目次
■シンプルで低コストだが温度制御で不利
●自動車用エンジンとしては市場から消滅
すでに自動車用エンジンとしては市場から姿を消して久しい空冷エンジンですが、現在主流の水冷エンジンに対してどのような特徴があるのでしょうか。
空冷エンジンは、自動車用として何が問題でなぜ消えていったのか、解説していきます。
●空冷エンジンと水冷エンジンの違い
現在すべての自動車用エンジンは、エンジン内部に冷却水を循環させて冷却する水冷エンジンです。一方、空冷エンジンは外気や走行風だけで冷却するシステムで、市場からは消えていきました。
水冷エンジンでは、温度が上昇しやすい燃焼室やシリンダー周りにウォータージャケット(水通路)を設けています。エンジン内部を冷却して高温になった冷却水は、ウォーターポンプによってラジエーターに送られます。ラジエーターは、クルマの走行風によって冷却水を冷やしてからエンジンに戻し、循環させながらエンジン水温を80℃程度に制御します。
空冷エンジンでは、外気で冷却するためシリンダーヘッドやシリンダーブロックに、放熱を促進するための冷却フィンを装着します。自然空冷と強制空冷タイプがあり、自然空冷は走行風だけで冷却し、強制空冷はエンジンで駆動する冷却ファンを利用して冷却します。
●空冷エンジンのメリットと解決できなかった課題
空冷エンジンのメリットは、何といってもシンプルで低コストなことです。ウォータージャケットがなく構造が簡単で、部品点数が少なく製造も簡単です。
最大の課題は、冷却能力不足と気筒ごとの冷却性の不均一です。冷却性能が十分でないと、以下のような問題が発生します。
・エンジン部品が許容温度を超えることによる急激な強度低下
・シリンダーやピストンの熱歪や熱膨張によるフリクション増大や摺動部の焼き付き
・潤滑油の粘度低下によるカーボンデポジット(堆積)や潤滑不良による摺動部の焼き付き
・燃焼温度の上昇によるプレイグ(過早着火)やノッキングなどの異常燃焼の発生
●空冷エンジンはなぜ消えたのか
水冷エンジンでは、運転状況によらず冷却水温が80℃前後に制御されるため、エンジン各部の温度は安定します。空冷エンジンでは運転状況や冷却状況によって、エンジン各部の温度は変化します。
エンジンの温度制御ができないため、圧縮比が上げられず、燃費や出力、排出ガス性能は水冷エンジンに比べると大きく劣ります。また、エンジン内部にウォータージャケットがないため、シリンダー内で発生する燃焼音や機械音が直接放射され、エンジン音が大きいという課題もありました。
さらに、オイル温度と主要部品の温度が上がりやすくなるため、耐久信頼性についても水冷エンジンには太刀打ちできませんでした。
●空冷エンジンの採用例
空冷エンジンにこだわった本田宗一郎の話は有名です。技術者の大反対を押し切って、部下との確執の中で1969年に「ホンダ1300」が発売されました。搭載された1300ccの空冷エンジンは、空冷式の弱点を露呈する形で市場の評価は得られず、早々に生産中止になりました。これを機に、ホンダは空冷エンジンから完全に撤退しました。
空冷エンジンで有名だった1964年発売のポルシェ911も、1998年には水冷式エンジンに変わりました。またフォルクスワーゲン・タイプ1も2003年に生産を止め、乗用車用の空冷エンジンは市場から完全に消えました。
すでに自動車用エンジンとして絶滅した空冷エンジンですが、「安かろう悪かろう」の世界から脱却できそうもないので、今後の復活は難しいと思います。
何事も成り行きでなく制御できないと、燃費や排出ガスの厳しい要求には応えられません。
(Mr.ソラン)