しかしながら、この有り余るパワーを使うのは何かトラブルが起きたとき、たとえば暴漢に襲われた際の緊急避難などで、普段は使われないものです。しかし、もしもときのためにセンチュリーでは必要なパワーなのです。
普段の走行ではこのパワーの10分の1も使わないでしょう。アクセルをゆったりと踏み込めば、スーッとクルマが発進します。ショーファードリブンでは発進したことも、停止したことも、加速していることも、コーナリングしていることも…できるだけ後席には知らせないほうがいいのです。
ですが、ドライバーはそれを理解できないと安全な運転はできません。この矛盾をギリギリのところでクリアしているのが素晴らしいのです。レクサスのようなドライバーズカーではありませんので、ドライバーが感じるインフォメーションは希薄です。にも関わらず、正確にクルマの動きを伝えるところには驚きさえあります。
そして、その感覚があるからこそ、ショーファー(運転手)は、パッセンジャー(乗員)を快適にそして安全に乗せることができるのです。
後席は広く快適です。ソファに座っているかのようなゆったりとした姿勢で乗ることができます。この空間はあるときは仕事場であり、ある時はベッドルームであり、あるときは応接間でもあります。そうしたことが見事にこなしてくれる空間と静かさがそこにはあります。
センチュリーはほとんど輸出を考えられていない国内専用車と言ってもいいほどの存在です。しかし、もし輸出が行われれば多くの国で歓迎されるでしょう。
超が付く高級車、本物のショーファードリブンは世界でも数えるほどしか存在しません。いわば、ロールス・ロイスと肩を並べられるのがセンチュリーです。このクルマはまさに日本の至宝と言って間違いないのです。
(文・写真:諸星陽一)