東京オートサロンへの出品で好評を得た「S660ネオクラシック」が、いよいよ認定中古車扱いのコンプリートカーとして発売。そのユニークなスタイルについて、スケッチから制作までを手がけたデザイナーの山田真司氏に話を聞きました。
── 今回はS660を素材にした社内コンペが行われたとのことですが、山田さんはなぜネオ・クラシックというテーマを選んだのでしょう?
「僕はバイクも好きなのですが、二輪の世界では新しいものばかりではなく、ヘリテージやビンテージのカテゴリーが確立されています。これは古着なども同じで、最近はビンテージ品が若い人に受けている。そこで、佳きよき時代のスポーツカーを提案しようと。具体的には、かつてのSシリーズをモチーフとしました」
── フロントランプは左右をつないだ形状が特徴ですが、その意図は?
「クラシックな形状として、まず丸型ランプは使いたかった。さらに、子どもでも一瞬で記憶に残るようなシンプルな表情を意図しました。ただ、単に旧いだけでは「ネオ」にならないので、ランプ下部にエッジを加えてモダンさを表現しているんです」
── 左右のランプはちょっと離れ気味ですね。それと、コンセプトカーにあったホンダのロゴがなくなりました
「ベースのS660は現代のスポーツカーとして前後を絞り込み、断面も台形となっているのですが、そこを逆に広く長く見せたかった。余裕みたいな表現が欲しかったんですね。ロゴは、すでにこのクルマがホンダ車と認知されていることもあり、キット同梱としてユーザーの方の好みで対応できるようにしました」
── アンダーグリルはボディパネルを使わず、メッキ調の塗装を使ってコンパクトにまとめましたね
「実はこれで左右とも軽枠ギリギリなので、バンパー部にボディパネルを使う余裕がなく、S660の開口部だけを確保した感じですね。メッキ調塗装は旧車の鉄製バンパーをイメージしたもので、当初からあった案です」
── 両端を盛り上げたフードはポルシェなど、やはりかつてのスポーツカーイメージですか?
「そうです。ただ、これもやっぱりそのままでは旧いだけになってしまうので、曲面の一部にわざとエッジを加えてシャープさを出しているんです。ここも「ネオ」としてのこだわりですね」
── オリジナルのドアパネルを流用するのは難しかったのでは?
「悩みましたね(笑) そこで、特徴的なラインを消すのではなく利用しようと。ルーフラインはオリジナルと違ってリアまで引っ張り、できるだけ水平基調で後ろに流れるような動きを作りました。これでリアのボリュームは相当増えましたけど、フロントも豊かにしているので丁度いいバランスなんですね」
── リアスタイルも独特ですが、何かモチーフがあったのですか? また、リアランプをここまで小さくしたのは?
「実は当初はフロントのイメージしかなくて、リアをどうまとめるか決めてなかったんです(笑) なので、フェラーリやザガートなどをかなり勉強しましたね。リアランプは、軽枠であまり大きくするとスケール感が狂ってチョロQみたいになってしまう。これならあまり軽という感じがないでしょう?」
── ボディカラーはなぜ赤をメインにしたのでしょう?
「僕の中では、ホンダのスポーツカーと言えば赤と決まっていました。ただ、一般的なソリッド色だとやっぱり旧いだけになってしまうので、現代の技術を使ったメタリック調塗装の赤を使っています。もともと、ヴェゼルの特装車で使われていた色ですね」
── では、最後の質問です。ここまで手の込んだ企画は初めてだそうですが、それによって得られたことは?
「まずはデザインに対する実力の底上げでしょうね。デザイナーのモチベーションもかなり上がりましたし。それと、従来のPPに加えFRPの加工ノウハウが相当蓄積されましたので、今後の用品、パーツ制作にかなりいい影響があると思います」
── ありがとうございました。ホンダアクセスは以前から他社と違ったカスタマイズが魅力的でしたので、今後も新鮮な企画を期待します。
[語る人]
株式会社ホンダアクセス
商品企画部 デザイン 山田 真司氏
(インタビュー・すぎもと たかよし)