目次
■エンジンや車輪などの回転速度とステアリング操舵角などの回転角の計測が可能
●従来の電磁ピックアップやホールセンサーから、主流は精度の高いMR(磁気抵抗)センサーへ
クルマは、エンジンの回転を動力して、最終的にはタイヤが回転して動きます。そのため、クルマを制御するためには、さまざまな回転体の回転速度や回転角を精度良く計測する必要があります。
エンジンや車両の制御に使用されている回転速度センサーMR(磁気抵抗素子)の原理と適用例について、解説していきます。
●回転速度を計測する磁気センサー
クルマのさまざまな回転制御に使われているのは、回転速度や回転角を検出する非接触の磁気センサーです。
磁気センサーは、エンジンのクランクシャフト回転速度や車両のABS(アンチロック・ブレーキシステム)の車輪速の計測などに採用される場合と、スロットル開度やステアリングの舵角などの回転角の計測に採用される場合があります。
代表的な磁気センサーとしては、電磁ピックアップやホールセンサーがあります。
電磁ピックアップは、磁石に誘導コイルを取り付けたセンサーで、ギヤの回転で発生する山谷の波形の数から回転速度を計測します。ホールセンサーは、磁界の強さを電圧に変換してローターの回転角を検出する方法ですが、いずれもノイズに弱く対策のためにコストが上昇します。
●MR(磁気抵抗素子)センサーとは
MRセンサーは、電磁ピックアップとホールセンサーの欠点を解消し、回転速度と回転角の両方を検出できるセンサーです。
ギヤの回転速度を検出する場合は、ギヤの歯とセンサーの距離が短くなる方向に磁界が働くので、ギヤの回転によって磁界の方向が変化します。磁界の方向によって電圧が変化することから、発生電圧を信号処理してカウントすることによって、回転速度が求められます。
磁界の強さを検出するホールセンサーと比べて、機械的な影響を受けづらく温度変化にも強いという特長があります。さらに、検出用の磁気回路が簡単なのでシステムコストを抑えることができ、ホールセンサーからの置き換えが進んでいます。
●MRセンサーの適用例
・回転速度センサー:ABS(アンチロック・ブレーキシステム)
ABSは、各タイヤのグリップ力を適正に保つことによって、コーナリングフォースの低下を防ぎ、操舵性と最適な制動力を実現するシステムです。急ブレーキや滑りやすい路面の制動で生じるタイヤロックを防止して、適切な制動力を発生させます。
ABSを発揮させるためには、各車輪の回転数差からスリップ状態を検知する必要があります。車輪と連動するギヤローターにMRセンサーを組み込んで各車輪の回転速度差を検出して、制動力を制御します。
・回転角センサー:ステアリング操舵角
ステアリングの回転角度検出としては、従来は光学式が使われていました。回転するディスクの円周上にスリットを設けて、スリットに対応した回転情報をフォトカプラによって計測します。しかし、光学式は絶対角の検出ができず精度が高くないという課題がありました。
MRセンサーの場合は、ステアリングシャフトにメインギヤを設け、その回転と連動する検出ギヤの回転角をMRセンサーで検出します。MRセンサーを適用することによって、絶対角と分解能の高い検出ができます。
・その他
エンジンのクランクシャフトとカムシャフトの回転速度、スロットル開度、ワイパーの開度、ミラーの向き、ヘッドランプの向きなど、多くの回転速度と回転角の検出にMRセンサーが採用され始めています。
クルマの電子化やバイワイヤ化(センサーとアクチュエーターを機械的でなく、電気的に連結)が進む中、車載センサー自体の高精度化が要求されます。
回転速度や回転角の検出が、電磁ピックアップやホールセンサーから、精度の高いMRセンサーへと置き換わるのも必然的な流れかもしれません。
(Mr.ソラン)