【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判】合理性にオーガニックな温もりをブレンドした個性派スモール。第41回・日産 マーチ(2代目)

80~90年代日本車のグッドデザインを振り返る本シリーズ。今回は、日本発のオリジナルな発想を引っ提げ、果敢に欧州市場へ挑んだタウン・スモールに太鼓判です。

ダイハツ・シャレードが土台を作ったリッターカー市場に、満を持して投入された初代。基本設計のよさから、9年を超えるロングライフで十分な実績を作ったブランドに、まったく新しい価値観を持ち込んだのが1992年登場の2代目マーチです。

80年代の定番となった初代に対し、90年代の定番を目指した2代目もまたロングライフを標榜。コンパクトカーの在り方をじっくり再考し、ホイールベースを延ばしつつ、全長を40mm短縮するという異例のモデルチェンジを敢行しました。

そうした合理性を前提に、ミシュランの「ビバンダム」を参考として「ナチュラル」「オーガニック」といったキーワードを用いたボディは、磨き上げられた密度感のある曲面が特徴。適度な直線との組み合わせが、絶妙のバランスを見せます。

柔らかい面と丸いランプのフロントは、しかしスッキリしたグリルにより端正さを感じるものに。同じく大きな曲面を持ったリアパネルは、シンプルなランプが両端を固め、フワつかない、緊張感のあるリアビューを作ります。

張りのあるショルダーラインは、コンパクトなボディにボリューム感を創出。前後バンパー、サイド面と、ボディを1周するモールが柔らかいボディを引き締めます。また、中間色のメタリックカラーは、曲面パネルを陶器や磁器のように表現。

茶室をイメージしたというインテリアは、低いトレイやコンパクトなメーターで広さや開放感を生み出します。ボディ同様、柔らかな中にも整然とレイアウトされた操作部分が合理性の高さも提示。

Be-1を手掛けた松井孝晏プロデューサーは、単にライバルと比較検討するのではなく、時代の動きを捉えることに注視。欧州市場で通用する合理性を持ちつつ、イタルデザインによる初代とは異なる個性を獲得しました。

日本車初の欧州カー・オブ・ザ・イヤー受賞は、プリメーラ、パルサーに次ぐ欧州戦略車としては最高の栄誉。この時期の日産が、デザイナーにとって極めて望ましい環境にあったことを物語るのです。

●主要諸元 日産 マーチ 5ドア A#(CVT)
型式 EーHK11
全長3695mm×全幅1585mm×全高1425mm
車両重量 840kg
ホイールベース 2360mm
エンジン 1274cc 直列4気筒DOHC
出力 79ps/6000rpm 10.8kg-m/4000rpm(ネット値)

(すぎもと たかよし)

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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