90年代の新車不況を救った新世代イタリアン・ハッチ。フィアット・プント(初代)【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判:輸入車編】

80~90年代輸入車のグッドデザインを振り返る本シリーズ。第26回は、コンパクトカーのトレンドセッターとして、新世代の「ポイント」を打ち出したイタリアン・ハッチに太鼓判です。

■自然な佇まいながら新鮮なボディ

punto・メイン
ミニバン的なキャビンを持ちつつ、自然でバランスのいいプロポーションが魅力

1990年代に入り新体制となったフィアットは、新車不況の中、ヒット作となったウーノの後継車を計画。Bセグメントのトレンドリーダーとして、1993年に発表したのが初代のプントです。

基本的には、ウーノに準じる実用的なハッチバックとして極めて自然なプロポーション、黄金比のようなバランスをもつボディですが、しかしウーノとは異なる新しい個性と適度な刺激性を持って登場しました。

乗用車的な低めのフロントノーズには、あたかもミニバンのようなキャビンが続きますが、意外にもウエッジの強いベルトラインが重さを払拭。勢いのついたリアは、常識的なハッチバックスタイルがしっかり受け止めます。

punto・サイド
ほぼ曲面ながら、決して過多なボリュームを感じさせないボディ

ほとんどが柔らかな曲面で構成されるボディですが、サイドには力強いショルダーラインが走り、面の厚みを演出。フェンダーも緩やかな曲面ながら、豊かなプレスドアとボディを囲むサイドモールが強いカタマリ感を生み出します。

スリムなフロントフェイスはいわゆるグリルレスですが、緩やかにスラントにすることで強面にならず、一方、高い位置に置かれたリアランプには、駆け上がるベルトラインとサイドウインドウが見事に融合します。

■時代を先取りする造形力

punto・インテリア
ボディに準じ、90年代らしい新しさと、機能性の高さが両立したインテリア(写真はカブリオレ)

インテリアは、大きなカタマリをくり抜いたようなテーマがユニーク。一体成型の構成がいかにも90年代の表現ですが、エクステリアほどの新鮮味が感じられないところが少々残念です。

エクステリアはウーノに引き続きイタルデザイン、ジウジアーロによるもの。パンダ、ウーノとフィアットの経営危機を救ってきたマエストロですが、この初代プントも大ヒット作となって同社の苦境を救いました。

注目すべきは、パンダ、ウーノ、プントと、70年代終わりから90年代にかけ、時代の変化に即した最新の造形テーマを打ち出していること。3世代に渡って時代のアイコンとなるクルマを生み出すデザイン力には、凄みすら感じられるのです。

●主要諸元 フィアット プント・セレクタ (CVT)
全長3760mm×全幅1625mm×全高1460mm
車両重量 970kg
ホイールベース 2450mm
エンジン 1240cc 直列4気筒SOHC
出力 60ps/5500rpm 9.8kg-m/3000rpm

(すぎもと たかよし)

この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
続きを見る
閉じる