【ホンダ・インサイト試乗】「スポーツカー生まれで5ドアHB育ち」のHVセダンは日本で受け入れられるか?

インサイトは非常に真面目に作られたクルマだと言えます。なによりもパッケージングがしっかりしています。たとえば、走行用のバッテリーやIPUと言われるコントロールユニットはリヤシートの下に収められています。12Vバッテリーは前席センターコンソール内です。こうすることで重心を下げることが可能です。

さらにボディには多くの部位に高張力鋼板を多用し軽量化を図るとともにボンネットはアルミとしてさらなる軽量化を推し進めています。エンジンルームを見ると、カバーが存在しません。最近はカバーをつけることで歩行者との衝突時の安全性(頭部インパクト)を高めることが多いのですが、カバーをつければカバー分だけボンネットを高くしなければなりません。インサイトはカバーを廃止、ポップアップフードとすることでボンネットを低くしてスタイリングと空力を稼いでいるのです。

低重心化はクルマの操縦性を明らかに向上しています。一般道での交差点を「曲がる」から高速道路の「コーナー」まで、ロールがしっかりと抑えられていて、安定した走りを得ることに成功しています。もちろんフロントがストラット、リヤがマルチリンクというサスペンションのセッティングもいいのですが、それ以前に全体としてのバランスをきれいにしている感じがものすごく伝わってきます。

セダンは使い勝手がいいことが大切です。最近はSUVがヒットしています。SUVヒットの要因のひとつは、スタイリングにありますが、もう一つはUの部分、つまりユーティリティです。SUVなら荷物も積めるし……という選択肢で買っている人も多いのですが、じつは最近のSUVはスタイリングに走り過ぎて荷物が積めないことが多くあります。しかしインサイトは、バッテリーなどをシート下に入れ519リットルという大きなトランクスペースを確保。さらにリヤシートを倒してのトランクスルーも可能です。リッド開口部、トランクスルー部の広さも十分です。

高速道路に入るとバッテリーは裏方に回ってエンジン中心の走行となります。このときエンジンと駆動軸はクラッチで直結されます。通常、エンジン車は変速機が付いていて、速度に合わせて順々にギヤ段をアップしていきます。5速車で言えば、順々にシフトアップし最終的に高速道路の巡航では5速で走ります。

インサイトの場合は1〜4速までをモーターが担当。5速をエンジンが担当していると考えるとわかりやすいです。エンジン駆動時はパワーユニット内部で0.805に変速、最終変速比3.421で出力されます。この変速比を乗算したものが最終的な変速比(本当はタイヤ外形も関係します)ですが、インサイトは2.753、シビックのMTが6速で2.816ですから、なんとなく想像できることでしょう。エンジン走行時はアクセル操作に対して、エンジンの出力が足りなければモーターでアシスト、出力が余れば発電機で発電してバッテリーを充電します。

高速道路走行では若干、ザラッとした乗り心地になります。タイヤが路面の細かい荒れを減衰できない感じです。ダンパーの担当領域ではなくタイヤの担当領域という印象を受けます。もしダンパーに任せるなら、それなりに高価なダンパーが必要でしょう。逆にタイヤに任せるにしても高価なタイヤが必要になるでしょうし、そうなると燃費への影響も出てきそうです。

高速走行ではACCの性能も重要です。ホンダはホンダセンシングのネーミングでADAS(先進運転支援システム)をアピールしています。インサイトのACCは追従と速度維持ではまったく問題を感じません。先行車にしっかり追従していきますし、割り込まれた際の減速も的確です。ただし、ADASの主要機能の一つであるレーンキープ(ホンダはLKASの名前を使っています)性能は穏やか系です。レーンキープはまさにアシストレベルで、ドライバーがしっかりと走行レーンを意識していれば上手にアシストが入り、きれいにトレースしていきます。

高速道路でのクルマの動きには適度なゆったり感があります。大きな半径のコーナーなどはグッと踏ん張って回っていく様子で、このフィーリングはクルマのサイズが大きいからこそ得られるものです。私は基本的には日本では5ナンバーサイズこそインフラとの親和性がもっとも高いサイズと思っていますが、高速道路での長距離移動となればやはり大きなサイズのクルマにはかないません。

2018年の登録車でもっとも売れたクルマは日産のノートです。そのノートをけん引したのはeパワーというパワーユニットです。eパワーはシリーズハイブリッドでエンジンで発電しながらモーターで走るシステム。つまり、インサイトの電動部分と同じです。

シリーズハイブリッドの最大の弱点は高速巡航で、高速巡航の際はエンジンのみで走ったほうが効率がいいのです。インサイトはその部分で優位性を手に入れました。ボディサイズの違いから、なかなかライバルにはなり得ませんが、EVのドライブフィールに加えて、高速時の燃費を稼ぎたい人にはその優位性が魅力となることでしょう。

(文/諸星陽一・写真/小林和久)

この記事の著者

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諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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