目次
■接点式ディストリビューターの弱点を克服
●燃費や排出ガス性能が飛躍的に向上
接点式ディストリビューター式点火システムの課題である接点の摩耗やチャタリング、点火時期制御の精度を改良したのが、フルトランジスター(フルトラ)式です。接点をなくして、トランジスターのスイッチング特性を利用して、耐久信頼性と点火時期の制御性を向上させました。
現在も点火制御のベースとなっているフルトラ式点火システムについて、解説していきます。
●接点式からセミトランジスター式点火システムへの進化
メカニカルな接点(ポイント)機構を利用する接点式ディストリビューターでは、次のような問題がありました。
・メカニカルな接点で1次電流を制御するので、点火時期制御の精度が低い。
・接点の摩耗や劣化が発生するので、定期的に接点隙間を調整する必要がある。
・接点のチャタリング(接点の開閉が瞬時に複数回起こる現象)が発生して、点火時期が安定しない。
・高回転条件で2次電圧が下がりやすい。
1990年頃から、徐々に接点機構を必要としないフルトラ式点火へと切り替わりました。ただしフルトラ式点火に移行する前に、過渡的ですがセミトラ式点火がありました。
セミトラ式点火では、ディストリビューター内の接点の開閉で1次電流の遮断は行わず、接点信号は点火のトリガー(1次電流遮断)信号として使います。接点信号を矩形波に変換してトランジスターのベースに入力し、トランジスターのスイッチング機能によって1次電流を遮断します。
接点には、大電流が流れないので接点の摩耗やチャタリングなどの課題は解消されました。
●フルトラ式点火システムへの進化
フルトラ式点火は、ディストリューターの接点機構をなくして、点火時期信号のベース信号は、マグネット式回転センサーの信号をトリガーとして使います。トリガー信号をトランジスターのベースに入力して、スイッチング機能で1次電流の遮断を行います。
ディスリビュータ-は使いますが、内部に接点機構がなくなるので、接点開閉に関わる問題は完全に解消されます。ディストリビューター内にイグナイター(トランジスターを使った1次電流の制御回路)を内蔵したフルトラ式は、次頁のダイレクト点火システムが登場するまでは主流でした。現在も、一部のエンジンでは採用されています。
●点火時期制御
接点式ディストリビューターでは、エンジン回転数や負荷に対する補正も、メカニカルに行っていました。ウェイトの遠心力を利用したガバナー方式や、吸気管負圧を利用したバキューム方式です。
フルトラ式点火からは、基本的にはエンジンの状況に応じて高精度制御する電子制御点火システムとなりました。ベースとなる点火時期は、エンジン回転数と吸入空気量で決まり、ECUにあらかじめ点火時期マップとしてプログラムされています。これに運転状況に応じて、エンジン水温や吸入空気温度、EGR量などを考慮した補正を加えて、最終的な点火時期が決定されます。
また点火時期による制御は非常に応答性が良いので、その特徴を生かして各種の車両制御と組み合わせて活用しています。
電子制御のフルトラ式点火の普及によって、燃費や排出ガス性能は飛躍的に改良されました。しかし、まだディストリビューターから点火プラグまでのハイテンションコード(高圧配線)や電波障害対策は必要です。
これらを解決したのが、次頁で解説するダイレクト点火システムです。
(Mr.ソラン)