■2020年のクルマ選びはADASやAEBを必須条件にすべき理由
高齢ドライバーの起こす交通事故を減らすために、少なくとも高齢ドライバーにおいては衝突被害軽減ブレーキ(AEB)を義務化すべきという声があります。「AEB装着車限定免許」を新設すべしという話もあるくらいです。
2021年11月以降に発売される新型車には車両だけでなく歩行者も検知できるAEBが義務化されることは国土交通省より発表されています。遠からず、ほとんどのクルマにAEBが備わる時代がやってくるでしょう。
すでに軽自動車においてもAEBは当たり前の装備となっていますから、義務化というのは既定路線で、驚くような話ではないともいえます。継続生産車の標準装備化が2025年12月となること、市場に出回っている中古車は義務化の対象外となることから、街を走っているクルマのほとんどにAEBが付くというのは先の話になるでしょうが、全車にAEBが備わる時代というのは夢物語ではないのです。
一方で、AEBのような機能がつくと運転スキルが向上しないという批判の声もあります。
その中には「AEBに頼った運転をしてしまうのが心配だ」という声もあるようです。とはいえ、AEBというのはドライバーの意図しない急ブレーキのような挙動になりますから、自分でブレーキを踏まずにAEB頼りで運転するドライバーがいるというのは、その仕組みを知らない人の想像上の話でしょう。実際に、ブレーキ操作をせずにAEBだけでクルマを運転しているという人がいるとは考えづらいものです。
少なくとも、現在のAEBは赤信号を検知してブレーキをかけることはやっていません。あくまでも、前方に歩行者や車両、障害物などがありそのままの走行スピードでは衝突が予想されるような減速すべきシチュエーションにおいてドライバーのミスをカバーするのがAEBの役割です。
よそ見などのミスをカバーするものですから、日常的には作動していないのです。より正確にいえば、周辺検知はしていますが、しっかりとドライバーが正しく操作している限りはブレーキが自動的に働くことはありません。AEB付きのクルマに乗っているからといって運転が下手になることはないといえます。
むしろ、運転がうまくないドライバーはミスを犯すことが多いでしょうから、AEB付きのクルマに乗っていることで、事故リスクを小さくすることができるといえます。
つまり、運転にこれから慣れていくべき初心者向けのクルマとしてもAEBは必須メカニズムといえる時代になっています。実際、運転免許を手に入れてから1年以内の初心者は追突事故を起こすリスクが、免許取得後10年以上のドライバーと比べると4倍以上になるという話もあります。AEBは追突事故を半減させる効果がありますから、わざわざAEBなしをのクルマを選ぶという意味はありません。
「機械に頼ると下手になる」と主張するベテランドライバーも少なくありませんが、そうした主張は生存者バイアスが強いといえます。そもそも、1990年代までのクルマにはABSやトラクションコントロール、ESC(横滑り防止装置)などはほとんど装備されていませんでした。かつては機械に頼りようがなかったのです。その時代、いまよりもずっと交通事故は多数発生していました。あえて事故リスクを取ったからといって運転がうまくなる保証もありません。
さらにいえば、ADAS(先進運転支援システム)がどんどん進化する時代です。完全自動運転になるまでには、まだ時間がかかるでしょうが、2020年にはオリンピック・パラリンピックにあわせてレベル3の自動運転が実現するといわれています。
数年内にはハンズオフ(手放し運転)は当たり前になることでしょう。そうなると「ハンズオフは慣れなくて怖い」などと言っている場合ではなくなります。むしろ、初心者のうちからハンズオフに慣れていくほうが将来的には有利といえるかもしれません。免許取り立てで日産・スカイラインやBMWなどの最新マシンを愛車にできるというのはレアケースでしょうけれども。
いずれにしても「最新の安全機能をうまく利用できるスキル」につながるクルマ選びが、2020年には重視されることになるでしょう。
(山本晋也)