「進化途中での完成形」はあり得るのか!? 新型ESに見る、LEXUSデザインの可能性とは?

LEXUSの最量販セダンとして、欧州ライバルが台頭する日本市場に登場した新型ES。進化を続けるLEXUSデザインは、このESで何を提示したのか、担当デザイナーに話を聞きました。

── まず、今回の造形上のコンセプトを教えてください。また、そのコンセプトとした理由はどこにありますか?

「デザインコンセプトは「Provocative Elegance(魅惑的・刺激的エレガンス)」です。いま、ユーザーの高齢化やSUV市場の拡大など、セダン市場縮小という現状がある。そんな中、LCから始まった新たなステージで、最量販のESもよりエモーショナルな方向へ挑戦をする必要がありました。そこで、先代のエレガンスさを深化させつつ「魅惑・刺激」の要素を高め、若返りと強い存在感を目指したわけです」

── 新しいプラットホームは低重心が特徴ですが、これはデザイン上どのようなメリットがありますか? 逆にデメリットは?

「新プラットホームは低重心だけでなく、全幅・トレッド拡大とタイヤの大径化で走行性能が向上しています。そこで、地に這ったような姿勢と、前後タイヤフレアを強調したダイナミックなフォルムで走りを表現しました。一方、低全高ではヒップポイントが低くなり、全幅拡大ではロッカーが外側に出て乗降性に支障が出る。また、ドア断面やフェンダーの凹凸も増えてボディ成型の課題も発生する。今回は、設計・生産技術と検討を繰り返すことで、造形の強さを損なわず課題を消化しています」

── フロントグリルの周囲は従来よりエッジが強くなったように見えますが、これは意識されたものですか?

「はい。スピンドルグリルの構えは常に進化しています。グリルパターンもノーマルは横、F SPORTは縦基調と差別化をしていますが、新たなブランドシフト「BRAVE(勇敢・華麗) DESIGN」に伴い、ノーマルでも個性表現を追及。LSの堂々とした顔に対し、エレガンスでありつつ端正で鋭い顔を狙った結果ですね」

── フロントでは、グリルの中心に向けて面や線が集約されていますが、ランプ形状も含め、少々造形が複雑では?

「LEXUSデザインは複雑な表現を用いてもシンプルに見えることを追求しています。キャラクターやグラフィックでデザインを構成せず、立体構成の必然性から自然発生させる。ESではノーズの鋭さを強調するため、低いフードを活かし、サイドの紡錘立体がグリル先端へ集約する立体構成としました。ただ、これで複雑に見えるようなら、まだまだできることがあるのかもしれませんね」

── サイドのキャラクターラインがカーブを描いている意図は?

「先のとおり、このラインも立体の構成テーマから生まれたものです。スピンドルグリルからスタートしたメインの立体が、カーブした紡錘形のフロントフェンダーを突き抜けてリアフェンダーへ連続する。この一連のテーマの中で、立体の合わさる境界にラインが表れています」

── リアフェンダーは非常に柔らかな膨らみを持ちます。シャープな表現が多い中、ここだけ大きな面の動きを使ったのはなぜですか?

「LEXUSは質感表現にも独自の考え方があって、今回はシャープな基本立体と抑揚のあるフェンダーのコントラストにより、深みのある面造形を追及しています。硬・柔一体で刻々と変化するボディサイドは、見る角度により表情を変え、LEXUSデザインのアイデンティティである「Time in Design」を表現しているんです」

── リアパネルの「ハの字」のラインはカローラ・スポーツなどトヨタブランドでも見られます。台形は安定感を持ちますが、ここまでの強い線は煩雑では?

「リアもフロント同様、造形テーマはシンプルな見せ方です。より引き締まったリアを表現するため、サイドからのショルダーの立体と、バンパーの立体をすべてリアランプに集約させた。バンパーコーナーにエッジを持たせた「ハの字」は、ディフューザーと同時にワイドに踏ん張ったスタンスのよさを強調、空力の向上にも寄与しています」

── では、最後に。「LEXUSは歴史が浅いので、とにかく攻め続けるしかない」という話を聞いたことがあります。その場合は常に「進化の途中」で、あるコンセプト・造形テーマでの「完成形」ではないと解釈できますが?

「たしかに、LEXUSは常に「進化」を追求して来ました。先の新たなブランドシフト「BRAVE DESIGN」では、よりエモーショナルな方向へ挑戦しています。「進化の途中」=「完成形ではない」との見解はそのとおりですが、進化の中、各車種で完結すべき造形の「完成度」には徹底的にこだわり、造り込んでいます。今回は、通常よりもかなり早くデザインの方向性を決定し、造形の「深み」「味わい」の練り込みに時間に割きました。今後も、進化を続けつつ、造形としては「完成度の追求」に取り組んでいると理解していただければと思います」

【語る人】
TMEC(トヨタ自動車研究開発センター(中国)有限会社)
上海デザインセンター長・梶野 泰生 氏

(インタビュー・すぎもと たかよし)

この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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