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■運転をサポートしてくれる装置やクルマ
車いすに乗る障がい者や足腰が弱った高齢者でも「自分で運転する楽しさを味わいたい!」というクルマ好きの方は多いと思います。
ここではそんな方々向けに、メーカーが設定している手動運転装置などの運転をサポートする装備を紹介します。
●ホンダ・テックマチックシステム
ホンダが2020年2月に発売した新型「フィット」には、運転補助装置「ホンダ・テックマチックシステム」がオプション設定されています。
装置は主に3タイプありますが、まずは両足が不自由な方向けの「手動運転補助装置」。
これはシフトノブの横に、アクセルとブレーキの操作を手動で行うコントロールグリップを装備したもの。コントロールグリップは、手前に引いてアクセル、前方へ押すとブレーキが作動します。
また、グリップには信号待ちなどでブレーキをかけたままにできるロックスイッチ、ウインカーやライト、ホーンなどを操作できるスイッチなども装備。運転に必要な操作のほとんどをグリップだけで行うことが可能です。
システム価格(税込)は27万5000円です。
右足が不自由な方向けには「左足用アクセルペダル」も用意されています。
これは本来ブレーキペダルの右側にあるアクセルペダルを、左側にも装備したもの。左アクセルペダルを踏むとアクセルリンクが作動して発進や加速が可能。ブレーキペダルも左足で踏めば、右足を使わずにアクセルとブレーキの操作ができます。
なお、このシステムは、本来の右アクセルペダルにも簡単に切り替えができるので、装着車を健常者が乗る場合には通常仕様に戻すことも可能です。
システムの価格(税込)は9万3500円です。
3つめは、片手が不自由な人向けの「ハンドル旋回ノブ」です。
ノブを持ってハンドルを回すことで、ハンドル操作を片手でも楽にできます。取り付け位置はハンドルの左右どちらでも可能で、ホーンスイッチ付きならノブから手を離さずにホーン操作ができます。
また、「左手用ウインカーレバー」も装備すれば、片手でウインカー操作も可能になります。
価格(税込)は、ハンドル旋回ノブがホーンスイッチなし1万3750円、ホーンスイッチあり1万6500円。左手用ウインカーレバーが1万2100円です。
全てガソリン車とハイブリッド車の「e:HEV(イーエイチイーブイ)」の両方に対応しています。
●マツダ・ロードスター/ロードスターRF 手動運転装置付車
「足が不自由でもスポーツカーに乗りたい!」といった方に向けて、マツダがオープンカーの「ロードスター」と、電動ハードトップ仕様の「ロードスターRF」に設定している装備です。
いずれのモデルもAT全車に設定されています。
まずセンターコンソール横に装着するコントロールグリップ。レバーを引くと加速、押すと減速します。
ウインカーやホーン、信号待ちなどで役立つブレーキロックなどのスイッチもグリップ近くに集約することで、ステアリング以外の様々な操作を片手で行うことが可能です。
クルーズコントロールが付いていないモデルでは、ハンドル右側のスポーク内にシフトスイッチも取付可能で、ATのマニュアルモードを右手のみで操作することもできます。
価格(税込)は、33万9400円〜36万5900円です。
オプションには、ハンドルの操作が片手できる旋回ノブや、助手席に載せた車いす用のカバーなども用意されています。
●トヨタ・ヤリス車いす収納付車
トヨタでは、従来から「プリウス」と「アクア」向けに、軽い操作感の専用パワーステアリングや自動で車いすを収納できるルーフケースなどを装備した、「フレンドマチック」という運転補助装置の装着モデルを設定しています。
ですが、筆者が今回注目したのは、2020年2月に発売されたコンパクトカー「ヤリス」に設定された「車いす収納付車」です(メーカー完成特装車)。
これは、障害者向けというよりも、どちらかと言えば高齢者に最適な装備だと言えます。
注目は、回転しながら外にせり出して、乗り降りを楽にするターンチルトシート。タイプ1は助手席のみ、タイプ2には運転席にも設定されています。
タイプ1は、どちらかと言えば高齢者や障害者を助手席に乗せるときの乗り降りをサポートするもの。
そして、タイプ2の運転席ターンチルトシートは、自分で運転したい高齢者などがドライバーシートに乗り降りする際にサポートしてくれるものです。
運転席から降りる際の操作は、前後スライドレバーを引き上げてシートを回転開始位置まで動かすと、回転レバーがポップアップ。
そのレバーを引き、シートを外側へ中間ロック位置まで回転させたら両足を外に出し、再び回転レバーを引くとシートが回りながら外に出て楽に降りることが可能。
外に出たら、シートの背もたれを押すと簡単に車内へ運転席を戻せます。
なお、タイプ1とタイプ2のいずれにも、リアラゲッジに電動で簡単に車いすを収納できるアームなども装備されています。
この仕様は価格も注目点です。
例えば、タイプ2は1.5LガソリンのAT車(FF)に設定されていますが、安いグレードのXで177万7000円、カタログモデルのXは159万8000円(価格差17万9000円)。
上のグレードのGでもタイプ2が192万1000円、カタログモデルのGが175万6000円(価格差16万5000円)です。
一方、前述のフレンドマチック取付用専用車は、価格(税込)がプリウスで267万8500円〜369万8000円、アクアでは201万5200円〜281万円とかなり高価です。
価格差も、例えばアクアの通常モデルの場合、いちばん安いSグレードが192万1700円なのに対し、車いす収納用ルーフキャリアのウェルキャリーなど最も装備が多いタイプ4が269万2000円ですから、価格差は77万300円。
かなり多くの装備があるので仕方ないとはいえ、特に自分で車を運転したい高齢者にはヤリスの方がリーズナブルだといえます。
現在は新型コロナウイルスの影響で、高齢者や障がい者の方も外出自粛が必要とされています。
ですが、もし沈静化した暁には、これらモデルなら「自分でクルマを運転して出かける」楽しみを味わえることでしょう。
その日が、早く訪れることを切に願います。
(文:平塚直樹 写真:本田技研工業、マツダ、トヨタ自動車)