【自動車用語辞典:空調「暖房」】エンジンで温まった冷却水の熱により車内を暖める排熱回収装置

■ヒーターコアに送られた冷却水で空気を暖める

●EV向けには別システムが存在する

通常エンジン車の暖房は、エンジンの冷却水を熱源とする「温水暖房方式」を採用しています。一方でエンジンの運転頻度が低い、あるいはエンジンを搭載しない電動車用の新しいヒーターシステムも登場しています。

暖房システムの仕組みと原理について、解説していきます。

●暖房システムの基本構成

エンジン車の暖房システムは、エンジン冷却水を熱源にする一種の廃熱回収システムです。したがって、冷房のようなコンプレッサーの駆動損失による燃費悪化はありません。

エンジンの冷却水が、エンジンの発熱によって80℃程度に暖まると、ウォーターポンプによってラジエーターとヒーターコアに供給されます。ラジエーターに送られた冷却水は、走行風によって冷やされます。

一方のヒーターコアに送られた冷却水は、ヒーターコアを通過する空気を加熱し、この温風が車室内に送られます。

最近はエンジンの熱効率の向上によって、エンジンの廃熱量が減少してヒーターのための熱源が不足する傾向があります。電動車では、そもそもエンジンの運転頻度が低い、エンジンがないので廃熱が利用できません。

電動車を中心にエンジン廃熱ヒーター以外の熱源として、PTCヒーターやヒートポンプが使われています。

●ヒーターとA/Cスイッチ

ヒーターを使う時には、通常はA/CスイッチをON(コンプレッサー作動)する必要はありません。コンプレッサーを動かさなくてもブロアファンでヒーターコアを通じて温風を車室内に送ることができます。

ただし、外気温と車室内温度差が激しく窓ガラスに結露が発生した時には、除湿のためにA/Cスイッチを入れるのが効果的です。

●ヒーターコア

ヒーターコアは、熱いエンジン冷却水で空気を加熱する熱交換器です。エンジン冷却水の通るチューブと放熱用フィンで構成され、プレートフィンタイプやコルゲートフィンタイプなどがあります。風を送るブロアファンとともにダッシュボード内の空調ユニット内に収められています。

ヒーター使用時の車室内の温度は、ウォーターバルブによる冷却水流量の調整や、エアミックスダンパーによってヒーターコアを通過する風量を調整して制御します。

暖房システムの基本構成
暖房システムの基本構成

●PTCヒーター

PTCヒーターは、半導体セラミックを発熱体にしたヒーターで、電流が流れると即座に温度が上昇します。最大の特徴は、ある温度に達すると抵抗が増えて発熱量が減少し、本体温度を一定に保つ特性を持っていることです。

エアコンユニットにフィンを設けて搭載する空気ヒーターと、水を加熱して温水を循環させて暖房を行う温水ヒーターがあります。空気ヒーターは、エアコンユニット内に搭載してヒーターコアを通過する空気を直接加熱します。温水ヒーターは、PTCヒーターによって水を加熱してウォーターポンプで温水を循環して暖房を行います。

電動車の多くは後述のヒートポンプと組み合わせて使っていますが、エンジン車でも寒冷地の暖房促進用に利用している例があります。

暖房システムの比較
エンジン車とEVでは暖房システムが異なる

●ヒートポンプ

ヒートポンプは、気体を圧縮や膨張させると温度が変化するという性質を利用して、熱エネルギーを移動させる技術です。少ないエネルギーで冷熱源と温熱源を作ることができ、通常のヒーターに比べて高いエネルギー効率を得ることができます。

エンジンの駆動力や排熱を利用した冷暖房システムが使えない電動車PHEVやEVでは、ヒートポンプが使われています。

なお作動原理の詳細については、別頁で解説します。


エンジンの熱効率の向上は、燃焼による発熱が有効に仕事に使われ、廃熱量が減少することを意味します。今後は、エンジンの廃熱が期待できない電動車がさらに増えます。

これらを背景に、エンジンを熱源とする現行のエアコンシステムとは違うPTCやヒートポンプのような代替システムが、重要な役割を果たします。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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