新型ホンダ・N-WGNは「自信作のクルマですが実は課題があるのです」【元メーカー開発エンジニアの本音評価】

●良い走らせ方は「速度に乗ったら「ACC」を入れる」。これが意外と難しい!?

このたび、約5年半ぶりのフルモデルチェンジとなったホンダ「N-WGN」。8月某日に行われたN-WGNの試乗会に、日産の開発エンジニアだった筆者も参加してきました。

こういった試乗会で、いつも楽しみにしているのが、開発担当エンジニアの方々と熱い論議。今回もN-WGN担当エンジニアの方々から興味深い開発秘話を聞くことができました。N-WGN開発のウラ話とは!?

●価格

N-WGN (FF)127万4400円?142万5600円 / (4WD) 140万5080円〜155万6280円
N-WGNカスタム (FF)151万2000円?166万3200円/ (4WD) 164万2680円〜179万3880円

●商品概要

N-WGNは「ハイトワゴン軽」という競争が熾烈なジャンルに属しており、直接的なライバルは「ワゴンR」や「ムーヴ」です。今年7月に発売されたダイハツ「タント」のような「スーパーハイト軽ワゴン」はちょっと…という方におすすめのサイズ感のクルマです。このライバルに対する考え方を、ホンダ技術者に聞きました。

筆者「開発時にワゴンRをがっちりとベンチマークしましたか?」

ホンダエンジニア「販売上のライバルは『ワゴンR』ですが、徹底的にベンチマークをしたというよりも、『N-WGN』のコンセプトである誰でも扱いやすいクルマを目指し、そのキャラクタを生かすクルマつくりを目指しました」

筆者「NAとターボエンジン2台の試乗でしたが、NAはパワー不足が否めません。対策はしなかったのですか?」

ホンダエンジニア「660ccかつ自主規制の馬力制限があるので、ターボエンジンでないと力不足は感じると思います。ただし、NAの方が、アクセルレスポンスが穏やかで扱いやすいという面もあります。開発が終盤に差し掛かった頃に開発者全員で、ワインディングでの試乗をしました。絶対的なパワー不足の問題を除けば、評判が良かったのは、むしろNAエンジンの方だったんです。NAの方が扱いやすいという意見が多かったです。」

筆者「(N-WGNのターゲットは)我々のようなクルマ好きだけではありませんよね。NAの程よいエンジンパワーは中高年のドライバーや、免許取得間もないドライバーの方にとっては、扱いやすい性能といえるかと思います。実際、(筆者の)母親には、パワーのあるターボエンジンには、むしろ乗って欲しくはありません。」

筆者「一度、希望の車速に加速してしまえば、「軽」だということを忘れてしまうだけの質の高い走りをします。良い走らせ方は、速度に乗ったら「ACC」を入れる、これだと思います」

ホンダエンジニア「皆さんがそれをやってくれれば良いなと思います。そのためにはACCが安全だという認知をもっと進めたい。しかし、ある課題があるのです」

筆者「その課題とは何でしょうか?」

ホンダエンジニア「我が家はACCが付いたステップワゴンを乗っているのですが、うちの奥さん、一度もACCを使ったことが無いのです。なぜなら、クルマが動いた状態で何かを操作をするのがこわいから、だそうです」

筆者「それは実際にありますよね。使えば便利だと分かってはいても、勝手にクルマが進む感覚が怖い、と」

筆者「全車速対応ACCをホンダ軽には標準装備としていますが、他メーカーはそこまでしていません。このあたりの意図をお聞かせください」

ホンダエンジニア「過剰装備かもしれないとホンダも思ってはいます。でもホンダとして、安全性能に関する考え方は一貫して持ちたいと思っています」

筆者「おっしゃる通り、軽だからいらないという考え方は間違っています。むしろ軽だからつけていただきたいとも思っています。しかし、先ほどの事例の様に、軽のユーザーでは、オプション設定だと選択しない方が多いのは事実です。認知させる方法は我々メディアも一緒に考えていかないとならない。使う方が安全だと、広げていかなければならないのは、筆者も同様の考えです」

ホンダエンジニア「クルマの運転に対する意識が高いドライバーだと、ACCがついていると嬉しいと思ってくれますが、特に高齢の方には、その価値を伝えていくのが難しいです」

筆者「今回、ステアリングにチルト&テレスコ機能も装備されていました。良いドラポジが取れるようになりましたね」

ホンダエンジニア「ちょっとした買い物や送り迎えなど、毎日何度も乗り降りする人にとって自然と馴染むようにしました。ワゴンRのようにフロアを下げてトラックの様なドラポジにするのではなく、運転がしやすいフィットの様なドラポジにしたかったのです。そのためにコストがかかってでも、テレスコを付ける判断をしました。ホンダ軽初の採用です」

筆者「テレスコ&チルトはほかの軽にも使うのでしょうか?」

ホンダエンジニア「すべての車種への採用は考えていません。乗車姿勢に応じて採否を判断します。乗用車ライクなドラポジにしたいクルマには入れると思います」

筆者「乗り降りの際の足元の段差がないことがとても良い点ですね」

ホンダエンジニア「足の乗せおろしのしやすさは本当に重要に感じます。毎日クルマを使われる方には、その使いやすさをお分かりいただけると思います」

●まとめ

今回の新型N-WGN、ACCやLKASの採用によって、軽らしからぬ走りの良さを実現しています。ただし、ACCなどの先進技術の認知には、依然として課題があるとも共有しました。新型N-WGNの「内外装デザインや使い勝手」については、別記事でレポートします。

(文:吉川賢一/写:鈴木祐子)

この記事の著者

Kenichi.Yoshikawa 近影

Kenichi.Yoshikawa

日産自動車にて11年間、操縦安定性-乗り心地の性能開発を担当。スカイラインやフーガ等のFR高級車の開発に従事。車の「本音と建前」を情報発信し、「自動車業界へ貢献していきたい」と考え、2016年に独立を決意。
現在は、車に関する「面白くて興味深い」記事作成や、「エンジニア視点での本音の車評価」の動画作成もこなしながら、モータージャーナリストへのキャリアを目指している。
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