【トヨタ・スープラ 4気筒モデル試乗】スープラを手中に収めているような気分になれる「SZ」

●最もキモチイイ「SZ」。リッター約100馬力は決して非力ではない

2019年の国産車最大の話題といってもいいのが、トヨタ・スープラの復活でしょう。スープラのアイデンティティは6気筒エンジンなのですが、今回の試乗では、新型は6気筒よりも4気筒のほうが好印象でした。

トヨタ スープラ
トヨタ スープラ

そもそもスープラはセリカの6気筒版として誕生しています。初代は1978年のデビュー。ちょうど私が高校生になったときです。セリカのリフトバックに乗っていた先輩が実家のラーメン店を継ぐことを条件に、セリカXXを新車で買ってもらいました。当時はものすごい高級車でした。

セリカリフトバックが4気筒だったのに対してXXは6気筒で、存在そのものが大きなものでした。

その後、セリカXXは輸出名であるスープラを名乗るようになりますが、つねに6気筒エンジン、それも直列6気筒エンジンを積んできたモデルです。しかし今回のスープラは従来の方程式には当てはめず、4気筒エンジンも用意しました。

そのエンジンを提供しているのはBMWです。しかし、トヨタはスープラを復活させるためにBMWと手を組んだわけではありません。BMWとの提携はその前から決まっていて、「何をしよう?」という議論の中から生まれてきた話なのです。

その「何をしよう」の中から出てきた答えのひとつが、スープラとZ4のパーツ共有であり、生まれたのが4気筒のスープラというわけです。

試乗したのは197馬力の2リットル・4気筒ターボのSZ。同じ4気筒ながらチューニング違いでSZ-Rは258馬力、トップグレードとなるRZは3リットル直列6気筒ターボで、340馬力となります。

アンダーパワーのSZですが、一番いいフィーリングを発揮していました。6気筒エンジンのRZはフロントが重く、コーナリング時にクリップでアクセルを開けていくと若干ながらアンダーが出るのですが、これが4気筒だと出ないのです。スープラはホイールベース/トレッド比でホイールベースを短めにする設定としたため、この傾向が強くなってしまうのでしょう。

かつてスカイラインがR32だったころ。トップにはGT-Rが存在しました。この時代のスカイラインにはGXiという4気筒エンジンモデルが存在しています。エンジンはキャブ式1.8リットルですから大したことはなかったのですが、サスペンションは4輪マルチリンクです。そこに軽量なエンジンを積んだモデルは、なかなかの走りをしたのです。

私が乗ったのは広報車両ではなくレンタカーでした。新神戸駅前で借り出し、六甲山を走って取材に向かったのですが、そのハンドリングのよさに感動させられました。

スープラは4気筒も6気筒も同じシャシーを使います。しかし4気筒と6気筒では前後重量配分が異なります。4気筒は730kg/720kgですが、6気筒は780kg/740kgで、6気筒のほうがフロントが重くなっています。これが4気筒のほうがいいフィーリングになる要因です。

しかも、スカイラインでは4気筒エンジンがごく普通のタイプだったのに対し、スープラの4気筒は、フィーリング・パワーともにスポーツカーとして十分なもの。

BMWのエンジンというと「シルキー6」といわれる直列6気筒エンジンが有名で、6気筒こそBMWの真髄と思っている方が多いのですが、レースの世界ではちょっと違います。

かつてBMWはフォーミュラカー用にM12型エンジンというものを開発。世界中のレースシーンで活躍しました。最終的にM12はM12/13となりF1でも使われました。この時代を知っている人はBMWは4気筒という人もいるほどなのです。

6気筒の精密機械のようなフィーリングも楽しいですが、軽快に吹け上がりトルクフルな4気筒を操って走るのは、スープラを手中に収めているような気分になれます。

SZ-Rは走行モードを切り替えることで、エンジンやミッション、ステアリングやLSD、サスペションのセッティングがスポーティになります。SZはセッティングが変わるのがエンジン、ミッション、ステアリングだけですが、じつはこれで十分な印象なのです。

いろいろ変えて走れるのは6気筒のRZに任せておいて、SZは自分の好みの車高、好みの減衰力に変更できるスプリング&ダンパーを組み込み、機械式LSDを組み合わせて走りたいという気持ちになるモデルです。エンジンパワーは197馬力と一番低いのですが、リッターあたり約100馬力は決して非力ではなく、十分に走りを楽しめます。

BMWとのコラボで6気筒エンジンが存在していたからスタートしたスープラの復活。4気筒のほうがフィーリングが良かったのは皮肉なことですが、リーズナブルなモデルがいいのは歓迎すべき状況です。

(文・諸星陽一/写真・井上誠)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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