやパワーウインドウなどに使うメインのもの(アイドリングストップ車用の鉛タイプ)と、加速アシスト用の専用バッテリー(リチウムイオンタイプ)を搭載します。
ちなみにマイルドハイブリッド用でもハイブリッド用でも、モーターは減速時に発電する機能を持っており、この機能は「回生(かいせい)」と呼ばれています。モーターは回生により発電して、バッテリーを充電します。
マイルドハイブリッドの場合も、モーターは減速時に発電機の役目を担い、加速アシスト用バッテリーだけでなく、メインのバッテリーにも充電。一般的に使われるオルタネータ(走行中に発電)よりも、より大きな電力を生み出すことができるのです。
一方ハイブリッド車の場合は、発進や低速でのEV走行や、走行中にもエンジンとモーターが切り替わるといったより多くの機能があるため、構造が複雑で、バッテリーの搭載数や部品点数などはマイルドハイブリッドより多くなります。
また、マイルドハイブリッドはガソリン車の延長線上で作ることができる一方で、ハイブリッドはほぼ専用設計のため、より多くの開発費が必要となります。
これらの点から、マイルドハイブリッドの方がより低コストで作ることができ、結果的に車体価格が抑えられるのです。
例えば、スズキのコンパクトカー・スイフトの場合、
・ハイブリッド車の「HYBRID SL」は2WD車のみの設定で、価格(税込)は198万5500円~205万3700円
・マイルドハイブリッド車の「HYBRID RS」では、同じ2WD車の価格(税込)が182万500円~188万8700円。
・ガソリン車では、標準グレード「XGリミテッド」の2WD車で、価格(税込)が137万5000円~148万8300円。上級グレード「RS」では2WD車の価格(税込)は171万7100円〜178万9700円。
価格差は、
・ハイブリッド車とガソリン車が約20万円~約68万円
・マイルドハイブリッド車とガソリン車では約3万円~約50万円
マイルドハイブリッド車の方が、ガソリン車との価格差が少ないことが分かりますよね。
このようにマイルドハイブリッドは、燃費向上を図りながらもメーカー的には開発費などの関係で参入しやすく、我々ユーザーとしてはより低価格で購入できるというメリットがあるのです。
(文:平塚直樹/写真:トヨタ自動車、日産自動車、マツダ、スズキ、アウディジャパン)