しかし吸気バルブを小さくしてしまうと、流量を稼ぐことができずピークパワーを確保できなくなります。そこで登場するのが、ホンダが20世紀から使い続けているコア・テクノロジー「VTEC(可変バルブタイミング・リフト機構)」というわけです。吸気側カムにVTEC機構を備えることで、バルブ面積が小さくとも高回転時にはリフト量を増やすことが可能になります。そうして、吸気の通り道を拡大すれば小径ボアでもパワーは確保できるのです。
その結果として、S07B型エンジンは最高出力 43kW(58PS)/7300rpm、最大トルク 65Nm(6.6kg-m)/4800rpmという自然吸気の軽自動車エンジンとしてはトップクラスの性能を実現しているわけです。
ただし、VTECが備わっているのは自然吸気エンジンだけ。ターボエンジンについては、電動アクチュエーターを採用(これも軽自動車としては初めて!)することにより、ブーストコントロールを緻密に行なうことでレスポンスとパワー・トルクのバランスを取っています。
VTECというとスポーツエンジンというイメージがあり、S660が初採用にならなかったことを残念に思うかもしれませんが、ターボエンジンが前提となっているS660にはVTECは不要という見方もできます。もちろん、シビックタイプRにはVTECターボが搭載されていますから、マイクロ・スポーツカーとしてそうした進化を期待したくなるのも自然な話。ただし、シビックタイプRのエンジンではVTECがついているのは排気側となっていますから、VTECを活かす手法は自然吸気とターボで違う部分があるのは理解しておく必要がありそうです。
(写真:小林和久 文:山本晋也)