【自動車用語辞典:空調「概説」】快適な車室内空間を生み出すための空調システムとは?

■暖房、冷房のほか除湿や空気清浄も

●近年は燃費性能も重要に

現在クルマの最重要テーマは燃費と安全ですが、一方で車室内の快適性についても高いレベルが求められています。空調システムは、多くのセンサー情報を使って車室空間の温度や湿度、空気質が快適になるように制御します。

エンジン車および電動車の空調システムについて、解説していきます。

●冷房システム

冷房は、冷媒の気化熱を利用します。まず、コンプレッサーで冷媒を圧縮してコンデンサー(凝縮器)へ送ります。ここで凝縮液化し、エキスパンジョンバルブ(膨張弁)で低温低圧の霧状冷媒にします。最終的に、エバポレーター(蒸発器)で霧状の冷媒を気化させて、その気化熱でエバポレーターを通過する空気を冷やします。

コンプレッサーはエンジン駆動なので、真夏の冷房使用時には条件にも依りますが、燃費は10~20%程度悪化します。
電動車の場合は、エンジン駆動でなく電動コンプレッサーが使われます。

●暖房システム

エンジン車の暖房システムは、エンジン冷却水を熱源にする一種の廃熱回収システムです。したがって、冷房のようなコンプレッサーの駆動損失による燃費悪化はありません。

エンジンの冷却水が燃焼による発熱によって80℃程度に暖まると、ウォーターポンプによってラジエーターとヒーターコアに供給されます。ヒーターコアに送られた冷却水は、ヒーターコアを通過する空気を暖め、この温風が車室内に送られます。

冷房システムの基本構成
冷房システムの基本構成
暖房システムの基本構成
暖房システムの基本構成

●オートエアコン

オートエアコンは、燃費への影響を最小限にするようにパワートレインも制御しながら、温度や風量、湿度などを制御します。適正に制御するために、温度や湿度、日射量、排ガス濃度などの情報をさまざまなセンサーで検出します。

ドライバーがマニュアル操作で調整するよりも、オートエアコンの方が燃費については良い結果が出るはずです。

オートエアコンのシステム
オートエアコンのシステム例

●電動車のためのPTCヒーターとヒートポンプ

HEVやEVなど電動車では、エンジンの運転頻度が低い、あるいはエンジンがないので廃熱が利用できません。電動車を中心に、熱源としてPTCヒーターやヒートポンプが使われます。

PTCヒーターは、半導体セラミックを発熱体にしたヒーターで、電流が流れると即座に温度が上昇します。空調ユニットにフィンを設けて搭載する空気ヒーターと、水を加熱して温水を循環させて暖房を行う温水ヒーターがあります。

ヒートポンプは、気体を圧縮や膨張させると温度が変化するという性質を利用して、熱エネルギーを移動させる技術です。少ないエネルギーで冷熱源と温熱源を作ることができ、通常のヒーターに比べて高いエネルギー効率を得ることができます。

エンジンの駆動力や排熱を利用した冷暖房システムが使えない電動車では、ヒートポンプが主流となっています。

●車室内の空気清浄

車室内の乗員を不快にする、あるいは健康を害する空気質には、車外から侵入してくるものと車室内で発生するもの、さらに空調ユニット内で発生するものがあります。

車外から侵入してくるのは、排気ガスや塵埃、花粉などです。室内で発生するのは、タバコや乗員の体臭、内装部品からの有機成分などです。また、結露が発生しやすい空調のエバポレーターは、カビや雑菌が発生しやすく、エアコン作動時に異臭を放つことがあります。

一般的に採用されている空気清浄技術としては、集塵や脱臭、抗菌・防カビなどがあります。きれいな車室内空気を確保するために、多機能フィルタに加えて光酸化触媒やイオン発生器などを採用している例があります。


空調システムは、快適性と燃費を高い次元で両立させることを目指して、高精度に制御しています。

本章では、エンジン車おおよび電動車の最新の空調システムについて、詳細に解説します。

(Mr.ソラン)

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この記事の著者

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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