目次
■驚異のV字回復を成し遂げたボルボ。鍵は「プレミアム」と「顧客満足度」
ここ最近、右肩上がりで販売台数を伸ばし続けるボルボ。XC60とXC40が2年連続で日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、クルマの評判も上々です。
年間登録台数を見てみると、2014年が13,264台だったのに対して、2018年は17,389台と飛躍的に成長を遂げているのが分かります。
そんなボルボですが、じつは、少し前までは日本市場で苦戦を強いられていました。それを打破すべく、2014年にボルボ・カー・ジャパンで初めての日本人社長として就任されたのが、木村隆之氏です。
木村社長は1987年にトヨタ自動車に入社。レクサスで人材育成や顧客満足度に関する業務に携わります。その後ファーストリテイリングを経て、日産自動車へ。そして、インドネシア日産自動車やアジアパシフィック日産自動車兼タイ日産自動車の社長を歴任した、という経歴をお持ちです。
そんな木村社長は、いかにしてボルボをV字回復させることができたのか? その改革の内容について、お聞きしてみました。
●ドレスコードの設定からピンバッジの制作を実施
木村社長が就任後から言い続けてきたのは、ボルボは「純プレミアム」でなくてはならない、ということだそうです。
「市場が二極分化している中で、プレミアムのポジションを取らないと日本では生き残れません。ABB(アウディ、BMW、メルセデス・ベンツ)といったドイツ勢、そしてレクサスに対して、ボルボはスウェーデンということでブランドとしては自動的に差別化されます。ただ、『プレミアム』になると価格帯もお客様の期待値も上がります。ですから接客を磨いて、輸入プレミアムブランドの中で顧客満足度一番になる、と決めたのです。『プレミアム』と、輸入車の中での『顧客満足度一番』。この二つを両輪として、5年間ずっとやってきました」
(世界で2店目となるブランドコンセプトストア「ボルボスタジオ青山」)
木村社長が就任される前までは、意外なことにセールススタッフのドレスコードもありませんでした。各ディーラーごとにセールススタッフは任意の服装で接客に臨んでいたそうです。それを改め、全ディーラーで共通のドレスコードを設定しました。
また、ピンバッジも新たに作りました。それまではどこかのお土産物屋で買ってきたような安普請なものだったとか。新しいピンバッジはブランド研修を受けた人にしか渡さず、退社する時には返却してもらうそうです。「紛失したら弁償してもらいます。けっこういい値段がするんですよ(笑)」と、木村社長は冗談めかして教えてくれました。
●サーキットで全スタッフが競合車も試乗する
また、木村社長が5年間ずっと取り組んできたことの一つに「セールススタッフの人材育成」があります。
「1500人くらいのスタッフがいるのですが、サーキットで行う商品研修には全員が参加してもらっています。そこで、弊社の商品(クルマ)だけでなく、競合車(アウディ、BMW、メルセデス、レクサス)にも乗ってもらいます。
競合車には普段なかなか乗るチャンスがありませんが、同じサーキットで乗ると、それぞれのブランドの特徴がよく分かるんです。自分のところのクルマのここが良い、と言うだけでなく、新規のお客様がよそのブランドに乗られているのなら、そのクルマの良さを褒めなさい、と言っています。そういうことができるくらいの研修を行なっています。
もう一つ力を入れているのが接客です。WEBの時代ですから、セールススタッフ以上によく調べられた上で来店されるお客様がいらっしゃる一方で、従来通り、下調べもなくぶらっとやって来られるお客様もいらっしゃいます。ですから、一人一人のお客様と話をさせていただきながら、それぞれのニーズを引き出して、そこにどれだけ寄り添えるか? そして、どんな提案ができるのか? こうした接客が、今、本当に大事になっています」
こうした取り組みは、木村社長が就任後に社内に設置した「CSナンバー1プロジェクト」が担っています。7月24日に開催された、ディーラー全店舗を対象としたセールス・ロールプレイコンテスト「CS-VESC」も、顧客満足度ナンバー1のための施策なのです。
●顧客満足度を上げるには、従業員満足度も重要
また、木村社長は「お客様がハッピーであるためには、従業員自体もハッピーでなくてはならない」というポリシーをお持ちです。顧客満足度をCS、従業員満足度をESと言いますが、その両方が大事ということで、インポーター主体で従業員の満足度調査も毎年行なわれています。
「調査の結果が出たら、横並びで自分の販売店がどの位置にあるかを経営者や店舗の責任者が確認します。そして、CSのベースとなるESを上げるにはどうすればいいか、という対策を話し合ってもらいます。大事なのは『やりがい』『誇り』『満足』の三要素。会社組織として、自分の職種として、そしてブランドに対して、この三要素を持っているか? そんな観点でES調査をやっていて、今年で4年目となります」
様々な改革により、着々とプレミアムブランドとして変化を遂げ、業績を伸ばし続けているボルボ。販売台数だけでなく、平均購入価格も上昇しています。しかし、オーナー層は2014年とほとんど同じ、というのが驚きです。
「ボルボというブランドのユニークなところは、5年前とお客様のプロファイル、デモグラ(デモグラフィック属性=性別や年齢、職業や所得など社会経済的なデータ)はあまり変わっていないこと。いい客筋だったんです、昔から。ただ、そのころは商品がなかったということもありますし、値引きも相当横行していて、自分たちで勝手にコケているという面もありました」
●オーナー層はそのまま、平均購入価格は大幅増
「当時、平均購入価格がアウディやBMWが500万円代前半だったのに、ボルボは300万円代前半。しかし、これからは商品が変わってくるのも分かっていたので、きちんといいものを売り込んでいく、そのために必要な接客をやっていけば、数字は上がっていくと思っていました。今、平均単価は500万円強になりましたが、平均年齢50代前半、年収の中央値は1400万円といったお客様のプロファイルは、ほとんど変わっていません」
良いものならば、多少高額でも購入したい。そうしたお客様の願望を、現在のボルボは見事に叶えているということです。
しかし、木村社長の改革はまだ終わったわけではありません。今後の課題についても、お聞きしてみました。
「トップのブランドに対して、オーナーロイヤリティが若干見劣りします。今、ITの時代にディーラーが新規のお客様をがんばって取るのは本当に難しい。それはインポーターの仕事だと思っていますがが、当然、モデルの周期によって上下があります。ですから、一番大事なことは、オーナーの方にボルボと繋がり続けていただく、ボルボに乗り続けていただく、ということです」
●いかにボルボに乗り続けてもらうかが今後の課題
去年、ボルボのオーナーを対象に行なわれた調査では、ボルボからボルボに乗り換えたオーナーは全体の71%だったそうです。
「私は、これが本当のロイヤルティだと思っているのですが、ちょっと数字が物足りません。少なくとも75%に引き上げたい。ベンチマークしているブランドは80%ありますが、できれば、そこに少しでも近づきたい。成熟されたお客様が多い中で、新たなお客様の獲得に走るよりも、お客様が一度ボルボを購入されたら、ほとんどの方がボルボから離れられない、という状況をつくることが大切だと思っています」
(長野達郎)
【関連記事】
日本一のセールススタッフは誰だ!? 顧客満足度ナンバー1を目指すボルボがセールスコンテストを開催
https://clicccar.com/2019/07/31/894760/