専門領域から踏み出す挑戦が「ものづくり」と「人」を進化させる【自動車技術会モータースポーツ技術と文化シンポジウム5】

●MotoGP世界選手権・Moto2クラス参戦
初ポイント獲得までの軌跡

【エヌ・ティー・エス 生田目將弘氏】

金属精密切削加工の専門企業であるエヌ・ティー・エス(NTS)社が、2輪モータースポーツの最高峰であるMotoGPシリーズに設けられた中間排気量クラス「Moto2」にオリジナルの車体を製作して挑戦した、その動機付け、実機の開発プロセスなどが紹介された。

ご承知の読者も多いと思うけれど、Motoクラスのパワーユニットはワンメイク。2010~18年はホンダCBR600RRのものだったが、2019年からはトライアンフが製作した直列3気筒765ccエンジン+6速ミッションに変更されている。これをこのクラス専用に製作された車体に積んだ「プロトタイプ」車両で参戦することが規定されている。

最近は欧州の専門企業、カレックスの車体を使うチームが多い中、MotoGP参戦の前段としてKTMが、そしてMVアグスタ/カジバも2019年から参戦している。

NTSは、生田目氏がかつて国内の2輪レースに出場していたことがあり、金属加工の技術を実地に試すべく、まずMFJスーパーバイク・シリーズのJ-GP2クラスに参戦。もともとは専門外の軽合金板金加工、溶接などに苦労しつつも経験を蓄積、2013年には同社が製作したマシンを駆った野左根航汰/チームノリック・ヤマハがライダー・チームのタイトルを獲得。さらに2014-15年は自社チームでの参戦へと深化。そして2016-17年、Moto2車両を製作してスペインを中心に行われているFIM CEV Moto2欧州選手権に進出した。

2017年の成績は2人のライダーがそれぞれシリーズ3位(S.オーデンダール)と8位(尾野弘樹)。そして2018年シーズンに向け、オランダのRWレーシングとジョイントしてマシンを提供、最高峰のMotoGP/Moto2クラスへの進出を実現したのである。

精密切削加工を専門に最近では金属3Dプリンター(積層)も導入しているが、決して大きいとはいえない規模の企業がハイレベルなモータースポーツにオリジナルマシンを開発・製作・投入する。畑違いとも、やりすぎとも言えるプロジェクトを動かす中では、まず彼我の現状を分析し、開発目標を設定し、限られた時間の中、自分たちの知的・実務面の資産を効率的に活用して、その目標を実現する、というプロセスが必須のものとなる。そのサイクルを繰り返す中で、直接関わるスタッフを核に企業全体の力量が飛躍してゆく、という体験が語られた。

(両角 岳彦)

この記事の著者

両角岳彦 近影

両角岳彦

自動車・科学技術評論家。1951年長野県松本市生まれ。日本大学大学院・理工学研究科・機械工学専攻・修士課程修了。研究室時代から『モーターファン』誌ロードテストの実験を担当し、同誌編集部に就職。
独立後、フリーの取材記者、自動車評価者、編集者、評論家として活動、物理や工学に基づく理論的な原稿には定評がある。著書に『ハイブリッドカーは本当にエコなのか?』(宝島社新書)、『図解 自動車のテクノロジー』(三栄)など多数。
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