【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判】尻下がりのタブーに挑んだ高級エレガンスセダン。第42回 日産 レパード J.フェリー

80〜90年代日本車のグッドデザインを振り返る本シリーズ。今回は、これ見よがしの高級に背を向け、上質な佇まいを目指した北米発の上級パーソナルセダンに太鼓判です。

1990年代を迎え、日本にもセルシオなど欧州勢に匹敵する上級高級車が登場。これに伴い、セドリッククラスにもアリストやセンティアといった多様なアプローチが増える中、「優美」をテーマに1992年発表されたのが「レパード J.フェリー」です。

「さらに上へ」「もっと凄く」という従来の上昇的な高級車イメージではなく、「エレガンス」「丁寧」「良いもの」をキーワードとし、「日本人の繊細な感性に応えるスタイルを」という依頼内容に対し、日産の北米スタジオであるNDIが出した回答が、オーバルキャビンに弓なりのカーブが貫通する「バランスド・アーチ」という発想。

9代目ブルーバードセダンのテーマを進化させたフォルムは、既存のウエッジシェイプを打破するとします。

均衡のとれた弓形のボディは、ラインのないボンネットフードを筆頭に強い張りを持ち、極めて丁寧に磨き上げられたもの。さらに、ゆったりとした量感のプレスドアと、角を持たない前後バンパーが面の豊かさを一層際立たせます。

楕円のフロントランプとグリルは、ミニマムな表現がシックなイメージを創出。ボディ同様に弓形のリアランプは、薄く最小の表現とすることで優美さを強調する一方、横長のガーニッシュと一体化して存在感も確保します。

一方、国内スタジオによるインテリアは、エレガントさと質実さが絶妙のバランスを提示。名門、ポルトローナフラウ社製の本革シートとセンターに置かれたアナログ時計が、どこかイタリアンなイメージも醸し出します。

910ブルーバードやZ32フェアレディなどを手掛けた園勲夫プロデューサーは、合理性とエレガントさは両立するとし、あえて空力や居住性を狙わず、そのさじ加減にチャレンジしたといいます。

日本では「尻下がり」のデザインはタブーとされていますが、問題は尻下がりかどうかではなく、全体の佇まいが美しいか否かの筈。そこに挑んだJ.フェリーは、勢いのある当時の日産デザインであればこそだったと思えるのです。

●主要諸元 日産 レパード J.フェリー タイプX(4AT)
型式 EーJGBY32
全長4880mm×全幅1770mm×全高1390mm
車両重量 1650kg
ホイールベース 2760mm
エンジン 4130cc V型8気筒DOHC
出力 270ps/6000rpm 37.8kg-m/4400rpm(ネット値)

(すぎもと たかよし)

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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