■正統派の未来
彼女:「スポーツカーみたいなシルエットだけど、背が高いSUV。背の高いスポーツカーに乗っているような不思議な感覚ね」
彼女の何気ない言葉は、実はI-PACEの雰囲気をよく表していると思う。
前回に続いて、信じられないほど滑らかに走るジャガーI-PACEで移動しているボクと彼女。I-PACEはジャガー初のEV(電気自動車)であり、ジャンルとしてはSUVだ。
だけどボディデザインは、SUVというよりはクーペでフロントウインドウもリヤウインドウもかなり寝ている。実用性よりもスタイリッシュな感覚を重視しているってことだ。それでいて着座位置が高いから乗っているとちょっと不思議な感覚を覚える。
ボク:「I-PACEの外観は、実は見る人が見れば『いかにも電気自動車っぽい』と感じるんだって」
彼女:「どうして? 私にはわからないな」
その秘密は、真横から見た時のシルエットだ。全長が4.7mもある割にはボンネット(一般的にエンジンルーム長ともいうけれどEVなのでエンジンは積んでない)が短い。これはエンジン車では考えにくいことで、大きなエンジンを積む意思がないことと同時に、“ロングノーズ”という古い価値観に縛られないことを意味している。
そして全長の割にホイールベースが長く、キャビンの前後長が広く確保されている。これは居住スペースを稼ぐと同時に床下にたくさんのバッテリーを積むためのプロポーションなわけだけれど、それを言い換えれば「EVっぽい」となるわけだ。
■クルマとボクたち
彼女:「なるほど、でも私にはそんなことより天井のほうが魅力的かな。この天井、サイコーね。(天井が)ガラスになっているクルマに乗ったことは何度もあるけど、ここまでガラスが大きいのははじめて。この開放感は好きよ」
そう言われてみれば確かに、ここまで大きなガラスルーフは珍しい。前はフロントウインドウから繋がっているに等しいし、後ろはリヤシートの上まできっちりとパノラマになっている。ワゴンや大型SUVなどでもっとガラス面積の大きなクルマはあるけれど、ルーフ面積に対するガラスの大きさでいったら、I-PACEが最大だろう。なぜなら、このルーフには開閉するシェードがないからだ。
こんなの、市販車では今まで見たことがない。
普通のガラスルーフにはシェードがついている。しかしI-PACEのガラスはシェードが不要だからだ。太陽光を反射し、遮熱もおこなう特殊なガラスにより実現したのだという。ちなみに日本製らしい。
彼女:「あと、運転席のまわりに液晶パネルがたくさんあるのが未来っぽいわ。ナビだけじゃなく、メーターも、エアコンを動かすところも、そして温度を変えるダイヤルまで液晶って見たことない。」
たしかに、そういった演出ではI PACEはかなり未来へ進んでいる。
彼女:「テスラは動くスマホみたいでしょ。シンプルに大きなタッチパネルがあって。I-PACEはそれに比べると同じ未来でも、クルマらしい正統派の未来って感じかな」
ところで、未来のクルマの話もいいけれど、たまにはボクたちの未来の話も……今日は、まあいいか。
(文:工藤貴宏/今回の“彼女”:久保まい/ヘア&メイク:牧 詠子/写真:ダン・アオキ)