ZFのそのテスト車両「Emergency Steering Assist」装着車は、前方の障害物に対し、衝突が避けられないと判断すると、ハンドルを切って車線変更してくれます。
と、言葉で淡々と説明すると、「あー、前方にクルマが止まってる。このままじゃぶつかっちゃうから、ハンドル切って避けなきゃいけないな」というゆっくりしたものかと思いますが、そんなことありません。
時速60kmで定常走行し、目前に止まっている車両へ接近します。これはブレーキを踏んだって止まれないという距離まで近付いた瞬間、ハンドルが自動で、一瞬で回転し、車両の向きが変わったと思ったら途端に逆にハンドルを切って車両の向きを直進になったらハンドルをまっすぐに戻してくれます。
車内で撮った写真が大きく傾いているのがわかるでしょう。
時速60kmというと、1秒間で17mほど進みます。60km/hでの制動距離は20mほどと言われますので、判断時間を除いて1秒以内でハンドルを切って戻して直進に戻さないといけません。
しかも、やったことがある人にはわかると思いますが、この作業、まっすぐに戻すのも容易ではないんです。いわゆるカウンターステアが必要であり、切りすぎたり戻しすぎたりということもあります。
さらに、そのハンドルを回すスピードが人間ワザでは無理なスピードくらいで回転させてくれます。二つの手で回すハンドルの速度には限界がありますが、機械で回すなら相当な回転速度まで出せるはずです。
ただし、その避けた先になにもないのを判断することも必要です。そこに生身の人間がいるなら人間を避けるべきでしょう。これらはセンサー技術やその制御をどうコントロールするか、様々なパターンなどを検証する必要があるでしょう。
ABSが出始めのころ、「いや、人間ABSのほうが短く停まれるぜ」と言っていた先輩方がいたと思います。けれど、どんな悪条件にも瞬時に対応可能な人間でも、4つの車輪別々にブレーキをかけることは不可能で、それを誰しも使えるようにするとなると、まったく人間の平均値を軽く越えることができ、ABSは普及しています。
危険回避の自動ステアリングも、人間が出せる以上のスピードでハンドルを回せるとすれば、人間を超えた危険回避が可能になるかも知れません。高齢化社会でのドライバーの腕力の低下や判断の遅れ、よそ見などのうっかりミス、間違った判断などを総合すれば平均値では機械のほうが危険回避のステアリング操作は優れていると言える時代はすぐそこにあると感じました。
(文・写真:clicccar編集長 小林 和久)