80〜90年代の日本車からグッドデザインを振り返るシリーズ。第35回は、窮地にあったマツダがクルマの原点に立ち戻ることで生み出した傑作コンパクトにに太鼓判です。
多チャンネル化からの立て直しの中にあった90年半ば、初代フェスティバが掲げた「気のきいた生活道具」を再び標榜し、マルチパーパスコンパクトの名を掲げて打ち出したのが初代のデミオです。
ひと目で機能が見てわかるカタチとしてパッケージングを最優先。あえて「箱」としたボディは、骨格のよさを表現したものです。リアピラーは室内空間を意識して立て気味ですが、ボディの重さを感じさせない絶妙の角度を実現。
ファミリアに準じた薄型のフロントフェイスに対し、ボリューム感のあるリアランプは前からの流れをしっかり受け止めます。また、ボディ色のBピラーはクオリティ感を醸し出す一方、Cピラーをブラックアウトしてワゴン的なグラフィックを表現しました。
ボディサイドのキャラクターラインは面にアクセントを与えつつ、同時に骨太なイメージを作るよう彫りの深いビードに。リアランプのホワイトレンズを経由してラインを回すことで、ボディ全体に立体感を生み出します。
インテリアは、道具として長く付き合える空間をテーマに極めてプレーンな表情に。シートはクッション部を広くすることで機能性を高め、ベージュと鮮やかな柄の生地の組み合わせで上質感を持たせました。
デザインチームは、初代フェスティバをまとめた河岡徳彦氏をリーダーに、現デザイン本部長の前田育男氏がチーフを務めました。単に上級車への過程ではない、息の長いデザインを模索したといいます。
マルチチャンネル展開の中で情感豊かな造形を見せたマツダが、その立て直しに当たり、いったん基本に立ち戻ることで、次のステージへ移るためのきっかけを作ったのかもしれません。
●主要諸元 マツダ デミオ 1500GLーX(5MT)
形式 E-DW5W
全長3800mm×全幅1670mm×全高1535mm
車両重量 960kg
ホイールベース 2390mm
エンジン 1498cc 直列4気筒SOHC16バルブ
出力 100ps/6000rpm 13.0kg-m/4500rpm
(すぎもと たかよし)