知らないうちに250km/hまで達する…かも知れないので要注意!?【Audi S8試乗】

アウディが日本でも、世界でもその販売台数を伸ばしているのは、プレミアム性。他のクルマとは違った何か、他人が持っていない何かを求めている余裕のあるユーザーに、今旬なブランドとして、もてはやされていると思います。

そのプレミアム性とは、すべてにおいてこだわりを持った作りとしていること。それぞれのパーツ、製法、機構など、ベーシックな仕様でも、それなりのものを選んで大量生産だからしかたがない、というの部分を極力排しています。

共通部品を多く利用しながら、コストまで含めて世界一を目指している同門のフォルクスワーゲンと対照的とも言えます。

そのアウディの中でも普通と言えるAシリーズをさらにプレミアム性を高めたのがSシリーズです。

見た目には大きな変化を付けず、走りも質感も大きく進化させたものがアウディの中でもひとクラス上のSシリーズとなるわけです。

今回、その中でも最上級に位置するS8に試乗しました。

全長は5mを約15cmオーバーし、全幅は2mより5cm短いだけ、重量は誰も乗ってなくても2tオーバー、価格は素(す)で1580万円、オプションを含めるとほぼ2000万円です。正直言ってドアを開けて乗り込むだけでも緊張します。

ところがそんな緊張の中、駐車場から動かしだしてみると、意外にもストレスなく動かすことができます。

これほどの大柄なボディのクルマって、動かした瞬間からモワン、と動き出したり、アクセルとかステアリングとかが妙に軽くて、思った以上に動いたりすることがありますが、そんな違和感はまったくありません。

それは、一般道や高速道路のETCゲートを通っても同じです。

しかし、高速道路で走り出すとちょっとだけ違和感が。周りのクルマがやけに遅い。スピードメーターの針がタコメーターのように上がっていく。おーっと危ない。スピード違反をしてしまうところでした。

このようにスピードメーターの針を気にしていないといけません。フツウにアクセルを開けるくらいでは、どんな速度域でも恐怖感、ドキドキ感などはありません。

エンジンは、このプレミアムフルサイズハイパフォーマンスカーといえど、省エネを意識しなければならない時代です。以前のV10からV8エンジンにダウンサイジングがなされています。さらに、アクセルを一定に保った定常走行では、V8エンジンの半分の気筒を休ませて省燃費に貢献します。

その切り替わったかどうかも、メーターの「4気筒モード」という表示を見ながらエンジンのエンジンのわずかな変動を気にしていれば「あー、ここかな」とわかる程度です。

これには、天井に取り付けたマイクロフォンで取り込んだノイズと逆位相の擬似的ノイズで車内騒音を打ち消しているせいも大きいかも知れません。

20数年前に国産車にもあった理論、技術ですが、これくらいのクラスで静粛性を高め、最後の部分で使う、というのが正しい使い方だった、ということでしょうか。

追従型オートクルーズにも実用性を感じられます。ただ、そのセットできる速度は250km/hまで可能です。写真のようにスピードメーターの周囲にあるLEDで確認ができます。

で、うっかり250km/hなんかにセットするとその速度まで前走者がいなくなればグイグイ加速しちゃうので注意も必要です。ただ、例によってすべての動きが自然で、スピードメーターを気にしていなければ気付かないほどです。

アクセルを踏めばあり得ないくらいの加速力を見せますが、ブレーキングも強大です。車両の姿勢変化も感じさせず、異次元の走りに夢中になって降りるべきIC出口に気付くのが遅れ、少しだけ強めにブレーキをかけると、助手席に置いたカバンが飛びそうになるくらいの制動Gを出していました。またまた驚きです。ちなみに試乗車にはもっとも高価なオプション、124万円のカーボンブレーキが装着されています。

なにをやらせても超一級、それでいて人にも優しい。そんな生徒会長で運動部のキャプテンでヤサ男みたいなS8です。ただ、友達になるときにスペックを気にしていないように、S8と気が合うかどうかは個人によって好みが別れるのかもしれません。と、思うのは自分自身も周囲も庶民しかいないからかもでしょうね。

(小林和久)

 

この記事の著者

編集長 小林和久 近影

編集長 小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務める。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
続きを見る
閉じる