【自動車用語辞典:過給システム「電動過給機」】ターボやスーパーチャージャーをモーター駆動する仕組み

■過給ラグの解消に大きな効果

●ホンダはF1に電動ターボを採用

ターボチャージャーのコンプレッサーをモーターで回す電動過給機が、欧州で実用化され始めました。狙いは、ターボチャージャーの課題である低速域の過給不足やターボラグを解消することです。

電動過給機の仕組みや性能などメリットと課題について、解説していきます。

●電動過給機のメリットと課題

ターボは、中高速域では排出ガスのエネルギーを効率的に使って過給できますが、課題は排出ガスのエネルギーの小さい低速域で過給圧が上がらないこと、レスポンスが悪くターボラグが発生することです。

一方でスーパーチャージャーは、レスポンス良く低速域から十分な過給ができますが、課題はエンジンの出力を使ってコンプレッサーを回すため、高速域で駆動損失が大きくなり、効率が下がることです。

コンプレッサーをモーターで回す電動過給機は、モーター駆動なので駆動損失がなくレスポンスに優れています。また、ターボのように排気熱の影響がなく、配管やベルトなどレイアウト上の制約が小さいというメリットもあります。

課題は、中高速域で多用するとモーターの消費電力が大きくなるため、使用が低速域に限られることです。したがって電動過給機単独でなく、低速域は電動過給機で中高速域はターボを使う、(電動過給機+ターボ)の組合せシステムとするのが一般的です。

●電動過給機の種類

電動過給機には、完全にモーターの動力のみでコンプレッサーを回すか、一部だけモーターの動力を使うかによって、2つのタイプがあります。

・電動スーパーチャージャー

ターボのタービンをモーターに置き換え、モーターの動力だけでコンプレッサーを回します。中高速域では十分な過給は難しいため、通常のターボと組み合わせて、低速域は電動スーパーチャージャー、中高速域はターボに切り替える「2ステージ型」です。

電動スーパーチャージャーとターボは別設計、別体であるため、レイアウトの自由度が高くなります。
すでに、アウディ SUV「SQ7」やメルセデスベンツ「Sクラス」で採用されています。

・電動ターボ

ターボ内のタービンとコンプレッサーの間にモーターを内蔵して、モーター動力とタービンの回転力の両方を使う「ハイブリッド型」です。低回転域はモーターアシストによるレスポンスと出力の向上、中高速域はタービンで過給し、余剰の排出ガスエネルギーで発電回収も可能なシステムです。

量産車への適用例はありませんが、ホンダのF1レース用エンジンで採用しています。

●電動過給機の採用例

電動過給機(電動スーパーチャージャー)を始めて採用したのは、2016年のアウディ大型SUV「SQ7」です。4L V8ディーゼルエンジンで、ターボ2基と電動スーパーチャージャー1基で構成された2ステージ型過給システムです。

同様の2ステージ型は、メルセデスベンツの「Sクラス(S450)」」と「メルセデスAMG」にも採用されています。両車とも、同じ3L 直6ガソリンエンジンを搭載し、48VマイルドHEVを採用しています。

電動スーパーチャージャーは、電源電圧を48Vに高めたマイルドHEVと組み合わせるのが一般的です。


48VマイルドHEVとの組合せで浮上してきた電動過給機は、48VマイルドHEVを推進する欧州ならではの技術と言えます。

電動過給機が日本で普及するかどうかは、48VマイルドHEV次第ですが、日本はフルHEV市場ですので採用は限られると思われます。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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