絶滅危惧種? レクサスRC Fの5リッター・ V8・NAエンジンをブン回す快感!【LEXUS RC F試乗記/渡辺敏史】

・絶滅危惧種の運動能力は?

前置きが長くなりましたが、そんなオジさんたちにぶっ刺さりそうなのが、2UR-GSEを搭載したレクサスのクルマたち。07年に発売されたIS F用にヤマハと共同開発した5L V8ユニットは、ショートストローク型の骨格に同社の高出力化にまつわるノウハウが投入され、レッドゾーン寸前の6600rpmで423psを発揮するというNAらしい伸び感を意識した仕立てとなっていました。

そのIS Fは生産終了したものの、現在、このエンジンを搭載するモデル数はLC、GS F、RC Fの3つに増えました。中でも最も廉価かつ運動性能を重視したRC Fが間もなく大きなマイナーチェンジを受けて発売されます。

進化のポイントは軽量化と空力特性の改善ですが、エンジンは吸気側の流路改善による中間域のスロットルレスポンス向上に伴い、パワーも5psほど高まっている模様。ちなみに現在は7100rpmで477psをマークしています。たとえばM4やC63といったターボエンジンを積む同級のライバルに対すれば確かに速さは劣ります。が、そのぶん7300rpmのレッドゾーンまでカチ回してうひょー気持ちええなぁと声を漏らしてしまうほどのフィーリング&サウンドを備えていますし、狙い通り、アクセル操作に対する応答感もパリッとしています。RC Fにはオプションで後輪左右の差動を安定側にも旋回側にも設定できるトルクベクタリングデフ=TVDが搭載出来ますが、それを用いることでオーバーステア状態を作り出すことも、アクセル操作でそれを維持することも難しくはありません。

従来モデルから20kgの軽量化を果たした新型RC Fをベースに、カーボンセラミックブレーキを筆頭としたバネ下周りの大幅な軽量化、アウターパネル等の材料置換や快適装備の削減によって更に50kgの減量を果たしたパフォーマンスパッケージには、このTVDが装着されずオーソドックスなトルセンLSDが採用されます。カーボン製のリアウイングが物語るように、こちらはクローズドコースでのスポーツ走行を強く意識した仕立て。純粋にドライバーのスキルで旋回性を引き出すにはコンベンショナルなメカの方が向いているという判断でしょう。
それでも最低地上高は標準のRC Fと同じですし、リアシートも残されているのは、レクサスが掲げるFシリーズのコンセプト、つまり日常と非日常をシームレスに繋ぐということを意識しているからでしょう。乗り心地的にもバネ下の軽さが効いており接地感はしなやか。入力の減衰ぶりなどは標準グレードより上質に感じられるほどです。

思えば大排気量NAのV8エンジンを搭載するモデルは、今や数えるほどになりました。OHVのV8がモータリングの象徴であるアメリカのモデルを除けば、あとはマセラティのグラントゥーリズモ系くらいではないでしょうか。これがV10やV12という話になればフェラーリやランボの名が上がりますが、存在感も速さもお値段も桁違いですから普通の人にはちょっと荷が重い。買い物や通勤から週末のドライブや夏休みのツーリング、果てはサーキット走行まで、RC Fはドライブのあらゆるシーンを楽しくカバーしてくれます。その魅力の源が、絶滅危惧種の2UR-GSEであることは間違いありません。