高齢者講習を受け、免許更新で危うく不合格となりそうになったその原因は?

〈Mondaytalk星島浩/自伝的・爺ぃの独り言48〉 自分では運転が巧いなんて思っちゃいない。むしろヘタだと自覚している。モーターファン・ロードテストでバイクを採り上げる際、運び役のほかは、燃費試験しか担当させてもらえなかったんだもの。決して巧くない。

 

 4輪に転向し、鈴鹿サーキットで1965年から40年間もレースドライバー第一関門のAライセンス講習会主任を務めたのが不思議なくらいで、これも中嶋悟など名手が現れた後、実技でお手本を示すのは辞めた。

 

 同乗者に運転を褒められるのはくすぐったいが、嬉しいこともある。

 ロードテストで谷田部に通っていたとき、ちょいちょい平尾収先生(ひらお・おさむ:自動車工学の祖。1976年に東京大学名誉教授となった/故人)とご一緒し、運転手を務めた。最初は緊張したが、テスト車の評価であれ、将来技術であれ、偉大な教授にタダで教われるのだからありがたい。

 

 嬉しかったのは運転評————「星島クンはAT車だと左足で巧くブレーキ操作するので感心してたら、直後にMT車を運転してもペダルを踏み間違っだりしないねェ。実は、なにかの拍子に一度くらい間違うんじゃないかと見てたんだョ」とは。先生もお人がわるいャ。

 

「左足ブレーキは、かなり練習したの?」と訊かれ「格別、練習しませんが、発進させる前に膝を叩いて、よーく言い聞かせます」と応えた。

 

 新型バイクを先生方にお届けする際、運転操作方法を教わったところで、出発前、乗車姿勢で膝と足に言い聞かせるのがクセになっていた。

 

 以前話したっけ。往事はギヤチェンジが左足であったり右足であったり、操作も踏み下げ、蹴り上げ、ロータリー式など多様だったから、間違えて変速のつもりで強めにリヤブレーキなんぞ踏もうものなら、たちまち後輪がロックして転倒に結びつく。新車を壊したらクビを覚悟しなきゃならない。

 

 バイクに比べたら、4輪乗用車ATの2ペダル操作はずっと易しい。

 

 アメリカの女性は右足アクセル、左足ブレーキに慣れていて、MT車を運転できない人が多いと聞きかじっていたし、両ペダルの間隔も広め。どだい子供時代に乗ったカートと同じだもの。直ぐ慣れて、当時の普通免許試験用アメ車で左足ブレーキを使ったものだから、教官にたしなめられたほど。

 

 初めてアメリカでレンタカーを借り、MT車を所望したら、試運転させられ、冗談だろうが<スポーツライセンス>を頂戴したョ。

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 褒めてくれて? 嬉しかったもう一人はジャーナリストの池田英三さん。

 

 なにしろ日本で初めてのベストドライバーコンテストに優勝。ダットサンクラブ会員と思っていたら、第1回日本グランプリではトヨタワークス扱い。パブリカでレースに出場。その後、フリーで専門誌に試乗記を書き、モーターファン・ロードテストの評価座談会では常連出席者だった。

 

 コンテストで優勝したくらいだから運転は丁寧かつ巧み。仲間数人&数台で比較試乗すると、燃費が良かったのも池田さんだ。欠点を挙げると、口がわるく、滅多なことで仲間を褒めたりしない。いつぞや私の燃費が彼と同値だったのを見とがめ「あんなにブッ飛ばしたホシさんが同じ燃費なんて信じられん。測り直せ」と息巻いたもの。結果は変わらなかったけどネ。

 

 彼とは海外試乗会でもよく一緒に走った————正直言うと、彼と同乗したがらない御仁が多く、たいがい損な役? が私に回ってくるためだ。

 

 

 その池田英三さんが、デスバレー辺りだったか。いきなり「判ったァ」と大声を発したので「なにが?」と訊き返したら「ホシさんがガスを食わせないのは、ブレーキを踏まないからだ!」と。

 

 たぶん助手席で、自らも運転気分だったに違いない。

 

 ブレーキを踏まない、なんて「聞こえ」がわるすぎる。停止すべきは停止、減速すべきは減速している。でも彼の運転感覚に照らすと、ペダルを踏む頻度が少なく、踏んでいる時間が短かかったんだろう。そのぶん、ふっ飛ばしているように見える割に燃費が良かったのだ。

 

 万事その調子で運転批評されると、若手ジャーナリストは、たまったもんじゃないわけで。同乗を敬遠する向きが多かったのも当然か。

 

 同乗者に不安感を与えないよう、もっと丁寧に運転しろョと、暗に叱られたのかもしれないが、そんな、ハナから遠慮がちに物が言える池田英三さんじゃないことは百も承知。彼らしい褒め言葉として記憶に留めている。

 

 ここまで。読み返したら今回は随分な自慢話。それも池田さんと一緒に走っていたのは25年も前。今はすっかり老いぼれて、超高齢者講習で記憶力・判断力はマシな部類だったのに、視力がダメ。免許更新でも危うく不合格になるところだった。明らかにメッキが剥げ落ちている。

 

 視力検査で、ほんとに読めなかったのだ。15分ほど休み、再検査で泣き泣き合格したが、20回にも及ぶ免許更新で初めて。不合格宣告ショックも大きかったが、なにより視力悪化に自信を失う。このままでは、免許証があっても運転すべきではない。そろそろ「消え去る」時機が近づいた。

 

 早いとこ、小さな絵でも描きながら余生を送ると決めなければ! ★

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