デザインは「継承」であり「人」だ! Audi TT日本導入20周年記念トークイベントでバウハウスとカー・デザインを語る

 

●美しいものは100年経っても古くならない。単に新しいものはあっという間に古くなる

デザイン評論家で武蔵野美術大学名誉教授の柏木博氏とSWdesign代表で元Audi Designデザイナーの和田智氏を招いてのイベント、「bauhaus 100 japan Talk Live」が7月29日(月)に東京で開催されました。

これは、今年がAudi TTの日本導入20周年であることと、ドイツの造形芸術学校であるバウハウス創立100年を機に開催される巡回企画展「きたれ、バウハウス―造形教育の基礎―」をアウディ・ジャパンが協賛することにより開催されたもの。

ここでは、和田氏のプレゼンテーションを中心に当日の様子をレポートします。

第1部は、バウハウス100周年委員も務める柏木氏が登壇、1919年に設立された同校の成り立ちと教育内容についてを網羅的に解説しました。初代校長グロピウスによる合理・機能主義的な教育は、独自のグリッドシステムにより、グラフィックはもちろん、プロダクト、建築、インテリアデザインの他、演劇にまで影響を与えたといいます。

ステージの前にはレストアを終えたばかりの美しい初代Audi TTが置かれていましたが、柏木氏の解説とTTの機能的デザインが見事にマッチ、本イベントの趣旨が垣間見えます。

和田氏は続く第2部に登場。今回は「継承と人」をテーマに、カー・デザイナーとしてこれまでに出会った様々な「人」を紹介しつつ、氏の仕事やデザインに対する理念が語られました。

美大志望だった和田氏は、奇しくもバウハウスの理念を継承するウルム造形大学に留学経験を持つ、向井周太郎氏在籍の武蔵野美術大学基礎デザイン学科に入学。在学中にIDデザイナーとカー・デザイナーで進路に悩みますが、最終的に後者を選ぶことになります。

国産車メーカー時代にRCAへ留学をしたことが契機となり、1998年にアウディへ入社した氏は、同年発表の初代Audi TTに強烈なインパクトを受けます。その合理的・機能的表現は、ポストバウハウスとして翌年にAudi A2を生み出し、それはあたかも自分への挑戦状という感覚だったと振り返ります。

その後、代表作のA6などを手掛けることとなりますが、あの特徴的なシングルフレームは、実はフェルナンド・ポルシェによる往年のレースカーをモチーフにしたそう。ここに、カー・デザインにおける「継承」の重要さが込められていたのです。

一方で、日本の多くのメーカーでは、誰も見たことがないまったく新しいものが「売れる商品」として評価され、期待される。しかし、過去を否定して得られた新しさや便利さは本当の幸せに繋がるのか、と氏は問います。

「美しいものは100年経っても古くならない。単に新しいものはあっという間に古くなる」

アウディ時代、デスクでスケッチを描いていた氏に、ある上司が「部屋の中ばかりにいないで、アウディのミュージアムに行ってスケッチをしろ!」と助言したといいます。長い歴史を紡いできたクルマにこそ継承するべきものがある。そして、そこに新しい発想や表現が隠されている。

まるで禅問答のような話ですが、デザインが「継承」であり「人」であるなら、それはカー・デザインにとっても正しい教育だったと前出の柏木氏も太鼓判を押します。

これまでも機能的なドイツ車を解説する際に「バウハウス的」という表現はよく使われてきましたが、アウディは現在もそれを実践していることを確認し、トークイベントは終了しました。

(まとめ)すぎもと たかよし

【関連リンク】

巡回企画展「開校100年 きたれ、バウハウスー造形教育の基礎ー」
2019年8月の新潟市美術館を皮切りに、西宮大谷記念美術館、高松市美術館、静岡県立美術館、東京ステーションギャラリーの5カ所にて開催
http://www.bauhaus.ac/bauhaus100/

この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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