ダイナミックな走りをシャープなボディで表現した上級ハッチ。シトロエン XM【ネオ・クラシックカー・グッドデザイン太鼓判:輸入車編】

■最上級車として異例のハッチバックスタイル

80~90年代輸入車のグッドデザインを振り返る本シリーズ。第23回は、時代の流れに惑わされない強い個性を持った、先進的な上級フレンチハッチバックに太鼓判です。

XM・メイン
BXよりもさらに直線的なウエッジシェイプボディは、異例のハッチバックスタイル

1982年に登場したBXは、直線基調のスタイルによりシトロエンを新世代へイメージチェンジさせることに成功。そんな中、実質的にCXの後継となる最上級車として1989年に発表されたのがXMです。

90年代を間近に、デザインの傾向が再びラウンドフォルム向かう中、BXよりさらにシャープなウエッジシェイプとしたフォルムは、最上級車として異例のハッチバックスタイル。これは、新しいV6エンジンとハイドラクティブサスペンションによる走りをダイナミックに表現します。

低く長いノーズと、高く短いテールに組み合わせれる大きなキャビンとのバランスは良好。Cピラーの下で段差を付けたベルトラインが、ハイデッキと相まって強い前進感と先進性を生み出します。

XM・リア
高く厚いリアパネルはキャラクターラインによってガラス面とランプに分割される

そうして比較的動きの大きいアッパーボディに対し、一直線に伸びる強いキャラクターラインと、同じく前後バンパーを結ぶサイドモールの平行線が一定の落ち着きを担保し、全体の不安定感を払拭しています。

超スリムなフロントは、しかしグリル形状にシトロエンらしさが。一方、高く厚みのあるリアではキャラクターラインの高さで上部のガラス面と下部のランプを違和感なく分割。そのシンプルな長方形のリアランプが、未来的なボディに量産車としての現実感を与えます。

■思い付きではない個性とは

XM・インテリア
近未来的なインテリアはPSAのアドバンスドスタジオの案が採用された

インテリアは、大胆にスラントしたダッシュボードと直線的なメーターナセルの組み合わせがエクステリアとの関連性を表現。さらに、フラットな1本スポークのステアリングホイールもまたボディの未来感と見事にマッチングします。

スタイリングは4つのチームによるコンペで行われ、BXに続きベルトーネのエクステリア案が採用。冒頭の通り90年代の流れと相反するような直線基調でありながら、そうした時代感を越えた新鮮さを打ち出しました。

変則的なベルトラインやピラーの形状は近年も多く見られますが、重要なのはそれがボディ全体のテーマになり得ているか否か。単なる思い付きや部分的な特徴でなく、それが後の時代まで語られるスタイルを構成していることがXMの素晴らしさと言えそうです。

●主要諸元 シトロエン XM-X (4AT)
全長4710mm×全幅1795mm×全高1395mm
車両重量 1510kg
ホイールベース 2850mm
エンジン 2975cc V型6気筒SOHC
出力 170ps/5600rpm 24.5kg-m/4600rpm

(すぎもと たかよし)

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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