以前に『トヨタAqua(アクア)に隠された空力テクノロジーの数々とは?』でも触れましたが、車両の操縦安定性(操安性)に大きく寄与するのが「空力性能」。
レーシングカーではダウンフォースを得る為に車両前後に大型スポイラーを装着するのが定番ですが、市販車の場合には空気抵抗による燃費への影響などのデメリットが有りました。
そこでトヨタは現行86の開発途上で燃費に影響を与えずに操安性を高めることが可能な空力アイテムを模索していた際、そのヒントを海洋生物に求めたと言います。
その結果が「カジキ」に行き着いたとか。その理由は水圧抵抗の大きい海中で最速の「130km/h」を誇る魚類だったからというもの。
「カジキ」のプロポーションである胴幅÷体長の比率=0.14を模した 「エアロ スタビライジング フィン」なる空力アイテムを新たに生み出すこととなり、トヨタ86のフロアアンダーカバーやリヤコンビランプの側面に採用されました。
現在では86以外にもカムリやアクア、GS、新型LSやなどのドアミラーベースやリヤコンビランプ側面、フロアアンダーカバーなどにそれぞれ横展開されています。
「車を速く走らせるうえで一番重要なのは空力を制御すること。その為には車の上下だけでなく、車の横もスムーズに気流を流す必要がある」とはトヨタ86の多田チーフエンジニアの弁。
その後の研究成果で 「エアロ スタビライジング フィン」をボディ側面前後の適切な位置に複数装着すると、より顕著に操安性が向上することが判明したと言います。
そのメカニズムはフィンの後方に渦状の「タービュランス(乱気流)」を発生させ、まずドア部フィンの作り出す渦がボディ側面を流れる空気の剥離を抑え、次に後方Cピラー部フィンの作り出す渦がリアウィンドウやトランク部などで発生する空気の剥離を抑制するといった具合。
これにより空気抵抗が減り、車速が上がるにつれて渦がボディー側面を支えて車体を安定させる模様。早い話が走行中に車両廻りの空気をボディ側面にまとわり付かせることで「遊び」が低減するという訳です。
見た目は小魚程度のパーツながら、その効果は大きく、高速時は勿論のこと、50~60km/h程度でのコーナリング時にも変化が体感できるとか。また風切り音の低減にも繋がる模様。
こうした技術は「バイオミミクリー」(生物模倣技術)と呼ばれており、以前に話題になった水泳競技用のスイムウエアや、新幹線のパンタグラフの騒音低減でも採用実績が有ります。
今回開発された後付けタイプの「エアロ スタビライジング フィン」はトヨタ86用に限らず、マークX用や新型オーリス用にも純正オプションパーツが用意されています。(15,750円/台)
「形状」が全ての技術なので意匠工夫でフィンを一体整形すればコストアップ「ゼロ」も可能。
このように「エアロ スタビライジング フィン」はスポーツカーで開発された技術が一般車にフィードバックされた好例と言えそうです。
【写真ギャラリーをご覧になりたい方はこちら】https://clicccar.com/?p=206522