軽ではなく、理想のコンパクトカーを作りたい! 新型 日産・デイズのデザインは制約を飛び越えた躍動感へ

●コンパクトカーとして最良のバランスを追求した新型デイズのデザイン

6年ぶりにフルモデルチェンジされた日産・デイズ。NISSAN INTELLIGENT MOBILITYとして、まったく新しい日本の軽を謳う新型のスタイルの魅力はどこにあるのか。今回はデザインのチーフを担当したデザイン本部の石塚公一氏に話を聞きました。

── 当初、造形に関してのキーワードやテーマは設定されましたか?

「はい。Vibrant(わくわく)とPrecision(精密)、それにTough(信頼感)ですね。四角い箱というより、わくわくするような躍動感がテーマです。また、今回プラットホームを一新したこともあり、軽をデザインするという意識は最初からなくて「理想のコンパクトカー」を作ろうと企画しました。やっぱり、軽を意識すると自然に制約を作ってしまうんですね」

── 標準車の「顔」はグリルやライトが上部に寄って若干窮屈に見えますが、これはハイウェイスターを優先したためですか?

「いえいえ、それは違います(笑)。たしかにハイウェイスターはよりダイナミックに「Vモーション」を表現してますが、標準車は親しみのあるハンサムフェイスを狙った。軽の場合、どうしても目(ランプ)が大きくて可愛らしいといった方向に行きがちですが、そうではなく、コンパクトカーとして最良のバランスを追求した結果です」

── 背の高いワゴンボディでは、縦型ランプなどの方が「間が持つ」というか、一般的に収まりがいいですよね

「従来の考え方はそうですが、今回の標準車はより登録車的な表情を狙っているんです。親しみという点でも、あまりドン!と大きな表現より、もっと流れるようにスッとした表情にするべきだろうと。とにかく高級なハイウェイスター、安い標準という考え方は絶対にしたくなかったんですね」

── サイドのキャラクターラインは先代に近いですが、ベルトラインとは平行ではなく微妙にずらしてありますね

「実は先代はまったく意識していなくて、偶然近い表現になったんです。あくまで躍動感、ダイナミックさを狙った結果ですね。ラインの引き方、角度は何度となく試行しましたが、ベルトラインと平行にすると動きが止まってしまう。少しズラすことでボディに動きが出るし、実はライン自体もわずかにカーブさせてより効果を出しています」

── このラインに沿う抑揚面はリアパネルまで回り込んでいるように見えますが?

「そうですね。やはりクルマは前・横・後ではなくひとつのカタマリですから、全体で考えないとバラバラになってしまう。このリアパネルへの面の流れも、軽というより登録車のつもりでデザインしています。ただ、全幅の寸法は本当にギリギリで、モデラーさんに相当頑張ってもらったというか、泣かせたというか……」

── リアピラーはセレナなどと同じ「キックアップウエストライン」ですが、軽サイズだと窮屈で、リアが尻つぼみに感じてしまいます…

「そうでしょうか? たしかにサイズ的には厳しかったですが、ここはリアへの「抜け」を狙ったものです。そのままの上下幅で後ろまで引くとキャビンが大きく見えてしまうんですね。一方で、ピラーをボディ色にすると今度はウインドウが小さく見えてしまう。今回はそのベストバランスを目指したつもりです」

── 日産としての記号を、コンパクトな軽にどう落とし込むのかが鍵だということでしょうか。本日はありがとうございました。

[語る人]
日産自動車株式会社
グローバルデザイン本部 第三プロダクトデザイン部
プログラム・デザイン・ダイレクター
石塚 公一 氏

(インタビュー・すぎもと たかよし)

この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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